In Conclusion 終わりに話すこと
<トレイルのまとめ> 
 2010年のPCTは多くの経験者にハードな年だと言われ続けた。全体を通して冷夏で夏らしい日が少なかったように思う。雪のメキシコ国境に始まり、雨の降らないと言われたカリフォルニアで多くの雨に降られ、暑いはずのデザートエリアで寒さに凍えた。雪も多くたくさんのハイカーがスキップや迂回路を取りながら進んでいたことも印象的だ。そのせいか、早いうちから多くのリタイアを目にした。雪の中をさまよったシエラネバダ。その後スピードアップで、自分だけでなく、たくさんのハイカーが故障した。数度あった火災による迂回。すんなりとは行けなかった。雨と寒さのオレゴンからワシントン。不安定な天気が続いた。そのせいで雷も起きやすく、それが原因の山火事に遭遇したこともあった。2009年では雨はせいぜい3日続いたくらいだったらしい。PCTの旅は長い。この長い旅の中では多くの出来事がおき、そして自然を相手にするため、思い通りに行かないことばかり。短い時間ならばまだしも、これだけの距離と時間となれば、その場でいかに対応出来るかを問われているようでもあった。この旅では今までに無い心のつながりを持てる仲間達との出会いがあった。これは今まで多くの旅をしてきた中ではなかったことだ。おそらく同じ一つの目的に向かい、それぞれの手段は違っていても、ひたむきに向かい続けていたからだろう。心を同じくする者、同志、という言葉を初めて理解できた。

<後日談>
 
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旅を終え、出発の朝。真ん中はGuthook。左上はTangent。右側はTick。かけがえのない仲間達。みんなすっきりした顔をしているのは、お風呂に入って綺麗だからというわけではないだろう。

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 Manning Parkからはグレイハウンドバスに乗りバンクーバーまで向かい、そこからアメリカに戻り、日本へと戻った。Manning Parkで届いていなかった荷物は結局次の日に発見された。わざとらしく、今日届いた、というようなことを言っていたが、どうやら昨日見つけられなかっただけらしい、フロントの女性がばつが悪そうに僕から目をそらしたので間違いないだろう。これも旅らしさかも知れない。

 テンジンと奥さんは車で観光をしながらシアトルを目指し、その後アムトラックに乗って家に帰ると言っていた。ティックとガットフックとは同じバスに乗り、バンクーバーへ行った。ティックとはバンクーバーで別れたが、ガットフックとはシアトルまで一緒だった。
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 バンクーバーには一日だけ滞在して、少し街中を回った。もっとゆっくりできたら良かったが、街は何かにつけて高い。日本人の経営している博多風トンコツラーメンはなかなか美味しかった。

 お母さんとその友人がガットフックを迎えに来ていて、一旦は彼とは別れたのだが、電話があり、シアトルまで一緒に連れていってくれることになる。ありがたい。車中ではアウトドアギアの話で盛り上がる。なんとか冬でも暖かく過ごせる軽量なシェルターは無いだろうかとか、新しいウェアの素材の話でも盛り上がる。日本だけじゃなくてアメリカにも道具オタクがいるんだと実感。たしかにガットフックは持っているものも、そんな感じがしていたけど。シアトルのREIでは道具を買い足しに来ていたPCTハイカーと僕らと同様に終わったPCTハイカーに出会った。その中の1人はテラピンといい、カリフォルニアで会って以来だった。日本食レストランで夕食をともにして、その後ガットフックとは別れたが、今でもFacebookでつながっている。

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 次の日は一日シアトル。何度目かなので良く知っているが、それでも楽しい。のんびりとした街の生活を楽しんだ。泊まったホテルは安かったが部屋が広く、悪くなかった。それに、空いていたとかの理由で広い部屋になったので、余計に居心地は良かったし、大好きなPike Place Marketも近かった。フロントの男性はPCTのことを知っていて、その話をしたら『おめでとう』と言ってくれた。改めて行ったREIの帰りに偶然テンジンに会う。ハイカーはシアトルに来たら必ずといっていいほど、なぜか、REIとその近くにあるフェザードフレンズに寄ってしまう。なんて単純な。

 日本への帰りの飛行機を何度夢見たか。寂しくも、やはり日本へ帰れるのは嬉しかった。なによりも妻に会えることが嬉しかった。涙で別れたあの日から約5ヶ月。妻は笑顔で、トートバッグからネギを出して笑っていた。


 僕の一番の相棒であったチャーリーも10月に入り無事にカナダ国境を越えた。別れてからもメールでやり取りしていたのだが、お互いに愚痴り合い、泣き言を言い合った。彼はワシントン州に住んでいるので余計にあの雨の多さにはうんざりしたようだった。それでも途中娘のニコラと一緒に歩いたり、同志とともに歩ききったとのことだ。残念なのは仲の良かった、Not a Chance、Croatian Sensation は残り250miでリタイアしてしまった。彼らの地元が近く過ぎて、ホームシックになってしまったようだ。心が折れたのだろう。でもこのカップルは2009年にはYasと共に歩き、2010年は僕と歩き、どちらもスルーハイクできなかったが、2012年にはメキシコ国境からカナダ国境まで歩いた。時間はかかったけれど、すばらしい、うれしいできことだ。 ダニエルとジョーの兄弟は、別々に歩くことを選択した。結果ジョーは親に引き戻されてしまう。まだ16歳だからそれもしかたない。兄のダニエルは時間はかかったがカナダ国境を越え、帰りにはチャーリーの家に寄っていったらしい。

 チャーリーとは2011年のキックオフパーティで再会。2012年にはチャーリーの家に遊びに行くことができた。彼とは年が25も離れているけど、いつも対等に話が出来る、いまでも最高の相棒だ。


<思うこと>
 正直なところ、PCTを歩いたからと言って、何かが変わるわけでは無いだろう。なんとなく想像するウィルダネスなんかとは離れているものだと僕は思うから。どんなに人里離れた山奥でも、そこに何日いようとも、それは人間の文明から離れたことにはならないと僕は感じた。むしろ、離れれば離れるほど見える人の営みと文明。自然はこんなにも近く、人に荒らされても傷つけられても寄り添うようにそこにいるのだ。長い旅路の中、非日常だったものが日常に変わる。その今までに無い日常の中から見えてくる自分。これほどまでにシンプルに生きることが出来ると教えてくれる。だが、いまこうして、いまそうして、自然に入り楽しめていることこそ、それ自体が文明の成せる技でもあるのだ。文明が無ければ、人はいつまでも自然を畏怖の存在と捉え、内部へ入り込むことを恐れただろう。けれども人間は文明を手に入れ、その力を持ってして自然へと分け入っているのだ。それを忘れてはならない。決して驕ってはならないのだ。

 PCTを、ロングディスタンスハイキングをしたからといって人生は何も変わらないし、変えられない。けれども、その経験をもとに自分を変えることは出来るかも知れない。僕はこの旅で人間の弱さを知った。そして人間の強さを知った。
 何もできないかも知れない。何も変わらないかも知れない。でも、少しずつでも進んで行けば、どんな途方も無い距離だって歩けると教えてくれた。少しずつでも進んでいけば、いつか出来るかもしれない。いつか変わるかも知れない。
 僕にとってこの旅は人生で最も長い旅の一つになっただろう。けれども、僕の旅は続いている。あのバックパックを一つ背負って電車に乗ったあの時から、自転車にまたがりひたすら漕ぎ続けたあの時から、そしてこれからの旅へと続いているのだ。これは終わりでは無い。新たな始まりへと踏みだしたのだ。

<ハイキングのこと>
 改めてハイキングの奥深さを知った。Hike、Hikingとは、泊まる道具を持って野山を歩き旅すること、を意味している。そもそも泊まりながら旅をすることがハイキングなのだ。そして、それはデイハイキングという行為から始まる。デイハイキングはハイキングへのもっとも近い入り口なのだ。歩くとは人間が移動する為に生み出した手段。そのもっとも根源的な手段を用いて人は旅をして移動してきた。歩いて旅をする、ハイキング、という行為は人間の本来持っている移動する力を認識させ、無意識に喜びを与えてくれる行為なのだ。だからこそ、ハイキングの門戸はとてつもなく広く低い。そしてその奥行きは途方も無く広く深いのだ。ハイキングに距離なんて関係ない。時間も関係ない。そう、長距離を歩き終えたからこそ、僕は思える。小さな一歩は、たくさんの歩みにつながっている。だから自由に歩いて欲しい。そこが登山道かどうかなんて関係ない。自分が歩ける道を歩いて旅をすること、自分が出来る範囲で歩いて旅をすること、そしてそれを楽しむこと、それがハイキングなんだと思う。そう思いたい。

 こうじゃなきゃだめ、ああじゃなきゃだめ、そんなことは無い。大きく漠然として分かりにくいことだけど、それでも諦めちゃだめだ。これを伝えることを諦めちゃだめだ。その為にもいつか、時間があったら、もし気が向いたら、ぜひ旅に出て欲しい。歩いて欲しい。まずは近所の5分からでも良い。いつかそれが数ヶ月の旅へとつながっているはずだから。そう信じたい。

I’m happy when I’m hiking.
We’re happy when we’re hiking.
Happy trails for all hikers.
Happy hikes for all hikers.
See you on the Trail!
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Shin "Turtle"
2010 PCT Hiker
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by hikersdepot | 2013-05-21 17:49 | PCT 2010 by Turtle


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