「ほっ」と。キャンペーン
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Seiad Valley, CA to Ashland, OR/ Day111-112/Hiking 87-88/1666.6-1730.8mi/64.2mi
8/10 (Tue) Hiking Day87 / 30mi / 6:30 am- 7:00 pm (12:30) /NB 1703mi
“Border of Oregon”

何時くらいだろうか。
まだ日が変わる前だと思うが、車が来て去っていった。
何事も無くて良かった。

昨日の忙しさと遅さのせいだろうか、とても眠い朝。
歩き始めるも、すぐに腹が減る。
そして体の切れも悪く、思うように歩みが進まない。
長いロードウォークは足にくる。
天気は雲が多い。
昨日とは違ってひんやりとして冷たい空気だ。
雨が降りそうにも見える。

徐々に稜線に近づいていく。
深い谷の形状がよくわかる。
思った以上に長い道のりで、2時間半くらいかける。
途中滝のように水が吹き出す場所があり、綺麗で冷たい水を補給する。
そこから直ぐに、Cook & Green Pass に到着する。

看板も立っている普通のTH。
そこにはひと張りの、どこかで見覚えのあるテントが。
Sun Seeker だ。
なぜ僕よりも先に、なぜまだここに。
いったいどっちなのかわからないが、とにかくまた見かけるとは。
しかし、彼は遅くまで寝る方なので、結局顔を見ることは無い。

少しトレイルを入った風を防げるところで座って休憩する。
陽射しがないので、けっこう肌寒い。
するとハイカーが歩いてくる。
しかもはだか。
シャツは背中に掛けている。
足元はサンダルにソックスだ。
若々しい体をしているが、40代くらいか、白人のハイカーだ。
名前はFreebird 、初めて会うハイカーだ。
“どこから歩いて来たんだい?”と問われ事情を話す。
すると、ここのトレイルは楽しいのに、と言う。
彼は両方とも歩いたことがあるらしいのだ。
元気よく裸のまま歩き去っていく。

稜線に出てからは今までに無いくらい歩きやすいトレイルが続いていく。
しかし、体は重くスピードは上がらない。
食べても食べても空腹感が消えていかないのだ。

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開けた場所で遠くの方まで景色が見える。
あれはMt. Shasta のようだ。
まだここからでも見えるなんて驚きだ。
それだけ直線距離では離れていないところを大きく迂回してきたのだ。

Lowdens Cabin という場所が地図にある。
キャビンがあるらしいのだが、すこしトレイルから入っているのか見えない。
その先に人の声が聞こえてくる。
きっと一人はフリーバードだろう。
もう一人はやはり初めて出会うハイカー、Turtle Done だ。
直訳すれば、完了した亀、ってことだけど。
“ぼくもTurtle だよ”と握手する。
彼は70歳近いのか、結構な歳を感じさせる。
名ばかりの僕とは違い、本当にゆっくりと歩いているらしい。

ここは小さなお花畑になっていて、水が沸き出している。
しかし、流れが小さいので葉っぱで水を流す工夫をしている。
さすが年の功だ。
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彼らは浄水しないで直接水を飲んでいる。
大丈夫なの?、と聞くと、沸き出す水は安全だ、と言う。
まあ何となく理屈はわかる。
出て直ぐの水は汚染されていないと言いたいのだろう。

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ビィィィィィ、と独特の音が聞こえる。
PCTでは良くお目にかかる機会はある鳥だか、最近多く出会うようになる。
英語でHamming Bird、日本語でハチドリ(蜂鳥)という。
小柄で軽く、素早く羽を動かすことでホバリングをする。
写真を撮ろうとするが上手く撮れない。
こんな時はカメラの性能を感じざるを得ない。

気持ちの良いトレイルは続く。
相変わらず体は思いが、少しずつ動きが良くなっている。
昨日の夕飯を抜いたことで今日の分のエネルギーが少ない状態でスタートしたのか。
注意しなければならない。

前を向いて歩いていく。
歩く。
いくつかのジープロードを通り過ぎていく。

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開けている場所で岩にもたれかかり休むことにする。
追いついて来たFreebird は僕に尋ねる。
“Walking girls を知っているかい?”
もちろん知っている。
ずいぶん会っていないが日系の女性ハイカーの兄弟だ。
彼女たちはかわいいよね、と言う。
そんな話か。
“でも彼女達は日系だから日本語は話せないよ、だから深く話したことは無いよ”
それよりもびっくりなのは、彼の経歴。
プロのウィンドサーファーで、ハワイに住んでいるという。
日本人女性のウィンドサーファーとも知り合いで同じチームだという。
さらにPCTは3回目らしい。
他のトレイルには興味がなく、PCTが好きなのだと言う。
そういうハイカーもいるのだ。
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彼の歩き方も上手い人の歩き方だ。
いつの間にかずっと先に行ってしまうのだろう。
向かいから来るハイカーにも出会う。
彼はセクションで、Oregon Border まで行って引き返してきたらしい。
“もう少しだからがんばれよ”と励ましの声をもらう。

牛の糞が多くなる。
放牧地なのだ。
稜線を外れて、斜面を降りて行く。
水場があり、斜面から吹き出している。
これも大丈夫なのだろうか、しかし牛の糞があれだけ多いと安心できない。

十字路のWards fork gap を通り過ぎて、窪地に降りていく。
小さい谷間だが、草が覆い繁り、湿地のようになっている。
小さな橋を渡るところに水場があるが、藻が多くあまり綺麗ではない。
しかし、今日はここで水を汲んで、この先でキャンプの予定。
さっき水を多めに汲んでおけば良かったな。

そして山を上がって行く。
もう少しで着くのだろうか。
気がはやる。
それでも一歩一歩。

それは特別でも無く、普通にそこにある。
やっと辿り着いた!
California の終わりだ。
Oregon Border!
先に着いていたFreebird と喜びを分かち合う。
彼にとっては3回目だが、それでも噛み締めるものはあるようだ。
ボーダーにある、レジスターには日本人の名前も残っている。
Yas の名前はもちろんだが、それ以前2003年のハイカーの名前もだ。
感慨深い。
これが終わりではなく、まだ続くのだ。
しかし、PCT のほぼ3分の2がカリフォルニアだ。
そして、長く苦しい州を越えたのだ。
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フリーバードはもう少し先まで歩いてキャンプすると言う。
僕はもう歩きたく無い。
ボーダーの直ぐ上には道路があり、そこから少し離れた場所でキャンプすることに。
今日は心身ともに疲れた一日。
反省も多い一日。
しかし、今日はここまできた自分を褒めてあげたい。

今日の夕飯はたくさん食べた。
食料には余裕があるのだ。
腹いっぱい食べられる。
ボーダーを越えたご褒美は、昨日買ったオレンジ。
夜になると急に冷えて来た。
久しぶりの寒さは体にこたえる。

明日もまだ長い。
Ashland まで残り27mi。
足の調子は良く無い。
それでも、だましだまし歩くしかない。
明日はOregon のHiking だ!



8/11 (Wed) Hiking Day88 / 27mi / 6:30 am- 5:30 pm (11:30) /NB 1703mi
“Ashland”

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今日の目覚めは悪く無い。
体の調子も朝から良いが、膝がいけない。
しかも今日は長い下り。
気合い入れて行こう。
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歩き始めてしばらく、Observation Peak というところに着く。
小さいピークだが、とても見晴らしが良い。
そこに、久しぶりの、Trail Magic があり、中には大量のペプシがある。
ありがたい。
これはOregon のForest Service が用意してくれているようだ。
“長いカリフォルニアを抜けて、オレゴンを楽しんで”と書いてある。
しかし、今日も空気が冷たい。
晴れてはいるのだが、冷たいソーダは腹にきそうだ。

Sheep Spring で水を汲んでいると、下からフリーバードが上がってくる。
どうやらトイレをしていたらしい。
水場の上じゃなくて良かった。
ここからは、フリーバードと抜きつ抜かれつになる。
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見晴らしは良く、アップダウンはあるがなだらかで歩きやすい。
天気は不安定で、晴れていたのに急に霧が出て来たりする。
そんな変化も楽しみながら歩いていく。
休憩を挟みながら、のんびり自分のペースで。

それでも少し飽きて来しまったころにお花畑ゾーンに突入する。
今までにも無いほど、たくさんの種類の花が咲いている。
さらに広範囲に広がっているので、歩くのも楽しい。
むしろ、写真を撮ることで先に進めなくなってしまう。

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色とりどりの花に癒されて歩く。
花畑を抜けて、一気に斜面は下り始める。
小さなTH の脇で陽に暖まりながら昼飯を食べる。
止まった車から出て来たアメリカ人男性。
その話相手はアジア人女性、いや日本人のようだ。

お互いに気になって声をかけ合う。
彼女はタダヤスエさん、と夫のジョンさん。
サンフランシスコに在住なのだが、旅行でここに着ているらしい。
久しぶりの日本語にいろいろ話をする。
ジョンさんはついこの間PCT のトレイル整備ボランティアに行ったらしい。
この先にその場所があるらしいのだ。
こういう人達に僕らは支えられている。
本当にこころから感謝。
シリアルバーをいくつかもらう。
彼らは花を見に来たらしい。
さよならえお言って、僕はまた歩き始める。

朝よりは膝の調子は良いが無理はできない。
ずっとずっと下っていく。
前方に建物が見えてくる。
Mt. Ashland Inn だ。
特に用はないがトイレがあればと思ったが、近くには無いようだ。
先を急ごう。
すると後ろからものすごいスピードでフリーバードが来る。
彼は一気にトレラン気分で走り去っていく。
ちょっと真似しようと思ったがやめておこう。

トレイルは道路に沿って下っていく。
前方にはすでにI-5 が見えている。
I-5はDunsmuir でも跨いだのに、またここで出会うとは。
まだまだある下り道を膝を痛めないように身長に下っていく。
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突然急に細かい道がたくさん現れる。
そろそろ近いか。
Callahans の看板が出てくる。
ハイカーフレンドリーな場所で宿泊とレストランがあるらしい。
そこへのショートカットらしいが、僕はそのままPCT を辿る。
くねくね着きそうで着かない道を下りていってやっとI-5へと到着。

PCTはこのまま西へ向かっているらしいが、僕はヒッチハイクをする為に、Callahans へ。
Callahans までは意外とあり、施設は綺麗そうだ。
でも時間はもう7時を回りそうだ。
街へ急ごう。

ヒッチを開始。
どうせすぐにつかまらないだろうと思って気を抜いていたら、一発ゲット!
びっくりして戸惑ってしまう。

乗せてくれたのは老婦人の友人同士。
運転をしている女性は、日本に住んでいたことがあるらしい。
1976年でずいぶん前だが、夫が大使館勤務だったのだ。

街までは意外とあってその間ハイキングの話などする。
しっかりとダウンタウンの中心部まで送ってもらう。
人がたくさんいてにぎわっている街だ。
若い人も多く、おしゃれな雰囲気だ。

目当てのホステルに行ったがいっぱいだという。
たしかに街にも人が溢れている。
本を見ながら、ホテル探し。
コロンビアホテルという雰囲気がレトロなホテルへ行く。
しかし、そこもいっぱい。

困っていると、フロントの男性が部屋を探してくれる。
ありがとう、感謝しかない。
結局空いているのは、来た道を戻って、I-5 のインター近くのモーテルしか無いらしい。
まだ状況がわからないので、とにかく歩いて行くことにする。
途中のコンビニでコーラのXLを買う。
背中に刺したトレッキングポールが飛び出ているので“角みたい”と笑われる。

ロスの知人に電話しながら歩く。
膝の痛みについて相談する。
基本は休むしか無いらしい。
予想よりも一日早く入れたので、ゆっくりと2zero とって休むことにする。
どっちみち、この街では先へと食料を送らなければならないので忙しい。

30分くらいして、Knight Inn へ。
とても愛想が良く、親切なおばさん対応してくれる。
部屋は広く綺麗な上に安かった。
しかも隣にはAlbertson’s などショッピングモールがあり便利だ。
良く聞けば、街に出るにはバスがあり便利らしい。
そして街がいまにぎやかなのは、シェイクスピア祭り、があるかららしい。
とても有名で人気のあるイベントらしいのだ。
だから街のホテルはいっぱいだったのだ。

コインランドリーは隣にあり、洗濯している間に買い物を済ます。
食事はKorean が経営する日本食レストラン。
あまり期待していなかった割にとても美味しい。
海藻サラダは、サラダではなく、ただ海藻が盛ってあるだけ。
でも、注文したJapanese Steak“Bonsai”は美味しい。
なによりも米が美味しいのが嬉しい。

モーテルに戻り、甘いデザートとコーラを飲みながらだらだらする。
ついつい遅くまでテレビを見てしまい、夜更かしする。
夜更かしついでに、日本にいる妻に電話をかける。
ああなんて堕落したハイカーだ。
でも今日は一人、Oregon に今いることを祝う。
また明日も忙しい。
だから、今日だけは、こんなぐうたらも許そう。

-"corrupt" Turtle
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by hikersdepot | 2012-04-20 03:00 | PCT 2010 by Turtle
Castela, CA to Seiad Valley, CA/ Day 105–110 Hiking Day 81–86/ 1510.0mi –1666.6mi(156.6mi) /3
8/8 (Sun) Hiking Day85 / 31mi / 6:30am- 8:00pm (13:30) /NB 1645mi
“Sunrise to Sunset”

疲れの残る朝。
鞍部でないせいか、この場所でもそれほどの風に悩まされずに済む。
ちょうど日の出が綺麗に見える。
体いっぱいに太陽を浴びて浄化する。
そのあと、煙草の煙で体を汚染してから歩き出す。

今日はSeiad Valley への長い下りが始まる直前まで歩くと決める。
距離にして約31 mi 。
楽じゃない。
ただ、地図を見て想像するに、行けるはずだ。

尾根に沿うように緩やかな下りは続き、快適に歩き始める。
ところどころ良さそうなキャンプサイトが見つかる。
気持ち良く歩けるトレイルは続く。
景色もまた変わり、岩と緑のコントラストが美しい。
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小さい池の側を通る。
見た目はとても綺麗だが近くによると浮遊物が多い。
しかし、水の流れが多いので幾らでもとれるところがある。
この付近はたくさんの花が咲いていてとても美しい。
日本で見たようなクルマユリなどが咲いている。
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この先もまだいくつかの水場があるがトレイルからはどれも少し離れていそうだ。
あまりたくさんの水を背負いたくはないが、ちょっと不安がよぎる。
稜線歩きが多いと、どうしても水場が少ないか、離れてしまう。
だったら、ここで少し多めに持っていても良いだろう。

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トレイルは二股に別れている。
ただの分岐とは違う点がある。
Old PCT とCurrent PCT との分かれ道なのだ。
何が理由で別れたのかは、僕には解らない。
どっちでも好きな方に行けよ、ってことだろう。
現行のトレイルを歩いてみよう。

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距離は大したことなさそうだが、急斜面を上がって行く。
ガレの多い、なかなか歩き応えのある上り道だ。
稜線を跨ぐと反対側に降りて行く。
今度は急斜面をジグザグに降りて行く。
下には山に閉ざされた池がひっそりと佇んでいる。
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そのまま下るのかと思いきや、斜面をトラバースして行く。
すると今度は登り返しさっきの稜線の方に上がる。
そのまま稜線を辿るが、思っていたよりも細かくアップダウンを繰り返す。
出発直後は快適だったがここに来てのスピードダウン。
思うように進めない。
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空腹とのどの渇き。
稜線に上がってから水場がない。
どこも稜線から大きく外れてしばらく降りて行かなければならない。
近くにあるかも知れないと予想していたところもだいぶ離れているようだ。
唯一、まだトレイルから距離が短い水場も、面倒でパスする。
稜線に上がる前に多めに汲んでおかなければ今頃もっと辛い思いをしていただろう。
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疲れ果てて、日陰の草むらの中でうずくまり休憩する。
とても静かだ。
明日にはSeiad Valley に入れる見当がついたので食料は十分食べられる。
しかし、水分がそれに追いつかず、ギリギリのラインだ。
気分も体も重い。
ここまで20mi は歩いたが、残りはまだ10mi以上。
時間はもうすぐ午後3時。
休憩無しで行ったとしても、あと4時間はかかる計算だ。

さあ、行くか。
まずは、a single step
亀の歩みでも前には進める。
正面には、また変わった雰囲気の山がある。
Marble Mountain というらしい。
遠くから見た時はまるで月が積もっているように見える白い岩山だ。
それがシマシマになっているからマーブルというのだろうか。
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歩き始めると、人の声が聞こえる。
若いハイカーが音楽を流しながら楽しんでいるようだ。
別のトレイルから入ってきたのか。
それ以外にも明らかにデイハイキングのハイカーがいる。
地図では確認ができなかったが、きっと近くにTH があるのだろう。
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トレイルは下に見えるMeadow 目指して進んで行く。
いつもは飛ばせる下りも、今の膝ではゆっくりしか歩けない。
小さい橋が架かっている下には待望の水が流れている。
ゴミの多く混じる水だが、本当に貴重な存在だ。

橋の近くには小屋がある。
レンジャーの小屋の様で、解放はされていない。
さっき見かけた若者達がそこで休憩をしている。
通るとき挨拶をしたが、返事は無い。
とても奇異な目で僕を見ている。

道はぐっと歩きやすくなる。
まだアップダウンはするものの、道も良くなり、斜度も緩い。
山をぐるっと回り込むように進むと、今度は黒い岩山が。
Black Marble Mountain というのだが、まあそのままだ。
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この先にまた広い草原が出てくる。
Big Rock Camp という名前が付いているので、やや期待を持つ。
しかし、これといってキャンプできそうな場所も見あたらない。
PCT atlas ではキャンプできるような書き方。
来たことがあれば解りそうなものだが。
Eric the black のPCTスルーハイク“デマ説”が流れる訳だ。
事実スルーハイクは自己申告制。
嘘は幾らでもつける。

向こうから下りてくるハイカーが。
女性で、自分の母親と同じくらいの年だろうか。
アメリカ人は日本の感覚からすると老けてるので、もう少し下かな?
セクションハイカーの彼女は写真を撮りながらゆっくりとハイキングを楽しんでいる。
しばし歓談の後、彼女は南を目指し、僕は北を目指す。

歩きやすいトレイルは続く。
しかし、距離はまだまだある。
急ぎたい気持ちがあっても体は着いて行かない。

一時間くらい歩いた頃に開けた場所に着く。
人の声も聞こえるようだ。
そこは岩のピークに囲まれた、Paradise Lake だ。
キャンプをする広々としたスペースもある。
とても気持ち良さそうだ。
さっき声がしたのはそこでキャンプをしているハイカーらしい。
池に近づいて行くと、とても美しい景色が開けている。
ちょうどここだけ囲まれているので、天気の影響も少なそうだ。
もしかしたらPCTハイカーかも知れないと思い、キャンパーの方に近づく。
立派なテントが3張り。
全員池の方を向いておしゃべりに夢中だ。
どうやら3人とも女性で、スルーハイカーでは無いらしい。
邪魔をしないように静かに歩き出す。

今日もドライキャンプの予定だ。
予定キャンプ地には水があるらしい。
Yogi’s の情報であれば間違いは無いだろう。
必要な分だけ水を汲んで行こう。
足の負担も少しは減らせるはずだ。

少し行くと鞍部に出る。
ここから谷は西と東に大きく別れて行く。
僕は尾根を行くのだが、尾根の取り付きで一休みする。
風が吹いているのだが、寒さはほとんど感じない。
とてもぬるい暖かい空気だ。
体の疲れが風に押し出されるように出てくる。
横になって眠りたい。
弱る気持ちを奮い立たせてもう一踏ん張りする。
毎日20miから25miを歩くことは、疲れるけれど、苦痛では無い。
けれど、日々30mi 近くを歩いて来たここ数日は本当に辛かった。
心身ともに。

体を起こし、今ある全てを背負い、歩き始める。
Big Ridge とそのまんまの名称がついている稜線を北に向かう。
稜線に上がってからは平坦でとても歩きやすい。
稜線のやや西側を道は進む。
平坦な場所は少ないのでキャンプはしにくい。
しかし、点在する緩やかなピークの付近まで上がれば良さそうだ。
とにかく体力が続く限りはまだ歩けそうだった。
もしかしたら、僕はリミッターを少し外せるようになっているのかも知れない。
体はとっくに安全線は越えているのだ。
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さすがに日が落ちて来た。
まだ夕陽には時間がありそうだが、西日が美しい時間だ。
向かいからハイカーが歩いてくる。
こんな時間に!?
どこかで見たことがあるハイカーだ。
挨拶を交わして、彼は南、僕は北へ歩み続ける。
ああ、そうか。South Lake へ向かう途中、Echo Summit 前で会ったんだ。
あの時も遅い時間で、とても小さなバックパック一つだった。
デイハイカーかと思って心配したのだ。
今日の彼も本当に小さいバックパックだけ。
それにまた出会うなんて、デイハイカー、なのか?

PCT の不思議を考えながら歩いていると、無意識にどんどん先へ。
水場を通り過ぎていないかと思い、はっ、とする。
Yogi’s に目を通す。
ハイカーの情報では、水は毎年出ているらしい。
場所は火災の跡地に近いようなことも書いてある。
いったいどこのことなのか。
歩む速度を緩め、付近を観察しながら歩く。
しかし、そんな場所は見当たらず、心配になってくる。

戻って探そうかとも思ったが、そんな場所は無かったはずだ。
少し燃えた後が残る場所の下の方だろうか。
でも急斜面で下りるのは難しそうだ。
なんて考えながら歩いていると先が少しずつ下り始めた。
リッジの終わりに近づいているのだ。
どうしたものだろうか。
少し開けた場所、どうやら小さなMeadow、に出る。
この先はずっと下って行っているのがわかる。
そうなると行き過ぎなのだ。
振り返るとトレイルの脇に小さな紙が見える。
拾い上げてみると、そこには“この先水場”のサインが。
このMeadow の中にあるのだろうか。
そのサインを信じて行こう。
少し歩き出すと、しっかりと付いた踏み跡がある。
それを身長に辿って行く。
途中で足跡は薄くなってくる。
このまま真っすぐ行けば斜面をもっと下りることになるだろう。
横を見ると小さなくぼみがある。
そっちに踏み跡が残っている。

横50センチ、縦30センチほどの小さなくぼみ。
そこには水が、下からだろうか、湧き出ていた。
見る限りとても綺麗な水だ。
不意にかえるが出て来て驚く。
ただ生き物のいる水というのは心なし、安心するのだ。
彼の住処なのだろう。
騒がせて悪いが、少し拝借させて頂こう。
もしかしたら、ここが目的の水場ではないのかも知れない。
でも今の僕にはここの水場で“十分”だ。
とても冷たい水だ。
やはり湧き出ているのだろう。
そして澄んだ良い水だ。

汲み終わりトレイルに戻る。
その目の前には大きな大木が立っている。
いくつかに大きく枝分かれした立派な木だ。
その下には小さなファイヤーサークルと設営スペースがある。
ここで終了だ。
いよいよ世界は茜色に染まり、一日の終わりも近づいている。

稜線直下でオープンスペースだが、大木のお陰で風には吹かれずに済みそうだ。
手早く家を作り、寝床を整える。
時間も遅いのに、なんだか今日は急にそんな気分。
体を拭いて綺麗にしよう。
ぼくはめんどくさがりなので、たまにしかしない。
でも今日は久しぶりに水がたくさんある。
靴下も洗濯する。
体がすっきりとすると心もすっきりする。

やっと長い一日が終わる。
今日は日の出を見て始まり、日の入りと共に終わる。
とても疲れたし、長い一日だが、清々しい気持ちで終わることができた今日に感謝。
しかし、明日の疲れが心配だ。
ああ、体がだるい。



8/9 (Mon) Hiking Day86 / 21&5mi / 6:30am- 1:30pm & 6:00pm-8:00pm(9:00) /NB 1672mi
“Seiad Valley”

朝を迎える。
まったくすっきりしない。
昨日の疲れと休憩不足のせいか、体がむくんでいるように感じる。
気付の高カロリー食を放り込み血糖値が急上昇。
ストレッチをして目を覚まさせる。

まだ青みが残る空の中歩き出す。
現在地は歩き始めてみると自分が正しいのがわかる。
直ぐに標高を下げて行く。
樹林帯に入り景色は見えなくなったが、脇目もふらずに歩いていく。
尾根を一つ跨いでまた標高が下がる。
足が痛い、膝が痛い。
我慢ができる痛さだが、温存できることならしたい。
しかし、下るしかない。
ひたすらに、足の痛みを忘れるように、黙々と歩く。
景色も記憶も留めないように、無心で歩いていく。

樹林は濃く、薄暗い。
急な斜面が続くので、その度に膝がうずく。
どんどん沢が近づいてくる。
また一つ稜線を跨いで越えるとその先に広いスペースがある。
ジープロードとぶつかっているところで、ここはTHにあたるのだろう。
焚き火の跡もある。
しかし、最近はここで人が泊まった形跡はなさそうだ。

道はくねくねと曲がりながら、また別の沢を目指して伸びていっている。
斜度が少し緩くなったお陰で膝の痛みが軽減されて歩きやすい。
つい、早く、と思ってしまう。
焦りは禁物だ。
黙々と粛々と歩こう。

時間の感覚もなく、どれくらい経っただろう。
痛む足をごまかし、心もごまかし歩く。
また道路を横切り、越えていく。進む。
そうしてやっと目の前には一つ目の橋が見える。
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ここからはひたすら谷を北へ北へ真っすぐ歩くのみ。
しかし、斜度がないのでスピードは出せない。
膝への負担が少なくて嬉しいが、精神的に辛くなりそうだ。

小さな沢やガリーの度に縫うように曲がる。
そして上下動だ。
周りの景色は限られた映像となりただ流れていく。
2本目の橋を渡り過ぎる。

ここで休憩をとる。 
橋の桟にもたれかかり休憩する。
空気は、水の流れの影響か、ひんやりとしている。
そして何より嬉しいのは匂い立つ水と木々の香り。
日本では良くかぐことのできる、あの湿った空気の匂いでもある。
本当に久しぶりだ。
太陽はもう上がっているが深い谷なので陽が入らない。
でも気持ちが良い。気持ちが良い朝食を楽しむ。
スタートから約9miを3時間で歩く。
良く歩いた。

そしてまた黙々と歩く。3本目の橋も渡りすぎていく。
本当に長い。
多少のアップダウンはあり、谷底が離れたり近づいたり。
風が巻き起こるほどの勢いで歩く。

その先の地図には書いてある別ルートなんて無く、自分の場所もわからないまま進む。
それで良い。
今はなにも考えないで歩くだけだ。

少し道が広くなり綺麗になってくる。
トレイルは川に当たり橋を越えると、そこはTH のCamp ground だ。
着いた。
といっても町まではまだある。
CGには一組のキャンパーがいるのみだ。
軽く挨拶だけする。
TH のトイレに立ち寄るだけで、直ぐに町へと歩く。

ここからは地獄の車道歩きが6.5mi 続く。
いままで以上に長く感じるつらい時間だ。
舗装路だと足への跳ね返りも強いので歩くのが辛い。

Road Walk は退屈だ。
なにもない道路の上をひたすら歩かなければならない。
ここも例外なく、なにもない。
未舗装の山道を歩いていく。
舗装路に変わってからは家もあり、キョロキョロしながら歩く。
しつけがなっておらずただ馬鹿みたいに吠える犬がたくさんいる家を過ぎる。
道は川にぶつかる。
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Seiad Valley はこの川の対岸で直線距離なら、1miもないか。
しかし、橋はここから2mi以上先。
さらに橋を渡ってから1mi以上ある。
ここで考え始めたら辛くなるだけだ。
川沿いの道の端をとぼとぼと歩いていく。
濡れても良いからどこか渡れる場所は無いだろうか。
渡れる浅瀬は無いだろうか。
しかし、運良くそんな場所を発見することはできない。
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そうこうしているうちに家がたくさん出てくる。
なんとも素朴なかわいい家もあり、アメリカの田舎の良さがある場所だ。
やっとの思いで橋を渡り大きな道路へ。
そこを西にまた橋を渡り町を目指す。

しばらく歩いていくと前方には白い看板が見えてくる。
そこには“Welcome to Seiad Valley”と書いてある。
やっと町に着いたのだ。
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時間は午後1時半だ。
ここには一つのRVキャンプグラウンドとストアがあるだけ。
しかし、それで全てをまかなえる。
キャンプグラウンドにはシャワーとコインランドリーがある。
ストアにはレストランがあり、うまい食事が食べられる。
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時間的にぎりぎりでレストランに間に合う。
ここで昼食が食べられればと思っていたからだ。
それにしても、標高が低い為か陽射しが暑い。
バックパックを日陰に置いてレストランに入る。

メニューはいたって普通のアメリカンフード。
しかし、ボリュームはすごそうだ。
ここの名物はPancake Challenge。
とにかく大盛りのパンケーキを食べる、大食いチャレンジだ。
それ以外にもミルクシェイクも美味しいらしい。
けれどメニューボードには、今日はシェイクができないと書いてある。
元となるアイスが無いようだ。
しかたない、それは諦めてコーラを注文。
それからチキンのフリッッターを注文する。
付け合わせは山のようなフレンチフライだ。
コーラはいつ飲んでも上手い。
この炭酸がたまらない。
食事は見た目よりは普通の味だったがそれでも暖かいものは美味しい。
しかし、ちょっと油っぽくてもたれてしまう。

食事が終わり、隣のストアに向かう。
それほど大きくは無いストアだが、RVキャンプの為にそれなりの品が揃う。
必要十分は買えるということだ。
ここからは二日の行程でAshland へ到着する。
それほど必要は無いのだが、せっかくなのでフルーツでも食べよう。
RVキャンプへ行くとそこにはさっきレストランにいたハイカーがいる。
少しだけ囲われ東屋のような場所がハイカー用に用意されたところだ。
屋外で壁も無いが、テレビがあり、ビデオも見られるらしい。
そして冷蔵庫や電子レンジまである。
これがただで使って良いというのだから、本当にありがたい。

コインランドリーとシャワーを使う為には25セントコインが必要で受付に両替をする。
受付と言ったって、オーナーが一人でやっている小さな場所。
開いていなかったが、呼ぶと大きな体が歩いてくる。
見た目よりずっと優しく、ハイカーフレンドリーだ。
僕が日本人だと知ると、電車が好きらしく、日本に行きたいと言う。
日本にはアメリカには無い、高速電車もある。

大量の25セントコインを持ってシャワーへ。
体をすっきりと洗い流し、そのあとは洗濯の時間だ。
さっき話をしたハイカー達も洗濯をしている。
彼らはセクショナルハイカーでSouth Bound(Sobo)ハイカーだ。
とてもフレンドリーで優しい2人だ。

標高が低いので、陽射しを避けていても暑い。
しかし、こごえることのない気温が、久しぶりに気持ちが良い。
ゆっくり休もう。

2人のハイカーと話をしながら荷造りをする。
Eric the Black は高い割にいまいちだ、なんて話をして笑い合う。
しかし、このコンパクトさで軽い地図は他にないのだから。
すると、ひとりのハイカーが到着する。
彼とは初めてじゃない、Agua Dolce ぶりに出会うハイカー。
懐かしのCrow dog 達と歩いていた一人だ。
名前はShade。いつもサングラスをかけている。

僕はもう少し歩いて先に進んでおきたかった。
Shade とAshland でまた会おうと約束をして出発する。
歩き始める前にストアでコーラの追加とアイスを買う。
本当は浄水剤が欲しかったのだが、売っていない。
ぎりぎりだが間に合うだろうと諦める。
するとレストランのママが“娘が持っているのをあげるわ”という。
甘えついでに、レストランのジャムをもらう。
みんな本当に優しい。
ありがとう。
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Trailhead 付近でキャンプをしようと思っていたが、Sobo ハイカーの勧めで別ルートをいく。
TH よりも手前の道路を北東に上がって行く。
彼らもここから下りて来たという。
しかもガットフックにも会ったというのだ。
元気そうで何よりだ。
彼は僕よりも少し、1日くらい前をずっと歩いているようだ。

道路歩きは退屈だが、あえてするショートカットがどうなのかも知りたかった。
人家がまばらに並ぶ中をゆっくりと歩いていく。
時間は午後6時を回っている。

道は真っすぐに進むだけだが、地図が無いので分岐に迷う。
すると道ばたにメモが置いてある。
それには、ここを歩いたハイカーからのメッセージが書いてある。
このまま真っすぐに進んでいけば良いようだ。

道はどんどんと狭くなり、人の気配も消えていく。
思ったよりも奥の方まで人の家があるのは、どれもサマーハウスなのだろうか。
川が近くを流れているので、暑い時等は楽しいだろう。

いよいよ人の気配は無くなり、人家も見えなくなる。
人工物はこの下の未舗装の道路だけだ。
川の距離を計りながら歩いていく。
あまり離れてしまう前に汲んでおかなければ。
陽は暮れ、谷間はもうだいぶ暗い。

道をそれて下に続く方に降りて行き、ブッシュをかき分けて川に下りる。
もう少し早くしておけば良かった。
思いのほか大変だった水汲みを終えて歩きはじめる。
すると直ぐに、下の方に看板の様なものが立っているのが見える。
さっきのところから奥に行けば繋がっていたのだろうか。
戻る気にもなれず、下りられそうなのでそのまま斜面を下っていく。

どうやらここはキャンプサイトのようだ。
看板には注意事項が書かれている。
ファイヤーサークルもある。
今日はここにしようと決める。

直ぐには気がつかなかったが、蚊が結構多く、いつの間にかたくさん刺されている。
Seiad Valley から5mi くらい歩いたのだろうか。
川へもここからの方が下に下りやすそうだ。
夕食を食べようかと思ったが、あまりにも腹がいっぱいで軽く食べて終わらせる。
そして、おもむろにコーラを飲む。
なんて贅沢なのだろう。

今日は、なんだか忙しい一日で、歩きもそうだが、疲れた。
けれどアシュランドまでもうすぐだ。
そして明日はとうとう“線”を越える日だ。


-"fizzy" Turtle
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by hikersdepot | 2012-04-13 23:33 | PCT 2010 by Turtle
Castela, CA to Seiad Valley, CA/ Day 105–110 Hiking Day 81–86/ 1510.0mi –1666.6mi(156.6mi) /2
8/6 (Fri) Hiking Day83 / 33mi / 6:30am- 7:30pm (13:00) /NB 1587mi
“PCT Hiker of The Legendary”

目覚めの良い朝を迎える。
最近はどこでも熟睡体制だ。
いつものように準備をしていつものようにスタートすると時間も大体いつも通り。
今日も30miを目標に歩こうと思う。
しかし、どこまで歩けるのかはその時に任せよう。

順調にペースを上げて歩く。
途中に水の補給を挟むが、これといって大きな変化も無く単調だ。
登りはきついが、メリハリの無いトレイルも長すぎると飽きる。

今日もサイドトレイルをいくつも通過していく。
二時間ほど歩いた頃に、前方から歌が聞こえてくる。
トレイル上に膝を抱えて座るハイカーとトレイル脇に3人のハイカーが座っている。
トレイル上に座るハイカーはとても特徴がある風貌だ。
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確かに見たことがある。
会ったことは無い。
Yogi’s Book にも出てくる、伝説、だ。
Billy Goat !!!!!
会いたいと思っていた、会えると思ってなかった人が目の前にいる。

Billy Goat はPCT上最も有名なハイカーの一人だろう。
彼はトリプルクラウンはもちろん、PCTを何度もスルーハイクしている。
一年でMexico to Canada to Mexico のヨーヨーを初めてやってのけた人でもある。
住んでいるのは、Mt. Shasta らしい。
ヒッピーの文化に染まった一人なのだろう。

思わず、“あ、あ、あ、、、”と声にならない声を出してしまう。
すると、一緒にいた女性のハイカーが、
“そうよ、ビリーゴートよ。”
と僕に笑いかけながら話してくれる。
“ビリーゴート!初めまして、僕は日本から来ているハイカーです!”
と訳の分からない挨拶をしてしまう。
“とりあえず、座ってゆっくりしようよ”とビリーゴートは言う。
ちょうど2時間くらい歩いていたので休憩しよう。
まさかこうしてビリーゴートと座るなんて、嘘のようだ。

一緒にいる3人のうち一人は、トム。
エヴァン達を惑わせた人だ。
ハイカーで無いのに、あまりにもハイカーに入り込む彼をあまり好きではない。
ハイカーは自分自身で選択し、進むのだ。
スルーハイクを経験しているトレイルエンジェルはハイカーに深く入り込まない。
それが、ハイカーの為だと知っているからだ。
トムはそれが無い。
彼はスルーハイクできない自分を誰かに託しているのだ。

他の二人のハイカーはどこかで顔を見たことがある。
PCTAのトレイルエンジェルで、キックオフでも見たはずだ。
二人は夫婦の様で、リタイア(定年退職)しているのだろう。
二人とも穏やかで優しい笑顔だ。
いつものことだが、アジア人の場合“日本人か”と聞かれることはほぼ無い。
土地にもよるのだろうが“Korean?”聞かれるのが常だ。
アメリカ人から見ても、中国系とはどこか違うのがわかるのだろう。
しかし、韓国系との区別は全く付かないようだ。
まあ、僕らも“西洋人”もしくは“欧米人”なんてあまりにもバックリとした区別しかできない。

“日本から来たよ”と言うと、ビリーゴートも夫婦も知り合いがいると言う。
“Yas”だ。
僕も友達だよ、と伝える。
“彼は今CDTだろう?”
“そうだよ。彼はすごいね”
そう話しているとビリーゴートが、
“2年連続だろう。続けては普通やれない。彼はCrazy さ!”と言う。
Yasも、あなたには言われたく無い、ときっと言うんじゃないかな。
ビリーゴート、あなたも十分過ぎるくらい、いかれてる!“

今この区間は一番辛い時だと言う。
カリフォルニアはあまりにも長い。
まだ、カリフォルニアだ。
でももう少しでオレゴンに入れる。
シエラのダイナミックな景色も過ぎ、単調な毎日。
心が挫けそうになる。
Hiker Blue
そう言うそうだ。

良い時間だ。
でも楽しい時間は過ぎるのが早い。
“そろそろ、行こうか”
みんな何となく立ち上がる。
記念にビリーゴートと一緒に写真を撮ってもらう。
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素晴らしい思い出の1ページになる。
ありがとう。
“旅立つ君に歌を歌おう”そう言うとビリーゴートは歌い始めた。
振り返り写真を撮る。
素敵な笑顔だ。Yas と良く似た、良い笑顔だ。
ありがとう。
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心は晴れやかで、足取りは軽やかだ。
単調なトレイルは確かに退屈だ。
しかし、僕は嫌いじゃなかったし、楽しんでいる。
そんな今の思いをカメラのムービーを撮りながら一人語る。
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その後、ピークを避けるようにトレイルは続いていく。
アップダウンもほとんど無い単調なトレイルだ。
それでも、木々が少なく開けているため、気持ちよい。
一つ鞍部を過ぎ、一つピークを迂回する。
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標高を下げ始め、Hwy 3が近づいてくる。
ジープロードが近くを通るようになり、車を見かけるようになる。
ジグザグに下り、THに出る。
道路は意外に立派だが、車の通りは極端に少ない。

西に向かい、その道路を横切る。
大きなパーキングロットを備えているTHで、キャンプグラウンドもあるらしい。
PCTに沿った日陰のある場所で休憩をする。
今日も陽射しが暑い。
さすが夏の気候だ。
でも日陰に入れば十分涼しいのは日本とは違う。

誰か来るかな、誰も来ない。
車も通らない、静かな時間が過ぎていく。

ここからは長い登りになる。
気合いを入れて歩き出す。
森の中を緩やかに登っていく、穏やかな景色だ。
今日は体に力がみなぎっているようで、グングン進んでいける。
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それにしても、退屈だ。
楽しい、と思っているが、今日は特に代わり映えの無い日だ。
森でもないし、時々見える景色もそれほど綺麗でもない。
遠くにマウントシャスタが見えている。
少しずつだけど、あの姿からは遠ざかっていく。

声が聞こえる。
たくさんの人がいるようだ。
見えてきたグループはずいぶん若そうだ。
その中にはアジア人の姿もある。
ハイスクールのハイキングイベントだろう。
Hello、と声をかける。
するとアジア人同士が日本語で話している。
こんにちは、すると、こんにちは、と返事が。
事情を聞くと、彼らは福岡のアンビシャスの翼という青少年団体のイベントで来ているようだ。
海外体験プログラムらしい。
ほとんどが高校生で、数名付き添いがいるらしい。
グループ全体の8割はアメリカ人で構成されている。
いくつかのグループがあるらしいのだが、グループによって内容も異なるようだ。
彼らはキャンプがメインで、その一環としてハイキングにも来ているだという。
久しぶりに生で見る日本人にやや興奮。
コットンパンツにTシャツという、いかにもアメリカ人のような出で立ち。
しかし、若さにはこの方がよく似合う気がする。
僕も人生で初めて旅に出た時は、麻のパンツに綿のTシャツだ。
それで良いのだ。
僕の旅の内容を聞いて驚いている。
僕にもなぜPCT を歩いているのかわからない。
けれども歩いている。
旅なんてそんなものだ。
大きな理想や大志を抱いた旅なんて無い。
そんなもの抱いたらそれは旅ではなく、自らの利と益だ。
血肉では無く装飾だ。
彼らは純粋で良い。
目が輝いている。
足元では無く前を向いている。

彼らアメリカ人の中にはPCTを知っている若者もいるようだ。
何か食べ物を、と申し出てくれたが、ほとんどが生もの。
その気持ちだけを受け取り、あとは遠慮させてもらう。
きっと彼らと再会することは、ほぼ、無いだろう。
でも、またいつか会える日を信じて言葉にする。
See you.

今日の景色は代わり映えしない。
でも、面白い人との出会いがある良い日だ。
今までになく足が動いて快調だ。
小さなジープロードを越えてPCTは進んでいる。
にぎやかな声がまた聞こえてくる。
今度もハイスクールのハイカーたちだ。
どうやら地元のグループだろうか、白人達しかいないようだ。
ちょっと腰をかけて休んでいると僕の前を通り過ぎていく。
そのままジープロードを辿っていくようだ。

トレイルに戻り少し進むと下の方から声が聞こえる。
どうやらさっきのグループらしいが、増えている。
かなりの大集団だ。
巻き込まれなくてよかった。

尾根に沿うように辿るトラバース道を上がっていく。
だいぶいい時間になったのだが、今日はもう少し歩きたい。
意外とアップダウンが多く思うように進めなかった。
キャンプしやすそうなのは30mi より手前か奥かだ。
はてさてどうしたものか。
水さえ持っていればどこでだってキャンプができる。
Yogi’s によれば、もう少しで水場があるらしい。
さらにその先にも流れがあるようなのだが、地図にはそのような表記が無い。
万が一のことを考えると、確実に水を確保しておきたい。
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陽当たりの良い山肌に水場があり、そこから沸き出すように流れている。
これは良さそうな水だ。
浄水せずに飲めそうだが、ここは安全に行こう。
ちょっと多いかなとも思ったが、欲を出して少し多めに水を汲む。

樹林の濃い山肌の道を、先を急いで歩く。
時間は予定より押していて、もう12時間行動を過ぎた。
ふと膝に異変を感じる。
今まで一度も膝を傷めたことは無かったが、さすがに無理がたたっているのか。
痛烈な痛みではないものの、少し気になるところだ。
ゆっくり歩いても痛みは取れないが、それでも歩かなければ。
少し膝をひねったのがいけない。
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いくつかの小さいGully を通りすぎていく。
その内の一つにはかなりの勢いで水が流れている。
あの時水を汲まなければ、膝の痛みも。
いや、後悔先に立たず。
あの時の判断はあの時は正しかったのだ。
自分の判断を信じる。
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その先に開けた鞍部がある。
鞍部からはトレイルが2本に別れ、PCTは上に向かう。
その手前に少しだけ平らなスペースがある。
適度に木も生えていて風も避けられる。
南の密度の濃い方は斜度があってあまり良くなさそうだ。
あと一時間も無いくらい歩けばキャンプサイトもありそうだが、ここまで。
膝のことも考えるとこれ以上の無理は良くない。

思ったより気持ちの良いキャンプスペースで、とても平らだ。
少し斜度があるのが当たり前の生活だと、平坦なのは本当にありがたい。
今日は良く眠れそうだ。
鞍部は風が吹き抜けているようだが、ここの影響は少ないようだ。
気温は思ったより暖かい。

膝の痛みは引いたようだが、しっかりマッサージとストレッチで体をほぐす。
ここまでの長旅と最近の無理がたたっているのは確実だ。
先を急ぐあまり無理をしすぎたのだろう。
しかし、少しの無茶は承知の上だ。

明日もまた歩く。
長く遠くへ。
自分の体を信じるしか無い。
自分の力を信じるしか無い。
明日も動かす。



8/7 (Sat) Hiking Day84 / 27mi / 6:30am- 6:50pm (12:20) /NB 1614mi
“Lonesome”

平らな場所に寝られたせいかいつもよりぐっすりと眠れた朝。
しかし、昨日の疲れもあるせいか少し体がだるい。

鞍部を過ぎた先は少しずつ標高を下げながら道は進む。
山肌を縫うように進む。
ちょうどこの区間についてYogi’sに記載がある。
“Etna Summit の手前の区間はDate Book が間違っている”
あまりアップダウンが無いように書かれているのだが、実はきついらしい。
おそらく、計測点だけを見ればアップダウンが少ないように見えるのだろう。
しかし、その計測点の間に高いところがあるのだ。
とはいえ避けることもできず、言うほどでもないのではと思う。
Fuckin’ PCT Atlas の高低図は全く信用ならないが、その通り真っ平らだ。

緩やかに下る歩きやすい道を往く。
眼下に道路が見えてくる。
Hwy 93 だ。
道路は綺麗に舗装されているが、車の通りはとても少ない。
トレイルと道路の交差点はTHになっているが、トイレも無く、人影もない。

とっとと反対側に向かい登っていく。
樹林帯の緩い登りだ。
出て来た鞍部は開けていて休憩しやすそうだ。
山の反対側を覗きに行くとハイカーの姿がある。
“こんにちは”
声をかけるが反応がはっきりしない。
聞こえていないのだろうか。
しかし彼は振り向き挨拶を返してくる。
どうやらGPSか何かをいじっているようだ。
不意にこちらを向き挨拶をしてくる。
彼の右膝には大きなサポーターがある。
痛々しいが、膝が気になる僕にとって人ごとではない気分だ。

ここから南面をトラバースしていく。
地図の高低図はほとんど真っ平らだが、実際には道は上へと続いている。
大きく登っては下り、細かいアップダウンを繰り返す。
地図ではこんな地形は見て取れない。
地図自体にそれほどの精度がないからよけいだろう。
ぜんぜん歩きやすくなんてない。
これでは思うように前に進めない。

ジープロードと交差するところは大きな原っぱになっていて綺麗だ。
そこで腰を下ろして一休み。
ここまで、Yogi’s の言う通り、思ったよりもアップダウンが多い。
体に疲れが蓄積しているのが分かる。
少し長めの休憩をとりしっかりと休みを取る。
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今日も花が綺麗に咲いている。
花を愛でながら原っぱの中を登って行く。
今までは樹林帯だったが急に景色は開ける。
山肌を縫うようにトレイルが上へと向かっているのがわかる。
それほど傾斜も無く歩きやすいが、見えてしまうと気が滅入る
地図では直ぐ上に池があるらしいのだがトレイルからは全く見えない。
見えないのに、そこを目印と地図に書かれても困ってしまう。
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上へ向かうトレイルと岩の景色はきれいだが、ずっと同じなので感覚的には長い。
その長い長い登りを終えて、やっと稜線を乗り越す。
少し下ると木々に囲まれたStatue Creekで緩やかな地形になる。
そこでまたハイカーに出会う。
今朝の人とは対象的で、ニコニコしていて人懐っこく話をしてくる。

トレイルは小さなアップダウンを繰り返しながら進む。
Etna Summit までがとても遠く感じる。
トレイルと交差し、また一つ交差する。
空腹と疲れの中、意識無く、ただ前へと歩いて行く。

眼下に綺麗な池が見えてくる。
Taylor Lake だろうか、深い青緑色の池だ。
あそこでキャンプしたら楽しそうだな。
でもまだ止まれない。
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なんとかして木曜日までにはAshland へ着きたい。
その為には明後日の昼頃にはSeiad Valley に着きたい。
今日はまだ止まれない。

徐々に標高が下がり始める。
なにがあるわけでもない。
まだ先に進みたい。
不意に道路が見える。
やっとEtna Summit に着いた。
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小さなパーキングロットがあるTHでとても殺風景だ。
峠のどちらを向いても山しか見えない。
疲れて座り込む。
今日は4日目で食料の量が足りそうな、足りなさそうな感じだ。
抑えながら食べていたので、空腹と疲れが大きく出てしまう。
実際、今日の割当分は全て食べ終わっている。
まだまだ余裕があるとは思いながらも我慢してしまう。
しかし、今日はまだ25mi も歩いていないのにこの空腹だ。
もう少し歩くには食べるしかない。

腰を下ろし、スニッカーズ アーモンドをほおばる。
これ一つでは空腹は満たされないが、強烈な甘さは満足感を得られる。
それにしてもここは車の通りが少ない。
この下にはEtna の街がある。
Brewery があり、ビール好きには欠かせない街の一つだ。
多くのハイカーがこの街に寄るのだが、ヒッチハイクが必須だ。
しかし、この通行量ではなかなか難しそうだ。
そう思っていると、一台の近づいてくるトラックが。
休憩かと思っていると、開いた窓からおじさんが顔を出す。
“街まで行くかい?”
うれしい誘いだ。
でも、今は行けない。
“ありがとう”
たどたどしくお礼を言う。
“ああ、行きたい。”心のどこかがそうつぶやく。

一服し終えると少し力が湧いてくる。
そろそろと、立ち上がるとなんだか膝が痛い。
昨日ほどではないが、気になるところだ。
靴の中も何かが当たっている気がする。
靴を脱いでみると、久しぶりに靴擦れができている。
すこし無理して歩きすぎているのか。

それでも歩き始める。
せめてキャンプできる場所を探そう。
水はあるのでどこでも良いのだが、休みやすい場所を探し進む。

しかし、進んでも細い尾根を辿るため、適当な場所を見つけられない。
結局Etna Summit から一時間くらい歩いてしまう。
もう稜線が見えて来る。
地図にあるキャンプ適地はまだ一時間も先だ。
だがさすがにこれ以上歩くことはためらわれる。
稜線に上がって直ぐのところ、本当に稜線の真上に少しだけ開けた平坦な場所を見つける。
もうここで良い。
風が吹こうが、どうでも良い。
とにかく今日は疲れた。

ステイクが刺さらない場所なので石を積んで固定し、風への対策をとる。
その後やっと食事だ。
今日は特別に高級フリーズドライを食べる。
お湯を注ぐだけなのに、とても美味しい。

Yogi’s の言う通り、今日はアップダウンの多さに手間取った。
十分満足するべき距離を歩いたのだが、それ以上に疲労の蓄積が大きい。
しかし、明日も30mi が目標だ。

Ashland ではZero Day をとっていろいろとやらなければならないことがある。
しかし入るのが遅れれば、また日程が伸びてしまう。
今のままのペースでは10月に突入だ。
少しでも先に行きたい。
明後日にはなんとか Seiad Valley へ入る。
リサプライを済ませたら、少しだけでも歩こう。
そして水曜日には遅くなってでもAshland へ入ろう。
THからは距離があるので、ヒッチハイクが上手く行くか心配だ。

風は思った通り強い。
でも、耐えられる程度の風だ。
景色が良いので良しとしよう。
夕陽が沈んで行く。
長い明日へと続く今日が終わる。

-"steps" Turtle

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by hikersdepot | 2012-04-06 10:28 | PCT 2010 by Turtle