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Stehekin, WA to Manning Park, BC, CANADA/ Day154–157/ Hiking Day124-127/2574.4mi-2664.2mi/89.8mi/①
9/22(Wed) Hiking Day124/ 21mi/ 9:00am- 6:10pm (9:10) /NB 2595mi
4 days left!!!!!!
“Could”

 とても嫌な夢を見る。寝た気がしない。どう考えても良い精神状態とは言えないだろう。それは自分でも良く分かっている。足は痛い。夜と変化無しといったところだ。自分でも我慢しているだけで、思っている以上に不安で不安でしかたないのだろう。

 もし途中で歩けなくなったらと思うと本当に恐ろしい。こんな状態で行くべきではないだろう。『体調の悪い時や天候の不安定な時は登山を中止して下さい。』なんていう文句が頭に浮かぶ。その通りですよね。僕だってこれが日帰りだったりしたら行かないだろう。仕事だって休んでしまいたいぐらい痛いのだ。でも今はちょっとわけが違う。旅はクライマックス。なんとしても、這ってでも進みたい。

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 Stehekinの朝はとても美しい。今日の天気は晴れのようだ。Stehekinは多くのPCTハイカーがもっとも素晴らしい町、として名前を挙げることが多いようだ。町というには小さく、本当に限られたコミュニティ。どういう地理かいまいち分からなかったが、ここは船か飛行機もしくは徒歩でしか来ることのできない、隔離された土地なのだという。来るのに時間もかかるし、お金もかかる。それが分かれば、ここに来ている人達がどうしてこんなに優雅にくつろいでいるのかも分かる。

 出発ができる用意をしてから朝食を食べにレストランへ向かう。シンプルにトーストとハッシュドブラウン、卵とソーセージの組み合わせにする。注文だけしてから電話をしに行く。たいして遠くないのに早歩きもできない。

 今日は電話に出てくれる。今いる場所と今の状態を説明する。説明した所でどうにかなるわけではないのだ。不意に涙が溢れ出す。声がくぐもる。堪えていた不安が吹き出したのだ。涙が止まらない。
“歩かなくたっていいじゃない。これで歩けなくでもなったらどうするの?”
妻の優しくも厳しい声。ぐっと胸にくる。悔しくて、悔しくてたまらない。最後の81miを楽しく、うれしく過ごすはずだったのに、僕の足は言うことをきかない。辛く苦しい81miになるだろう。あと81miを目の前にして立ち止まれる訳が無い。これは蛮勇か、はたまた挑戦か。僕の人生を端的に表しているようにも思えてくる。スマートにはいかないのだ、不器用にも一歩ずつ行くしかない。これが僕だ。
“歩かないで”
という励ましの声を受け止め、進む決意が固まる。

 決戦の前の腹ごしらえ。ボリューム満点の食事をお腹いっぱい食べる。これが最後のPCT上のレストランで朝食。エネルギーもしっかりと蓄える。天気は約10日ぶりとなる、すっきりとした青空。いざ。

 バスでトレイルヘッドへ戻り、9:00amころ出発。足をかばいつつ、一歩をしっかりと歩く。完全に左足にほとんどの負担。右足が強い僕にとっては、左足をメインにして歩くのは大きいリスク。だからこその丁寧さが必要そうだ。

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 トレイルは川沿いにずっと進んで行く高低差の少ない道。しばらくは急斜面もあるが、それほど長くはない。上がりきってしばらく行くと東側に美しいCoon Lakeが現れる。高層湿原的な優美な雰囲気に囲まれている。

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 足は思っている通りに痛い。休憩のときには痛み止めを飲む。痛み止めといっても市販の痛み止めだからそれほどの効果があるとは思えない。実際に痛みは変わらない。けれど、炎症を抑える効果もあるのだからそちらに期待したい。天気は本当に素晴らしく、しかし景色を見る余裕も写真を撮る余裕もない。みんなを追いかけるのに精一杯だ。言葉では交わさなかったけれど、みんな心配してくれているらしく、時々僕を待つようにゆっくりと休憩してくれている。

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 トレイルは谷に合わせて緩やかに伸びている。いくつ目かのクリークにはトレイルとその上に橋がかかっている。トレイルは沢の一部と化している。おそらくはここが増水した時の為に架けた橋なのでは無いだろうか。3人は橋の上に行ったけれど、僕は濡れても良いので下の道を選ぶ。

 もっと遅いスピードになると思っていたら、意外に悪くないペースで上がってくる。これは今までの鍛えがあってのものかな。それとも意志の力か。3人とも意外と早いじゃん、みたいな顔をしている。途中では、先に出ていたらしい、トランジエントにも追いついた。

 このトレイル沿いにはいくつものキャンプサイトがあるようなのだが、そのどれも道からそれている所にあるので、どんな場所かは分からない。川だって沿っているはずだけれど、ほとんど見えない。本当に長い谷のトレイルが北から西に向いた後、再び北に向く時に大きな分岐に当たる。

 ちょうどそこに着いたとき先に行っていた3人がレンジャーと話をしているのが見える。女性のレンジャーで腰には大きな拳銃をぶら下げている。彼女達、レンジャーには拳銃の所持が認められ、指定地によっては逮捕などの権限も与えられている。僕も話に混ざりたいのはやまやまだけど、足を冷やして休みたいと思い、すぐに座り込む。みんなが話している間に川へ行き、水を汲み、足を川に浸けて冷やす。痛みがすうっと薄くなるのが分かる。

 またみんなの元に戻るとまだ話し込んでいて盛り上がっている。この時ばかりと僕は軽く食事を取る。後ろを歩いていたトランジエントも追いついてくる。彼が話し始めたとたん空気が変わる。また何か変なことを言っているのだろう。レンジャーもむっとした顔をしていし、撃たれなきゃいいけど、なんて心配してしまう。レンジャーは明日からまた天気が崩れる予報だから気をつけてと情報を教えてくれて去っていく。

 また歩き出し、今までよりは少し斜度を上げて進む。平凡な森の中を北へとひたすら向かい歩く。みんなの姿はもうさっぱり見えない。まあまたどこかにいてくれるだろうことを信じて進もう。トランジエントをまた抜いて1人黙々と歩いて行く。HWY20を目指し、もうすぐのはずが意外と長い道のり。小さな橋を越える。もう道路に沿っているはずなのに見えず、辿り着かない。

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 6:00pm少し前にやっとHWY20、Rainy Passへと到着する。Rainy PassはPCT最後の幹線道路。綺麗な舗装路を見るのはカナダに入るまでもう無い。みんなの姿が見えないと思ったけれど、道路脇に座り込み僕を待っていてくれる。ほんとうはこの近くのピクニックエリアでキャンプなどと考えていたのだけれど、思いの外距離があるようで躊躇する。PCTは道路を横切り向かいにあるTHへと続いている。だったらTHまで行って様子見だと歩いて行く。車が10台以上止められそうなParking Lotに見慣れた形の規格品トイレ。その側には開けたキャンプしやすそうな木立があるので、じゃあここで、ということになる。今日は約20mi強を歩いた。歩けた、僕としては歩けたことがただうれしい。歩けなくなるのではという不安があったから余計だ。しかし歩けたのだ。20mi 足を引きずりながらでも歩けたのだ。

 一台の車が近づいてくる。ここの駐車場には一台も車が止まっていないし、時間が時間だけに何か突っ込まれたら面倒だな。ところがその車の中から出てきたのは笑顔の子連れの夫婦。
“やあ、スルーハイカー達!”
そう声をかけてくる。
“今、そこの道路を通っているハイカーを見かけたんだよ!”
とても感じの良いご夫婦。トランジエントが歩いてくるのが見える。不意の出会いにも関わらず、あるものを出して来てくれて僕達に振る舞ってくれる。不意のトレイルマジックだ。ネクタリンにアップル、ソーダも!僕の好きなものばかり続々だ。彼らもPCTスルーハイカー。2003年に歩いたらしいのだが、その時は雪も少なく楽な年だったらしい。
“君たちはすごいよ。こんな雪が多い年に歩くなんて。それに天候もずっと不順だしね。素晴らしい!”
そう、褒めてくれるのはうれしいけど、僕やガットフックはこの年のPCTしか知らない。雪が多いと言われてきたし、寒い年だとも聞いている。ここのところは雨の多い年だと言われているが、それも本当の所は分からないでいる。しかし経験者にここまで言われると初めて、本当にそうなんだなぁ、と実感する。

 夜は集めた薪で焚き火をして暖まる。気温はグッと冷えてきて、5℃以下に下がる。明日の天気は分からないけれど、今は星空。あと予定3日の行程。足のことが心配だけに、どうか天気には少しでも恵まれて欲しい。けれど、僕の願いは叶わない。だったら、願わない。全て受け入れるしかない。明日のことは明日になればわかる。たとえ雨でも、そしたらそれなりに行くっきゃないだろう。もし、雨でまた服が濡れてしまった時のことを考えて、アンダーウェアのみで裸に近い状態で寝てみよう。この寒さに耐えられるなら問題ないだろう。

 きっと乗り切れる。今までもそうしてきたのだから。大丈夫。あと3日。



9/23(Thur) Hiking Day125/ 25mi/ 6:50am- 6:30pm (11:40) /NB 2620mi
3 days left!!!!!!!
“Snow”

 朝方にパラパラと音がする。やはり、みなの大方の情報通り、雨がふってきたようだ。どうしようも無いことだと分かりながらも、やっぱり晴れて欲しい。雨と寒さに合わせて準備をする。出発前にトイレに寄り、出る頃には雨が止み始めている。晴れ間も少し見える。上だけはレインウェアを脱いで出発だ。


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 気温は5℃くらいだろう。じっとしていれば寒いけれど、歩き始めるとそれなりに暑く感じてくる。体の慣れだろうな。谷間に沿って一気に標高を上げて行く。斜度はそれなりにあるけれど歩きやすい一本道。山の上が見えてくると、白くなっているのが分かる。今朝の雨は雪になっていたようだ。


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 小さなライチョウも寒そうだ。日本のライチョウのように冬毛にならないのだろうか。


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 標高が6000ftを越える頃には今朝降った雪で白くなったトレイルを歩くようになる。岩が点在し不思議な雰囲気。最後の急斜面はスイッチバックでジグザグに上がる。Passを目指しているあたりも、この上がり方も、なんだか懐かしい感覚。シエラネバダみたいじゃないか。Cutthroat Passという、なかなか過激な名前のパス、に到着ししばし休憩する。近くにCutthroat Peakがあるらしいのだが、どれほど険悪なのだろう。風が冷たく汗を冷やすが、ずぶ濡れで無いだけ、だいぶ良い。パラパラと冷たい粒が落ちてくるが、雲は高く、空は明るい。

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 切り立った稜線を避けるように山肌を進んで行く。谷や稜線に合わせて大きく蛇行しながらトレイルは伸びているよう。歩きやすいので、僕の足でもペースを落とさずにいける。足は重く、相変わらず一歩ごとに痛みが走るが、慣れて来たからだろうか、昨日ほどでは無いような気がする。

 雨は昼頃まで降らないでいてくれたが、パラパラと降り始める。しかし、風が弱く、降りも激しさは無く、断続的な降り方。Methow Passからは長く深い谷を一気に下っていく。下りはじめのジグザグは膝にも足首にも堪えたが、その後は徐々に緩やかさを増し、歩きやすくなる。先行している3人に時々追い抜き、追い越しながら先へ先へ。所々で小雨降る中、丸太の上に座り休憩する。手濡れて冷えてくるのを防ぐためにレインウェアの袖を被せたいが、そうするとトレッキングポールが持ちにくい。なんとかしたくて、思い切って袖に穴を開けてサムホールを作って見ることにする。意外と上手くいったようで、このまま使えそうな気がする。

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 谷は突き当たり、下りは終わる。ここからは再び谷を登る。谷が細くなると今度は斜面をスイッチバックしながら登る。雨はしとしとと降り続く。ガットフック達よりも先行して歩く。1人Glacier Passに到着するが、Passといってもまだ斜面の途中。ここは木々に覆われて安心感のあるキャンプサイト。トランジエントが先に追いついてくる。2人で立ってしばし雑談。トランジエントは先に出発。僕は3人の到着を待ってから歩き出す。ここも今日のキャンプ地候補だったが、思ったよりも早いのでもう一つ先のキャンプサイトまで行くことにする。

 またジグザグの斜面を上がっていく。低いブッシュに稜線に近づくとブッシュは低くなり景色が開けてくる。周りは雲に覆われているが幻想的で美しさを感じる。奥秩父の有名な峠を思い出す風景。稜線にでて東側の斜面が見えると、西側よりも紅葉が進んでいるようだ。

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 標高は7000ft近くなり、空気がひんやりと感じる。すると先程まで止みかかっていた雨が今度は雪に変わり降ってくる。降る量は多く、見る見るうちに周りが白くなって行く。太陽は陰り、雲は厚く、明るさが失われつつある。地図の直線距離では短いのに長い道のり。3人の姿を捉え、追いつく。どうやらキャンプサイトを探しながら歩いているようだ。下のほうに開けた場所が見え、足跡も付いている。ここかな、と思ったのだが3人は先へと行ってしまう。
“ねえ!あそこじゃないのかい?”
大きな声で呼び止める。
“すぐそこに下に向かう足跡があったよ。ひらけていそうだったけど。”

 戻って下りてみる。やはりそこはちょうど良い場所で4人では使い切れないほどだ。そういえばトランジエントはどうしたのだろう。先へ行ってしまったようだ。ここのキャンプサイトから少し谷に下りれば水も流れているのが分かる。体が冷えてしまわないうちに行ってこよう。ここから先はしばらく水無し区間。ここまで来て笑ってしまうが、水無し区間が16miくらい続くようだ。もしSeasonal Creekが無ければ20mi近い水無しになるらしい。気温が低いので今までみたいにたくさん飲まないので、大事にはならないだろう。しかし、最後まで気が抜けないもんだな。

 湿った雪がすごい勢いで降り続く。ティックは風を避けるためとタープを張りやすい場所を探して見えない所へいったが、テンジンは風に当たりやすい場所を選んでしまったので心配だ。しかし雪で良かった。湿雪ではあるけれど、雨と違って濡れないのが良い。気温が低いおかげでレインウェアを着ていたがあまり汗もかいていないのでウェットな状態ではない。ドライをキープしたまま寝られる。朝、覚悟を決めていただけにうれしい。しかし、寒い。3℃位まで下がってくる。濡れて寒いよりは幾倍か楽だし、心地良い。

 今日は25miを歩くことができたのだ。この足で、この状態で、25miも。嘘みたいだ。炎症が治まってきているのだろうか、痛みが少し楽になってきている。しかし、用心は怠れない。残り36miほど。嘘みたいだ。もう一踏ん張り。そして、Canadaへ。
by hikersdepot | 2013-05-17 17:46 | PCT 2010 by Turtle


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