カテゴリ:PCT 2010 by Turtle( 96 )
『PCT2010』を書き終えて
 2010年のPCTハイキングを終えて、2011年の春にブログを書き始めました。それからあっという間に2年。ハイキングを終えてからは2年半の月日が経っていました。はじめはどう書こうか悩みながらのスタートで、毎日を少しずつだけ書くつもりでしたが、いつの間にもう少し詳しくと書いて行くうちに大変なことになっていました。しかし、いつかまた自分が読み返した時に思い出せるように書きたかったのです。早く先を、というお声もたくさん頂きながら思うように進まず、楽しみにしていた方達にはつまらない思いをさせてしまいました。途中で文章の書き方が変わったりしてだいぶ自由にやっていたので、読みにくい点も多々あります。進みが遅いとお叱りを頂いた時もありました。励ましを頂いた時もありました。ですが、こうしてなんとか終えられて良かったと思います。そして、ほっとしています。本当にお付き合い頂いた皆様には心より感謝しております。ありがとうございました。
 毎日通勤の時間をこのブログの時間にあててきたので、好きな本を読むこともこの2年間ほとんどしませんでした。やっと本が読める。まずは2年前に買った本から読みたいです。

Hiker’s Depot 
Shin “Turtle” Hasegawa
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by hikersdepot | 2013-05-21 19:04 | PCT 2010 by Turtle
In Conclusion 終わりに話すこと
<トレイルのまとめ> 
 2010年のPCTは多くの経験者にハードな年だと言われ続けた。全体を通して冷夏で夏らしい日が少なかったように思う。雪のメキシコ国境に始まり、雨の降らないと言われたカリフォルニアで多くの雨に降られ、暑いはずのデザートエリアで寒さに凍えた。雪も多くたくさんのハイカーがスキップや迂回路を取りながら進んでいたことも印象的だ。そのせいか、早いうちから多くのリタイアを目にした。雪の中をさまよったシエラネバダ。その後スピードアップで、自分だけでなく、たくさんのハイカーが故障した。数度あった火災による迂回。すんなりとは行けなかった。雨と寒さのオレゴンからワシントン。不安定な天気が続いた。そのせいで雷も起きやすく、それが原因の山火事に遭遇したこともあった。2009年では雨はせいぜい3日続いたくらいだったらしい。PCTの旅は長い。この長い旅の中では多くの出来事がおき、そして自然を相手にするため、思い通りに行かないことばかり。短い時間ならばまだしも、これだけの距離と時間となれば、その場でいかに対応出来るかを問われているようでもあった。この旅では今までに無い心のつながりを持てる仲間達との出会いがあった。これは今まで多くの旅をしてきた中ではなかったことだ。おそらく同じ一つの目的に向かい、それぞれの手段は違っていても、ひたむきに向かい続けていたからだろう。心を同じくする者、同志、という言葉を初めて理解できた。

<後日談>
 
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旅を終え、出発の朝。真ん中はGuthook。左上はTangent。右側はTick。かけがえのない仲間達。みんなすっきりした顔をしているのは、お風呂に入って綺麗だからというわけではないだろう。

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 Manning Parkからはグレイハウンドバスに乗りバンクーバーまで向かい、そこからアメリカに戻り、日本へと戻った。Manning Parkで届いていなかった荷物は結局次の日に発見された。わざとらしく、今日届いた、というようなことを言っていたが、どうやら昨日見つけられなかっただけらしい、フロントの女性がばつが悪そうに僕から目をそらしたので間違いないだろう。これも旅らしさかも知れない。

 テンジンと奥さんは車で観光をしながらシアトルを目指し、その後アムトラックに乗って家に帰ると言っていた。ティックとガットフックとは同じバスに乗り、バンクーバーへ行った。ティックとはバンクーバーで別れたが、ガットフックとはシアトルまで一緒だった。
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 バンクーバーには一日だけ滞在して、少し街中を回った。もっとゆっくりできたら良かったが、街は何かにつけて高い。日本人の経営している博多風トンコツラーメンはなかなか美味しかった。

 お母さんとその友人がガットフックを迎えに来ていて、一旦は彼とは別れたのだが、電話があり、シアトルまで一緒に連れていってくれることになる。ありがたい。車中ではアウトドアギアの話で盛り上がる。なんとか冬でも暖かく過ごせる軽量なシェルターは無いだろうかとか、新しいウェアの素材の話でも盛り上がる。日本だけじゃなくてアメリカにも道具オタクがいるんだと実感。たしかにガットフックは持っているものも、そんな感じがしていたけど。シアトルのREIでは道具を買い足しに来ていたPCTハイカーと僕らと同様に終わったPCTハイカーに出会った。その中の1人はテラピンといい、カリフォルニアで会って以来だった。日本食レストランで夕食をともにして、その後ガットフックとは別れたが、今でもFacebookでつながっている。

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 次の日は一日シアトル。何度目かなので良く知っているが、それでも楽しい。のんびりとした街の生活を楽しんだ。泊まったホテルは安かったが部屋が広く、悪くなかった。それに、空いていたとかの理由で広い部屋になったので、余計に居心地は良かったし、大好きなPike Place Marketも近かった。フロントの男性はPCTのことを知っていて、その話をしたら『おめでとう』と言ってくれた。改めて行ったREIの帰りに偶然テンジンに会う。ハイカーはシアトルに来たら必ずといっていいほど、なぜか、REIとその近くにあるフェザードフレンズに寄ってしまう。なんて単純な。

 日本への帰りの飛行機を何度夢見たか。寂しくも、やはり日本へ帰れるのは嬉しかった。なによりも妻に会えることが嬉しかった。涙で別れたあの日から約5ヶ月。妻は笑顔で、トートバッグからネギを出して笑っていた。


 僕の一番の相棒であったチャーリーも10月に入り無事にカナダ国境を越えた。別れてからもメールでやり取りしていたのだが、お互いに愚痴り合い、泣き言を言い合った。彼はワシントン州に住んでいるので余計にあの雨の多さにはうんざりしたようだった。それでも途中娘のニコラと一緒に歩いたり、同志とともに歩ききったとのことだ。残念なのは仲の良かった、Not a Chance、Croatian Sensation は残り250miでリタイアしてしまった。彼らの地元が近く過ぎて、ホームシックになってしまったようだ。心が折れたのだろう。でもこのカップルは2009年にはYasと共に歩き、2010年は僕と歩き、どちらもスルーハイクできなかったが、2012年にはメキシコ国境からカナダ国境まで歩いた。時間はかかったけれど、すばらしい、うれしいできことだ。 ダニエルとジョーの兄弟は、別々に歩くことを選択した。結果ジョーは親に引き戻されてしまう。まだ16歳だからそれもしかたない。兄のダニエルは時間はかかったがカナダ国境を越え、帰りにはチャーリーの家に寄っていったらしい。

 チャーリーとは2011年のキックオフパーティで再会。2012年にはチャーリーの家に遊びに行くことができた。彼とは年が25も離れているけど、いつも対等に話が出来る、いまでも最高の相棒だ。


<思うこと>
 正直なところ、PCTを歩いたからと言って、何かが変わるわけでは無いだろう。なんとなく想像するウィルダネスなんかとは離れているものだと僕は思うから。どんなに人里離れた山奥でも、そこに何日いようとも、それは人間の文明から離れたことにはならないと僕は感じた。むしろ、離れれば離れるほど見える人の営みと文明。自然はこんなにも近く、人に荒らされても傷つけられても寄り添うようにそこにいるのだ。長い旅路の中、非日常だったものが日常に変わる。その今までに無い日常の中から見えてくる自分。これほどまでにシンプルに生きることが出来ると教えてくれる。だが、いまこうして、いまそうして、自然に入り楽しめていることこそ、それ自体が文明の成せる技でもあるのだ。文明が無ければ、人はいつまでも自然を畏怖の存在と捉え、内部へ入り込むことを恐れただろう。けれども人間は文明を手に入れ、その力を持ってして自然へと分け入っているのだ。それを忘れてはならない。決して驕ってはならないのだ。

 PCTを、ロングディスタンスハイキングをしたからといって人生は何も変わらないし、変えられない。けれども、その経験をもとに自分を変えることは出来るかも知れない。僕はこの旅で人間の弱さを知った。そして人間の強さを知った。
 何もできないかも知れない。何も変わらないかも知れない。でも、少しずつでも進んで行けば、どんな途方も無い距離だって歩けると教えてくれた。少しずつでも進んでいけば、いつか出来るかもしれない。いつか変わるかも知れない。
 僕にとってこの旅は人生で最も長い旅の一つになっただろう。けれども、僕の旅は続いている。あのバックパックを一つ背負って電車に乗ったあの時から、自転車にまたがりひたすら漕ぎ続けたあの時から、そしてこれからの旅へと続いているのだ。これは終わりでは無い。新たな始まりへと踏みだしたのだ。

<ハイキングのこと>
 改めてハイキングの奥深さを知った。Hike、Hikingとは、泊まる道具を持って野山を歩き旅すること、を意味している。そもそも泊まりながら旅をすることがハイキングなのだ。そして、それはデイハイキングという行為から始まる。デイハイキングはハイキングへのもっとも近い入り口なのだ。歩くとは人間が移動する為に生み出した手段。そのもっとも根源的な手段を用いて人は旅をして移動してきた。歩いて旅をする、ハイキング、という行為は人間の本来持っている移動する力を認識させ、無意識に喜びを与えてくれる行為なのだ。だからこそ、ハイキングの門戸はとてつもなく広く低い。そしてその奥行きは途方も無く広く深いのだ。ハイキングに距離なんて関係ない。時間も関係ない。そう、長距離を歩き終えたからこそ、僕は思える。小さな一歩は、たくさんの歩みにつながっている。だから自由に歩いて欲しい。そこが登山道かどうかなんて関係ない。自分が歩ける道を歩いて旅をすること、自分が出来る範囲で歩いて旅をすること、そしてそれを楽しむこと、それがハイキングなんだと思う。そう思いたい。

 こうじゃなきゃだめ、ああじゃなきゃだめ、そんなことは無い。大きく漠然として分かりにくいことだけど、それでも諦めちゃだめだ。これを伝えることを諦めちゃだめだ。その為にもいつか、時間があったら、もし気が向いたら、ぜひ旅に出て欲しい。歩いて欲しい。まずは近所の5分からでも良い。いつかそれが数ヶ月の旅へとつながっているはずだから。そう信じたい。

I’m happy when I’m hiking.
We’re happy when we’re hiking.
Happy trails for all hikers.
Happy hikes for all hikers.
See you on the Trail!
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Shin "Turtle"
2010 PCT Hiker
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by hikersdepot | 2013-05-21 17:49 | PCT 2010 by Turtle
Stehekin, WA to Manning Park, BC, CANADA/ Day154–157/ Hiking Day124-127/2574.4mi-2664.2mi/89.8mi/②
9/24(Fri) Hiking Day126/ 27mi/ 6:50am- 7:50pm (13:00) /NB 2648mi
2 days left!!!!!!!!
“Eve”

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夜半までテントに降り積もる音が消えなかったが、朝は静かに迎える。朝から笑い声。
“なんとか生きてるぜ!”
とテンジンの声。相当寒かったのではないだろうか。外をみると青空が広がっている。周りは一面真っ白。思ったほど降っていたわけでは無かったようだ。これならトレイルも普通に歩けるだろう。素晴らしいスタートがきれそうだ。


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 朝日が山々に降り注ぐ。雪に反射しキラキラと輝いて見える。やや下っている歩きやすい道を、写真を撮りながら進んで行く。気温は思っていたよりも高く、雪はどんどん消えていきそうだ。


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 しかし、一時間もしないうちに空は薄曇り。陽射しも遮られていきて、朝よりも寒く感じる。トレイルは森の中に入り、道は細くなっていく。それを抜けた先、下の方には未舗装の道路が見える。小さなピークを大きく迂回するように行くとHarts Passへと到着する。その時にはすでに青空はなくなり薄く暗い雲に覆われている。

 Harts PassはPCTが通過する道路の中でもっともカナダよりにある。ということはカナダ国境までの間ではこれが最後の道路になるのだ。そう思うと何でもないTHが急にありがたく思えてくる。到着すると人の話し声が聞こえる。トイレの裏手あたりから聞こえるようで行ってみるとそこにはみんなが焚き火を囲んでいる姿がある。

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なんとこんなところでトレイルマジックだ!彼らは遊びに来たついでにトレイルエンジェルをしているということらしい。なんとハイカーの為にネクタリンやコーラなどが用意されているという。1人で歩いている女性ハイカーに会う。彼女はセクションで南に向かうらしい。トランジエントとも再び合流。ゆっくり休み腹一杯食べて飲んで、しっかりトイレもすます。ここまで来てものんびりと過ごしちゃうのはスルーハイカーらしくて楽しい。

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 1時間以上経ってから再びハイク。山肌を縫うように進む。Slate Peakまでは道路が伸びているようでよく見える。山頂にはFire Lookout のような鉄塔が見える。休憩し体力をつけたスルーハイカー達は歩きやすいトラバース道を黙々とひたすら進んで行く。

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 色の変わりつつある山。葉を落とさずに緑を保つ木々。深く長い谷。今日はみんなとそれほどペースを変えずに歩けている。時々4人で休憩しながら進んで行く。こうしてハイカー同士で座って話ながら旅をするのももうすぐ終わりを迎える。もうすぐ終わるのだ。雨は結局ほとんど降ること無く我慢してくれているよう。たくさんのパスを過ぎて、稜線を下る。森の中足を引きずり黙々と。

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 Holman Passは谷間にある十字路。そこの丸太に腰掛けている3人に追いつく。ぼくも腰をかけて軽く食べながら休憩だ。
“どうだい調子?”
“まあまあかな。足は相変わらず痛いけど、まだ歩けるよ。”
今日も休憩をたっぷりしているけれど、歩きやすい道のお陰で、距離に対して体力の消耗は少ない気がする。ここまでですでに20miほど。時間的にもそろそろ終わりにしても良い頃だ。
“次のキャンプサイトに水場があるんだけど、そこで水を汲んでさらに先に行かないか”
とガットフック達から提案がくる。Springのあるキャンプまで約3mi。さらにそこから5miで次のキャンプサイトがある地図にマークがある。
“カナダ国境からマニングパークまでは、さらに8miもあるんだ。それを考えると、今日をもう少しがんばりたいんだ。”
そういうことか。ちょっと言葉に困る。けっして今だって楽じゃない。あと3miは行けるけど、8miはわからない。でも、歩くか。
“なんとか歩くよ”


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 水場までの道は斜度があるもののそれほど辛いものでは無く、歩いて行ける。それでもさすがにペースは落ち始め、いよいよ足は重く。到着した水場周辺は開けていて明るく、適度に木々もある良いキャンプ地。しかし、ここからまだ歩くのだ。時間はもうすぐ5:00pmになる。


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 辛い道のり。水を担ぎ重くなった荷物と体。疲れのピーク。時々歩みが止まってしまう。なんとか稜線に上がる。昔のPCTはこのままPassに向かっていたらしいが、かなりの急斜面とざれたトラバース道。結構簡単に死ねるくらいの雰囲気だ。稜線を乗り越え、東側の斜面を下る。とても急斜面で歩きにくい小石の多いトレイル。3人との距離はものすごい離されてしまう。雨も再び降り始め体を濡らす。体力の限界が近づいているのが分かる。

 少しずつ食べながらゆっくり歩みを止めないように進む。けれど、Passへの登り返しでは、心と体が噛み合なくなり、足が前に出ない。ふと後ろを振り返るとトランジエントの姿が見える。彼のペースならすぐに僕に追いつきそうだ。案の定、あっという間に僕の真後ろに。でもPassはまだ上。たった0.8miほどにこれほど手こずるとは。でももう言うことを体はきかない。

 なんとかWoody ではないWoody Passに上がり、一休み。時間は午後6時になろうとしている。
“大丈夫か”
トランジエントが尋ねてくる。
“ああ、うん。足が痛くて。体が思うように動かないし。”
“しっかり食べろ。食べ物はあるのか”
“ああ、あるよ”
しかし疲れていて食欲も落ちている。それでも無理矢理でも食べなくちゃ。
“先に行って。”
そういう僕に、かれは、
“いや。ゆっくり行くから気にするな。”
と僕の後ろを離れようとしない。彼なりに気を使ってくれているのが分かる。彼はぶっきらぼうだし、本当に変わり者だ。だからいつも仲間がいない。でも僕とそう変わらない、紙一重な気もする。本当は良いヤツなんだろう。1人で歩ける意志の強さに改めて脱帽。そして感謝。

 ここからは稜線沿いでアップダウンも無く歩きやすい道だが、目的地まではまだ長い。2mi以上ある。いつもなら大したことの無い距離がとても長く感じられる。

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 途中に岩場でかわいい声が聞こえる。マーモットとも違う。目をこらして見てみると、大きいハムスターみたいな動物がいる。写真を撮っておこう。ナキウサギみたいだな。

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 Mt Home Campというのがあり、トレイルから道をそれると地図には書いてある。午後7時を過ぎると一気に暗さを増してくる。ギリギリまでヘッドライトを出さずに歩いて行く。しかしそんな道見つからない。3人の姿も見えない。すでにヘッドライトを点けての歩き。小さい踏み跡なら見つけられないだろう。かといってキャンプができそうな場所は未だ見つからずだ。

 西の山肌を進むトレイルが稜線を乗り越す。急に人の声が聞こえる。テンジンとティックの声。稜線に少しある木々の中に無理矢理入り込んで寝ているらしい。そのほんの少し先には開けてちょっとだけ平らな場所があり、そこにはガットフックがいる。結局彼らもキャンプ地は見つけられずにここまで来たようだ。ここまで来ても僕の持っている地図にだまされるのだ。気が抜けないというか、うんざり。時間は7;50pmごろ。長い一日もここまで。

 稜線は風が強そうなので嫌だが贅沢は言えない。なるべく影響を受けなさそうな場所を考えてテントをたてる。もうヘトヘト。急いで夕食。でも体を起こしていることも辛い。今日は27、28miくらい歩いただろうか。距離もそうだが、こんな辛い一日あったろうか。自分達で狙って暗い中を歩いたことはあったが、時間が遅くなってヘッドライトを出したことは、この旅で今日が初めて。PCTの中でもっとも辛い一日と言ってよいだろう。そしてこれがPCTで最後の辛い一日であることも事実だ。

 最後の夜にしては、最高のキャンプとはお世辞にも言えない。しかし、こんなもんだ。これが僕だ。ありがたいのは雨が止んできたことと風が穏やかなこと。遅くまでテンジンとティックの話し声が聞こえる。テンジンは本当に良くしゃべる。こうして最後の夜が更けて行く。

 体よ。もう少しだけつき合ってくれ!足よ。なんとか保ってくれ!明日だけは。

 明日で終わる。カナダ国境までは9mi。PCTの終わりManning Parkまではそこからさらに8mi。


9/25(Sat) Hiking Day127/ 17mi(9+8mi)/ 6:30:am-9:50am-2:20pm (7:50) /NB 2664mi
Last day!!!!!!!!!
“Journey”

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 ここのところの出発時間よりも少し早めに出発。まだ太陽の明るさは十分ではなく、薄暗い中のスタートだ。

 結局雨は降らないまま朝を迎えることができたのは嬉しい。風は乾いていて冷たく、寒い。テントは少し結露していたもののここの所の湿気の多さからすると良い方だったのかもしれない。強い風に背中を押され、みんなよりも少し早くにスタート。

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 やはり思っていたよりも先に来ていたようで、すぐにHopkins Lakeが見えてくる。それを通り過ぎHopkins Pass。あっさりとみんなは抜いて先へと消えていく。今日の天気は素晴らしく青空が広がる。

 おおむね緩やかな下りの歩きやすい道を進む。それほど足の痛みは変わらないものの、この痛みに慣れてしまっている自分が恐ろしい。木々に覆われた地味なトレイルだが、最後にふさわしいのかもしれない。あっさりとCastle Passに到着する。そこには団体のハイカーがいて賑やか。みんな若く、10人以上いる。そこに丸太に腰掛けている3人も。もうすぐ。だけど、だから、そんなに先を急がなくても。トランジエントが僕らを追い越しさきに歩いて行く。僕達も再び歩き出す。ここからは休み無しで国境。国内最後の歩き。大地を踏みしめ進む。すれ違うハイカーはPCTハイカーでカナダに抜けず、ここからはHarts Pass もしくはRainy Passまで戻って街へ出てから帰るらしい。
“おめでとう!”
そういうと
“おめでとう!”
のお返しが。まだだけど、もう目の前。もうすぐ。

 いくつかの小さなクリークを越える。また向かいからくるハイカーが。その顔をみて嬉しくなる。
“ハイ!Carhop!”
最後の日に彼と会えるなんて、素晴らしい再会だ。お互いに今までの努力を称え合う。彼もまた道路まで戻って行くのだ。

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“気をつけてね”
“ありがとう。もうすぐ国境線が見えるよ”
そういって彼は去って行く。ありがとう、Carhop。彼と初めて会ったのはSouth Lake Tahoe に出る手前。それから何度も何度もすれ違い共に歩いてきた仲間。幾度も励まされる気持ちになったんだ。

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 トレイルはジグザグに下る。すると向こう側の斜面に木が全く無い場所が見える。あれが言っていた国境線だろう。


 歓喜の瞬間はすぐにくる。突然目の前には何度も写真で目にしていたTerminus が立っている。
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“やったー!”思わず叫ぶ。
『9.25.2010 9:50am』
Monument 78に僕は到着したのだ。歩けたのだ。歩いたのだ。約2650mi。長い長い旅路を歩き通したのだ。嬉しいのに、思っているよりも心が穏やかな気がする。声を上げて喜んでいるのに、どこか冷静な自分がいる。みんなと握手をして労をねぎらう。そして自分に、自分自身に。
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“Congratulation for me and all hikers!”



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 レジスターに書き込みをして、ここを通過したスルーハイカー達のメッセージを読む。チャーリーは今どうしているだろうか。Uncle Tom、General Lee達は明後日くらいにここに着くだろうか。Ass face、Ann、たくさんの出会ったハイカー達の顔が浮かぶ。そしてたくさんの感謝の気持ちが溢れる。ありがとう。本当にありがとう。

 僕達以外にも今日ゴールしたスルーハイカーが1人。それから、これからセクションで歩き出すハイカーがいる。なんかちょっと偉そうな顔をしている。何が原因か分からないけど、テンジンがトランジエントに対して怒っている。原因は僕にはわからない。せっかくなのに、残念。トランジエントが寂しそうな顔をしている。損な人だ。

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 カナダボーダーを越え、最後までPCTを歩く。カナダに入ってすぐのところの橋を渡った先にキャンプサイトがある。ここにたくさんのハイカーが泊まるのだろう。僕達は先へ。まだあるのか、最後の長い登りを堪えて進む。空は真っ青。今日は気温も高く、久しぶりに暑く感じる日だ。森の中、ちょっとアメリカとは違う感じのトレイルを進んで行く。ピークへの分岐を横目に今度は急な下り。膝がずきずきと痛む。悲鳴を上げる。足は重く疼く。

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こうしてみんなで歩くのも後少しで終わる。

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 途中からはジープロードを交えるようになり、歩きやすくなるが、僕にはむしろきつい。デイハイカーとすれ違い、川沿いの道となる。木々は黄色く色を変え、陽射しが当たって美しい。
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 THに出ると舗装道路がある。橋の上には座り込んだハイカー3人。待っていてくれたよう。

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僕も一休みしてから、最後の道路歩き。そして2:10pm、Manning Park Lodgeへと到着する。PCTの終わりだ。

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 テンジンは奥さんが遊びに来るようで別の部屋を一つ取る。僕らは3人で一部屋。いつものようにシャワーを浴びたり、洗濯したり。なんだか終わった実感がない、いつもと変わらない一日を過ごす。

 僕はここに荷物を送ってあり、もう3週間以上も前のことだし、着いているものだと思って話をすると“無い”という。なぜ?するとフロントの女性は
“アメリカとカナダは隣の国だけど海外だから、時間がかかるのよ。“
という。そんなのあるか。でもいつかは届くのだろうし、届いた時にどうするか、と言われたので、書いてある日本の住所に送り返してくれ、と告げる。最後に海外の洗礼か。

 夕食前の腹ごしらえでバーで乾杯。といってもほとんどみんな飲まないのが面白い。結局僕の周りは飲まない人だらけ。コーラとボリューム満点チーズたっぷりサルサソースのコーンチップスでみんな大満足だ。

 そのあと、妻に電話するものの電話には出ない。ロスの友人にはやっと通じて、しばし長電話。長電話のし過ぎで、大切な夕食を逃すという大失態。最後の最後まで間抜けで自分らしくて笑えてくる。でも、みんな明日の朝食で改めようと言ってくれて一安心。ありがとう。

 みんなで喜びを分かち合い、時間が過ぎて行く。しかし、それでもまだ実感が乏しい。また明日か明後日には歩くのではないだろうか。歩き続ける日々が待っているのではないかという感覚。

 旅はまだ終わらない。これは僕の、この旅の終わりと次の旅への始まりなんだ。

 なんてな。
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by hikersdepot | 2013-05-20 17:46 | PCT 2010 by Turtle
Stehekin, WA to Manning Park, BC, CANADA/ Day154–157/ Hiking Day124-127/2574.4mi-2664.2mi/89.8mi/①
9/22(Wed) Hiking Day124/ 21mi/ 9:00am- 6:10pm (9:10) /NB 2595mi
4 days left!!!!!!
“Could”

 とても嫌な夢を見る。寝た気がしない。どう考えても良い精神状態とは言えないだろう。それは自分でも良く分かっている。足は痛い。夜と変化無しといったところだ。自分でも我慢しているだけで、思っている以上に不安で不安でしかたないのだろう。

 もし途中で歩けなくなったらと思うと本当に恐ろしい。こんな状態で行くべきではないだろう。『体調の悪い時や天候の不安定な時は登山を中止して下さい。』なんていう文句が頭に浮かぶ。その通りですよね。僕だってこれが日帰りだったりしたら行かないだろう。仕事だって休んでしまいたいぐらい痛いのだ。でも今はちょっとわけが違う。旅はクライマックス。なんとしても、這ってでも進みたい。

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 Stehekinの朝はとても美しい。今日の天気は晴れのようだ。Stehekinは多くのPCTハイカーがもっとも素晴らしい町、として名前を挙げることが多いようだ。町というには小さく、本当に限られたコミュニティ。どういう地理かいまいち分からなかったが、ここは船か飛行機もしくは徒歩でしか来ることのできない、隔離された土地なのだという。来るのに時間もかかるし、お金もかかる。それが分かれば、ここに来ている人達がどうしてこんなに優雅にくつろいでいるのかも分かる。

 出発ができる用意をしてから朝食を食べにレストランへ向かう。シンプルにトーストとハッシュドブラウン、卵とソーセージの組み合わせにする。注文だけしてから電話をしに行く。たいして遠くないのに早歩きもできない。

 今日は電話に出てくれる。今いる場所と今の状態を説明する。説明した所でどうにかなるわけではないのだ。不意に涙が溢れ出す。声がくぐもる。堪えていた不安が吹き出したのだ。涙が止まらない。
“歩かなくたっていいじゃない。これで歩けなくでもなったらどうするの?”
妻の優しくも厳しい声。ぐっと胸にくる。悔しくて、悔しくてたまらない。最後の81miを楽しく、うれしく過ごすはずだったのに、僕の足は言うことをきかない。辛く苦しい81miになるだろう。あと81miを目の前にして立ち止まれる訳が無い。これは蛮勇か、はたまた挑戦か。僕の人生を端的に表しているようにも思えてくる。スマートにはいかないのだ、不器用にも一歩ずつ行くしかない。これが僕だ。
“歩かないで”
という励ましの声を受け止め、進む決意が固まる。

 決戦の前の腹ごしらえ。ボリューム満点の食事をお腹いっぱい食べる。これが最後のPCT上のレストランで朝食。エネルギーもしっかりと蓄える。天気は約10日ぶりとなる、すっきりとした青空。いざ。

 バスでトレイルヘッドへ戻り、9:00amころ出発。足をかばいつつ、一歩をしっかりと歩く。完全に左足にほとんどの負担。右足が強い僕にとっては、左足をメインにして歩くのは大きいリスク。だからこその丁寧さが必要そうだ。

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 トレイルは川沿いにずっと進んで行く高低差の少ない道。しばらくは急斜面もあるが、それほど長くはない。上がりきってしばらく行くと東側に美しいCoon Lakeが現れる。高層湿原的な優美な雰囲気に囲まれている。

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 足は思っている通りに痛い。休憩のときには痛み止めを飲む。痛み止めといっても市販の痛み止めだからそれほどの効果があるとは思えない。実際に痛みは変わらない。けれど、炎症を抑える効果もあるのだからそちらに期待したい。天気は本当に素晴らしく、しかし景色を見る余裕も写真を撮る余裕もない。みんなを追いかけるのに精一杯だ。言葉では交わさなかったけれど、みんな心配してくれているらしく、時々僕を待つようにゆっくりと休憩してくれている。

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 トレイルは谷に合わせて緩やかに伸びている。いくつ目かのクリークにはトレイルとその上に橋がかかっている。トレイルは沢の一部と化している。おそらくはここが増水した時の為に架けた橋なのでは無いだろうか。3人は橋の上に行ったけれど、僕は濡れても良いので下の道を選ぶ。

 もっと遅いスピードになると思っていたら、意外に悪くないペースで上がってくる。これは今までの鍛えがあってのものかな。それとも意志の力か。3人とも意外と早いじゃん、みたいな顔をしている。途中では、先に出ていたらしい、トランジエントにも追いついた。

 このトレイル沿いにはいくつものキャンプサイトがあるようなのだが、そのどれも道からそれている所にあるので、どんな場所かは分からない。川だって沿っているはずだけれど、ほとんど見えない。本当に長い谷のトレイルが北から西に向いた後、再び北に向く時に大きな分岐に当たる。

 ちょうどそこに着いたとき先に行っていた3人がレンジャーと話をしているのが見える。女性のレンジャーで腰には大きな拳銃をぶら下げている。彼女達、レンジャーには拳銃の所持が認められ、指定地によっては逮捕などの権限も与えられている。僕も話に混ざりたいのはやまやまだけど、足を冷やして休みたいと思い、すぐに座り込む。みんなが話している間に川へ行き、水を汲み、足を川に浸けて冷やす。痛みがすうっと薄くなるのが分かる。

 またみんなの元に戻るとまだ話し込んでいて盛り上がっている。この時ばかりと僕は軽く食事を取る。後ろを歩いていたトランジエントも追いついてくる。彼が話し始めたとたん空気が変わる。また何か変なことを言っているのだろう。レンジャーもむっとした顔をしていし、撃たれなきゃいいけど、なんて心配してしまう。レンジャーは明日からまた天気が崩れる予報だから気をつけてと情報を教えてくれて去っていく。

 また歩き出し、今までよりは少し斜度を上げて進む。平凡な森の中を北へとひたすら向かい歩く。みんなの姿はもうさっぱり見えない。まあまたどこかにいてくれるだろうことを信じて進もう。トランジエントをまた抜いて1人黙々と歩いて行く。HWY20を目指し、もうすぐのはずが意外と長い道のり。小さな橋を越える。もう道路に沿っているはずなのに見えず、辿り着かない。

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 6:00pm少し前にやっとHWY20、Rainy Passへと到着する。Rainy PassはPCT最後の幹線道路。綺麗な舗装路を見るのはカナダに入るまでもう無い。みんなの姿が見えないと思ったけれど、道路脇に座り込み僕を待っていてくれる。ほんとうはこの近くのピクニックエリアでキャンプなどと考えていたのだけれど、思いの外距離があるようで躊躇する。PCTは道路を横切り向かいにあるTHへと続いている。だったらTHまで行って様子見だと歩いて行く。車が10台以上止められそうなParking Lotに見慣れた形の規格品トイレ。その側には開けたキャンプしやすそうな木立があるので、じゃあここで、ということになる。今日は約20mi強を歩いた。歩けた、僕としては歩けたことがただうれしい。歩けなくなるのではという不安があったから余計だ。しかし歩けたのだ。20mi 足を引きずりながらでも歩けたのだ。

 一台の車が近づいてくる。ここの駐車場には一台も車が止まっていないし、時間が時間だけに何か突っ込まれたら面倒だな。ところがその車の中から出てきたのは笑顔の子連れの夫婦。
“やあ、スルーハイカー達!”
そう声をかけてくる。
“今、そこの道路を通っているハイカーを見かけたんだよ!”
とても感じの良いご夫婦。トランジエントが歩いてくるのが見える。不意の出会いにも関わらず、あるものを出して来てくれて僕達に振る舞ってくれる。不意のトレイルマジックだ。ネクタリンにアップル、ソーダも!僕の好きなものばかり続々だ。彼らもPCTスルーハイカー。2003年に歩いたらしいのだが、その時は雪も少なく楽な年だったらしい。
“君たちはすごいよ。こんな雪が多い年に歩くなんて。それに天候もずっと不順だしね。素晴らしい!”
そう、褒めてくれるのはうれしいけど、僕やガットフックはこの年のPCTしか知らない。雪が多いと言われてきたし、寒い年だとも聞いている。ここのところは雨の多い年だと言われているが、それも本当の所は分からないでいる。しかし経験者にここまで言われると初めて、本当にそうなんだなぁ、と実感する。

 夜は集めた薪で焚き火をして暖まる。気温はグッと冷えてきて、5℃以下に下がる。明日の天気は分からないけれど、今は星空。あと予定3日の行程。足のことが心配だけに、どうか天気には少しでも恵まれて欲しい。けれど、僕の願いは叶わない。だったら、願わない。全て受け入れるしかない。明日のことは明日になればわかる。たとえ雨でも、そしたらそれなりに行くっきゃないだろう。もし、雨でまた服が濡れてしまった時のことを考えて、アンダーウェアのみで裸に近い状態で寝てみよう。この寒さに耐えられるなら問題ないだろう。

 きっと乗り切れる。今までもそうしてきたのだから。大丈夫。あと3日。



9/23(Thur) Hiking Day125/ 25mi/ 6:50am- 6:30pm (11:40) /NB 2620mi
3 days left!!!!!!!
“Snow”

 朝方にパラパラと音がする。やはり、みなの大方の情報通り、雨がふってきたようだ。どうしようも無いことだと分かりながらも、やっぱり晴れて欲しい。雨と寒さに合わせて準備をする。出発前にトイレに寄り、出る頃には雨が止み始めている。晴れ間も少し見える。上だけはレインウェアを脱いで出発だ。


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 気温は5℃くらいだろう。じっとしていれば寒いけれど、歩き始めるとそれなりに暑く感じてくる。体の慣れだろうな。谷間に沿って一気に標高を上げて行く。斜度はそれなりにあるけれど歩きやすい一本道。山の上が見えてくると、白くなっているのが分かる。今朝の雨は雪になっていたようだ。


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 小さなライチョウも寒そうだ。日本のライチョウのように冬毛にならないのだろうか。


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 標高が6000ftを越える頃には今朝降った雪で白くなったトレイルを歩くようになる。岩が点在し不思議な雰囲気。最後の急斜面はスイッチバックでジグザグに上がる。Passを目指しているあたりも、この上がり方も、なんだか懐かしい感覚。シエラネバダみたいじゃないか。Cutthroat Passという、なかなか過激な名前のパス、に到着ししばし休憩する。近くにCutthroat Peakがあるらしいのだが、どれほど険悪なのだろう。風が冷たく汗を冷やすが、ずぶ濡れで無いだけ、だいぶ良い。パラパラと冷たい粒が落ちてくるが、雲は高く、空は明るい。

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 切り立った稜線を避けるように山肌を進んで行く。谷や稜線に合わせて大きく蛇行しながらトレイルは伸びているよう。歩きやすいので、僕の足でもペースを落とさずにいける。足は重く、相変わらず一歩ごとに痛みが走るが、慣れて来たからだろうか、昨日ほどでは無いような気がする。

 雨は昼頃まで降らないでいてくれたが、パラパラと降り始める。しかし、風が弱く、降りも激しさは無く、断続的な降り方。Methow Passからは長く深い谷を一気に下っていく。下りはじめのジグザグは膝にも足首にも堪えたが、その後は徐々に緩やかさを増し、歩きやすくなる。先行している3人に時々追い抜き、追い越しながら先へ先へ。所々で小雨降る中、丸太の上に座り休憩する。手濡れて冷えてくるのを防ぐためにレインウェアの袖を被せたいが、そうするとトレッキングポールが持ちにくい。なんとかしたくて、思い切って袖に穴を開けてサムホールを作って見ることにする。意外と上手くいったようで、このまま使えそうな気がする。

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 谷は突き当たり、下りは終わる。ここからは再び谷を登る。谷が細くなると今度は斜面をスイッチバックしながら登る。雨はしとしとと降り続く。ガットフック達よりも先行して歩く。1人Glacier Passに到着するが、Passといってもまだ斜面の途中。ここは木々に覆われて安心感のあるキャンプサイト。トランジエントが先に追いついてくる。2人で立ってしばし雑談。トランジエントは先に出発。僕は3人の到着を待ってから歩き出す。ここも今日のキャンプ地候補だったが、思ったよりも早いのでもう一つ先のキャンプサイトまで行くことにする。

 またジグザグの斜面を上がっていく。低いブッシュに稜線に近づくとブッシュは低くなり景色が開けてくる。周りは雲に覆われているが幻想的で美しさを感じる。奥秩父の有名な峠を思い出す風景。稜線にでて東側の斜面が見えると、西側よりも紅葉が進んでいるようだ。

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 標高は7000ft近くなり、空気がひんやりと感じる。すると先程まで止みかかっていた雨が今度は雪に変わり降ってくる。降る量は多く、見る見るうちに周りが白くなって行く。太陽は陰り、雲は厚く、明るさが失われつつある。地図の直線距離では短いのに長い道のり。3人の姿を捉え、追いつく。どうやらキャンプサイトを探しながら歩いているようだ。下のほうに開けた場所が見え、足跡も付いている。ここかな、と思ったのだが3人は先へと行ってしまう。
“ねえ!あそこじゃないのかい?”
大きな声で呼び止める。
“すぐそこに下に向かう足跡があったよ。ひらけていそうだったけど。”

 戻って下りてみる。やはりそこはちょうど良い場所で4人では使い切れないほどだ。そういえばトランジエントはどうしたのだろう。先へ行ってしまったようだ。ここのキャンプサイトから少し谷に下りれば水も流れているのが分かる。体が冷えてしまわないうちに行ってこよう。ここから先はしばらく水無し区間。ここまで来て笑ってしまうが、水無し区間が16miくらい続くようだ。もしSeasonal Creekが無ければ20mi近い水無しになるらしい。気温が低いので今までみたいにたくさん飲まないので、大事にはならないだろう。しかし、最後まで気が抜けないもんだな。

 湿った雪がすごい勢いで降り続く。ティックは風を避けるためとタープを張りやすい場所を探して見えない所へいったが、テンジンは風に当たりやすい場所を選んでしまったので心配だ。しかし雪で良かった。湿雪ではあるけれど、雨と違って濡れないのが良い。気温が低いおかげでレインウェアを着ていたがあまり汗もかいていないのでウェットな状態ではない。ドライをキープしたまま寝られる。朝、覚悟を決めていただけにうれしい。しかし、寒い。3℃位まで下がってくる。濡れて寒いよりは幾倍か楽だし、心地良い。

 今日は25miを歩くことができたのだ。この足で、この状態で、25miも。嘘みたいだ。炎症が治まってきているのだろうか、痛みが少し楽になってきている。しかし、用心は怠れない。残り36miほど。嘘みたいだ。もう一踏ん張り。そして、Canadaへ。
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by hikersdepot | 2013-05-17 17:46 | PCT 2010 by Turtle
Dinsmore’s to Stehekin, WA/ Day149– 153/ Hiking Day119- 123/ 2476.6mi- 2574.4mi/ 97.8mi/②
9/20(Mon) Hiking Day122/ 26mi/ 6:50am- 7:10pm (12:20) /NB 2569mi
6 days left!!!!
“Pain”

 全身湿った状態での目覚め。それでもあらかたは乾いてくれたが、それは寝袋のダウンが湿気を吸ってくれたお陰だろう。ここまで湿らせたことはない。手で触れば冷たく手が湿るほどなのだから。それでも、途中から暖かさを少しは感じながら寝られたのだから、ダウンは湿ったくらいじゃ問題ないと改めて認識する。

 今日も朝から雨。また濡れるのだから、ハイキングパンツは脱いでウィンドパンツだけ履くことにする。乾くのが早いのでむしろ良いかも知れない。みんな疲れた顔。そりゃそうだろう。外は昨日ほどの寒さは感じない。天気の悪さは諦めているから、せめて少し暖かくなって欲しい。

 歩き始めてすぐに異変に気づく。明らかに僕の右足は昨日とは違っている。鈍く強い痛み。歩けないほどでは無いが、均等に歩けない。昨日の無理な歩きのせいかと思いたいが、どう考えても滑落しそうになってリカバリーした時のあの無茶な動きだろう。思い出せないのだ。いや覚えていないのだ。どう一回転したかを。

 それでも、歩くしかない。

 今日はPCTでの大きなポイントの一つでもある川がある。僕達はあえて迂回路を選択せず今ここを歩いている。この先の川には以前橋がかかっていたが、増水で流出してから長い間そのままなのだ。しかし、運の良いことになぜか代わりの太い木が川に横たわり橋の代わりを成しているのだ。驚きだ。

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 足の痛さは消えることがない。これはちょっとした不具合ではないとすでに気づいている自分がいる。心がざわめく。やはり封鎖されている区間だからだろうか、大きな倒木が僕達の行く先を阻んでいる。それらを乗り越えていくと今度は本番の予行練習とばかりに川に木が横たわる。慎重に丸太の橋を通過する。

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 もう一本丸太橋を超えたところでハイカーのテントを見つける。Transientだ。この天候の中1人で歩き続ける彼はとてもタフだ。変わり者だが、尊敬する部分もある。ここはトレイルの分岐。近くにトイレがあるらしくサインが付いている。木で作られた枠の上にフタが載っている、初めてみる形。大きな穴でも掘ってあるのだろうか。

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 雨は小降りになり空は明るくなって来る。分岐からすぐに大きな河原にでる。方向が分かりにくいが、小さいケルンが積まれているのでそれを目当てに進むと、轟音と共に川が見えてくる。Suiattle Riverは僕が想像しているよりも流れが強い。丸太の渡渉くらいは今までもたくさんしてきているのだから、何を大げさな、と思っていたが、どうやら大げさでは無いようだ。白く濁った水が激しく流れいる。距離も思っていた以上に長い。さらにやや登りな上に上流から流れてきたに違いない木が引っかかり、通行を困難にさせている。この流れの強さと水量では万が一落ちたら命の危険に直結することは間違いない。もしかしたら、PCTで最も危険な箇所なのかも知れないと、目の前で見て初めて気づく。

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 テンジンやガットフックはなかなか来ない。僕の後ろからトランジエントがくる。
“すごいな”
“うん、結構すごいね”
このまま待っていると怖じ気づきそうだ。行こうとするとトランジエントが、
“先に行くよ”と言う。
太い丸太だから歩けそうだが、すっかり濡れているし、万が一を考えると歩くのは恐ろしい。トランジエントは丸太に馬乗りになってお尻をずらしながら前進していく。渡りきった彼はガッツポーズとともに声を上げている。次は僕の番だ。

 “ずりっ。ずりっ。”
慎重に慎重に少しずつ。ミスはできない。微妙な登りが進みにくさを倍増している。途中までは問題ない。問題はこの丸太に引っかかっている木の根が先に行くのを邪魔していることだ。馬乗りのまま行きたいが、それも怖い。軽く立ち上がり、慎重に一歩一歩前に進む。そのあとまた馬乗りになって進む。向こう岸に到着。
“イエーッ!”
思わずトランジエントとハイタッチだ! シエラネバダのマーサーパスを思い出す。あの時にも頭がぴりぴりするほど緊張したが、今回も同じようだ。
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その後、ティックはあっさりと歩いて渡ってくる。みんなで、クレイジー、だと言ってやる。テンジンとガットフックも慎重に確実に渡ってくる。みんな緊張した顔で面白い。全員無事通過!危険箇所はもう無いはずだ。

 その後、急な登り。昨日と違って楽なのはあまりスイッチバックが多くないこと。足は相変わらず痛い。痛みが引くどころか増して来ている。昨日までなら止まらずに歩けたろうに、今日は休まなければ辛い。みんなよりどうしても遅れるが、自分のペースを守るしかない。樹林帯が長く続き、雨風から守ってくれるのがありがたい。

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 また開けた場所に来ると山から吹き下ろす風の冷たさが体に堪える。素早く抜けたいが体は言うことをきかない。そして足に無理をさせられない。時々足から変な音が響いてくる。不安を打ち消すように歩く。

 風を避けられる小さな樹林帯に入り、ガットフックと腰をかけ休憩。テンジンとティックを待つ。
“そのレインスカートどうだい?”とガットフックに質問する。
“うーん。悪くないよ。だけど、びしょ濡れだけどね”
“ぼくも一緒だよ。これはウィンドパンツだから、中までびっしょりさ”
“きついな”
“うん。きついね”
そう言って笑い合う。

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 ここからは長い長い下り。ずっと谷に沿って下りていく道だ。今の足には下りが本当にきつい。みんなと話す時は笑っていられるが、本当はとても怖い。でもここからはみんなで一緒に歩いていく。たぶん僕は着いていけないけど。でも1人よりは心強い。


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 雨もそうだが、水滴のたっぷり付いた濃いブッシュに何もかもずぶ濡れにされる。さっきまでの吹きっ晒しは寒いけど、あっちの方がまだ濡れないくらいだ。標高が下がるにつれて気温が上がって行くのが体感出来る。とにかくKeep Going。歩みを止めずに進むのみだ。この谷沿いは穏やかなのだろう。たくさんのキャンプサイトがある。


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Hemlock Campはしっかりと整備されていて、門まで付いている。Spruce Creek Campを過ぎてだいぶ暗くなってくる。でも歩みを止めない。
“明日を楽にするためにも、もう少し歩きたい”とガットフックが言う。
みんなも同意する。僕は足が痛くてどんどん速度が落ちているがそれでもみんなと一緒に行こうと決めたのだから歩こう。ブッシュをかけ分き進む。

 もうほとんど暗くなっている。ヘッドランプの明かりが無ければちゃんと地面の確認ができないほどだ。そしてTrail の分岐点にあたる場所、Stehekin に向かうバスの出るHigh Bridge から5miにあたる、5mi Campに到着する。広々して気持ち良いところだ。風も無く、さほど寒くもない。急いで各自テントを設営。テンジンとティックはタープを張れる木を探して離れたところへ行く。

 雨はほぼ止んで、空を見上げると星が!そして月明かりが照らしてくれている。晴れて来ているのだ。一体何日ぶりの星だろう。燃料が余っているので、テントを暖めようとストーブをたくとテントがあっという間に乾いていく。こりゃいいや。食事の後に、テンジン達の所へ行くと焚き火をして自分たちの服を乾かしている。おかげで僕の濡れた服もほとんど乾く。これはありがたい。寝袋も乾かしたいと思ったが、穴が空いては一大事。

 入った寝袋は今朝のまま湿っていて冷たいままだが、なんとか今日はちゃんと寝られそうな気がする。明日は最後の補給地点、Stehekin。楽しみだ。



9/21(Tue) Hiking Day123/ 5mi/ 6:50am- 8:30am (1:40) /NB 2574mi
5 days left!!!!!
“Moment”

 昨日の夜、焚き火に当たったり、ストーブでテントを乾かしたりと遅くなってしまい、少し眠い朝。でも、雨がない夜と朝は久しぶりで、良い眠り。テントは昨日乾かしたまま、ほぼ変わらず。むしろ地面側が乾いてしまう不思議な朝だ。気温は5℃くらいまで下がり、寒い。山の高い所は白くなっているのが見える。一日ずれていたら辛い夜だったろう。

 全てウェットな状況だけれど、雨が降っていないことがとても気持ち良い。空も青空が見えていて素晴らしい。ここから5miでバス停のあるHigh Bridge に着く。二時間くらいのもんだろう。またブッシュの露で濡れてしまうだろうから、ウィンドパンツをはいて出発。ずっと濡れている状況が続いていたので、股ずれが痛い。小さいアップダウンも川沿いの道は歩きやすくついついスピードがあがってしまう。しかし、足は昨日とほとんど変わらずに痛い。時間が経っても良くならない。

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 歩き方が良くないのだろう。注意が足りないのだろう。その瞬間。一瞬の出来事。“ぼきっ!”
“ぐあっ!”
そんな声漫画の中だけだと思っていたけど、自分の口から出る。痛い!ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。ヤバい。痛い。痛すぎる。なんだこれ、この痛さは。ダメだ、これは。思わずうずくまる。動かすだけでも痛い。足を着いた瞬間に痛い。痛い。今までたくさんの経験してきた痛みの中でもトップクラスだ。

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 頭がチリチリする。高い集中をしているときと似ている。だけど、違う。痛みをごまかすために脳内の何かが出ているのだ。足を引きずるようになんとかハイブリッジまでたどり着く。みんな笑顔だけど、僕は笑えない。笑っているけど、笑っていない。バスの来る間、乾かしものをしながら、一服して休憩。頭のなかではものすごく焦っている。どうしたら、どうなるのか。

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 バスはミッキーマウスみたいな色をしたクラシックなスタイル。女性の運転手だ。ここからは約10miの距離をバスで移動だ。とりあえず少しだけでも歩かなくて良いのでほっとする。途中でバスに乗ってくる人がいる。観光客のようだ。バスはStehekin River に沿って進んでいく。とても美しい景色だ。しばらくしてStehekin Valley Ranch に到着する。ここには小さなアウトドアショップがあるらしい。見てみると本当に小さな小屋の中にアウトドアグッヅが所狭しと並んでいる。しかし店員がいるでもなく、お土産屋の一つのような感じだ。

 次にバスはRainbow Fallsという滝に着く。運転手は気をきかせてくれて、見てきても良いよ、と言う。同乗の女性もみんなも喜んでいるが、僕は足が痛くて歩きたくない。歩きたくないけど、せっかくだから行くそぶりでも見せないと。結局滝まで行くが、滝は綺麗だったけどカメラを持っていくことすら忘れている。

次はBakery の前を通るらしい。テンジンが運転手に寄って欲しいと言うと、運転手は
“Bakery は今日休みだよ”と言う。
なんてことだ。みんな楽しみにしていたのに。しかし、すぐに、
“多分、小屋に売っているはずだよ”と言ってベーカリーの前に止まってくれる。ベーカリーはやはり休みだったが、その前に立っている小さな小屋の中に作りおきの商品が売っている。やった!めちゃくちゃうれしい。
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シナモンロールにアップルパイにチョコケーキとたくさん買い込む。休みと聞いた時は焦ったが、食べることができてほっとする。

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 そのあと三度目に寄ってくれたのはオーガニックのフルーツを作っている農園だ。そこの美しさといったら驚いてしまう。美しい花々に囲まれたまるで天国の絵のような美しい庭園だ。ここで作っているフルーツを買うことができるようなのだ。時期が時期なので果物の種類は少ないが大好きなプラムとピーチを買うことができたのでうれしい。

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ちょっと一つ食べてみるが、恐ろしいほど美味い。

 Stehekin Landingに到着。キャンプサイトはここよりも手前にあったのだが、部屋が空いていたらみんなでシェアしようという話になっていたのだ。時間が早過ぎたせいでまだフロントが開いていなかったので、2階のテラスにある小さなストアやレストランを覗きに行く。ストアにはこれといったものはない。足首用に何かできないかと思ったけれど、専用のものは無さそうだ。膝のケアをするために巻いていたテーピングをなんとか使いながらいくしかなさそうだ。

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 結局フロントがオープンよりも早く対応してくれたお陰でなんとか昼前には部屋に入ることができる。基本的にアメリカでは一般的なロッジルームだが、比較的広くて良い場所を提供してくれたようだ。あいがたい。それでもベッドh二つ、ソファが一つなので、だれか1人は床に寝なくてはいけない。僕が、と言おうとするとガットフックが、ベッド使いなよ、と言ってくれる。みんなも同意してくれる。僕の足首がただならぬ状況だというのは言わなくてもさすがに伝わっているようだ。ありがとう。みんなの気持ちに感謝して受けさせてもらう。

 ハイカーはこれからが忙しい。まずは濡れものを干す。テラスが広いので物干には困らない。各自の寝袋とテントが疲れを癒すように涼しく乾いた風に当たっている。そのあとは順番にシャワーを浴びて体を綺麗にする。ほとんど毎日濡れていたから、それほど汚れている感じがしないのが悲しい。特に足回りはあまり汚れていない。足首の痛さでバランスを取るのも大変。そのあと汚れ物を持ってコインランドリーへ向かう。使うコインはさっきストアで洗剤を買う時に両替してもらっている。

 コインランドリーにはすでに先客、トランジエントがいる。僕らより後にいたはずなのに。彼はキャンプサイトに泊まるようだ。節約のためには賢明な判断だ。僕が足を引いているを見て尋ねてくる。
“Turtle、どうしたんだい”
“足首をひねったようなんだ。ものすごく痛くて、歩けるかな〜。”
と苦笑いしながら僕が言うと、彼は真面目な顔でいろいろな処置を教えてくれる。きっと根は優しい人なんだろうな。それは長い付き合いだから分かる気がする。でも、ちょっと変わっているし、僕以上に余計な一言が多い。余計な二言、三言だから、、、嫌われてしまうのだろう。

 洗濯が終わるのを待つ間にPost Officeに食料をピックアップしに向かう。これが最後のリサプライボックス。Cascade Lacksから送ったのはもう3週間も前のことだ。チーズやサラミなどの生ものもあるけれど、果たして本当に食べられるのだろうか。まあ、アメリカの食べ物はなんとかなるんだろう。という確証のない確信。小さなポストオフィスだが、最後にふさわしいと僕は思う。

 再びランドリー。今度は乾燥機。寝袋もついでに乾かしてしまう。この建物の隣にはこのエリア唯一の公衆電話がある。妻に電話してみたが出ない。また夜にしてみよう。日向ぼっこに、一服。至福の時間。

 その後ものんびりとする。氷をもらってきて足をがっつり冷やしてみる。これに効果があるのかは分からないがするしか無い。冷やすか温めるかは心地良く感じる方を選べば良いと聞いたことがある。それにこれだけの痛みってことは間違いなく炎症を起こしているのだろう。

 夕食はレストランで、トレイル最後の豪華ディナーの予定だ。痛い足を引きずりレストランへ行く。近いのにこんなに大変だとは。シンプルで小さなレストラン。ここのウェイトレスが普段はBakeryで働いているというので、ホールのケーキを作れないかと昼間相談していたのだが、作れないということらしい。残念だけれど、十分だ。夕食にはトランジエントも参加することになり、なんとなく微妙な空気。でも、みんな大人。楽しい夕食の始まりだ。それぞれ注文するが、ガットフック、テンジン、僕はでっかいリブステーキを注文。これで力をつけて、最後のトレイルを歩くつもりだ。ここからのカナダボーダーまでは約81mi。やっと81mi。もう81miなのだ。たらふくステーキを食べたが、まだ何か足りない。ウェイトレスのお姉さんに相談すると、カットのケーキとアップルパイがあるという。ティックとテンジンはケーキを頼み、ガットフックと僕はアップルパイにアイスクリーム付きで注文。来て見てびっくり。アイスクリームの載り方が尋常じゃない。きっとサービスかもしれない。だってアップルパイよりも主張するほどの量なのだから。
“でもぺろっと食べちゃうだろ?”とガットフック。
“もちろん”と僕。
次の楽しい、美味しい食事をするのはゴールしてからだ。

 部屋に戻る前にがんばって歩いて電話をしにいく。しかし、今度も妻は電話に出ない。励まして欲しいのだろうか。留めて欲しいのだろうか。分からない。普通は時間とともに引いてくるのが痛みだが、僕の足首の痛みは引く気配がない。恐ろしいのだ。もしこれ以上悪化したら。もし途中で歩けなくなったら。もし誰にも見つけてもらうことができなかったら。不安が僕を包んでいく。まさかここまで来てこんなことが、こんな気持ちになるなんて。どうする。どうする。考えはまとまるわけない。時間が過ぎていく。とにかく眠ろう。明日になれば。明日になれば。
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by hikersdepot | 2013-05-14 17:13 | PCT 2010 by Turtle
Dinsmore’s to Stehekin, WA/ Day149– 153/ Hiking Day119- 123/ 2476.6mi- 2574.4mi/ 97.8mi/①
9/17(Fri) Hiking Day119/ 18mi/ 9:40am- 6:30pm (8:50) /NB 2494mi
9 days left!
“Decide”

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 昨日はほとんど降っていなかった雨は遅くから本降りになっていたが、目覚めてみると止んでいて空には晴れ間も広がる。雨が降っている覚悟を決めていたのでうれしいことだ。妻に電話をするとたまたま自分の実家にいて、母の声を久しぶりに聞く。聞き慣れた、聞かなくても忘れようの無い高い声。ぐっと懐かしさが胸を襲う。

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 急いで出ることもないので、朝食を食べてから行くことにする。ストアに向かうと、昨日の夕方の嫌な女性ではなかったので一安心。今日も大好きなパンケーキと卵とベーコン。本当はパテソーセージなら完璧だ。腹を壊すんじゃないかというくらいたくさん食べる。食べ過ぎだとしても食べる。みんなとの楽しい朝食。しかし、Uncle Tom とGeneral Leeはきっとこれが最後だろうと言って僕の連絡先を聞いてくる。僕も察していたが、どこかこれがまだ続くような錯覚がある。早く終わりたいような、でもずっとこのまま続いて欲しいような。

 レインウェアをシアトルまで買いに行きたいと言っていたブラックはDinsmore夫妻がシアトルに行ってくれるご近所さんを探してくれたらしく、戻ってくることもできるようになったらしい。
“あまり軽いものは売っていないと思うけど、安いのは手に入るよ”
“うん。それに期待しているよ”
とにかく彼が旅を続けられるようになり僕もほっとする。お互い最後まで気をつけて行こうと声をかけ合う。

 ほかのみんなはZeroDay。みんなに別れを告げて1人出発する。
“さぁ、国境までの残り。一人でも、天気が悪くても、歩き続けよう!”
そう小さくつぶやいて出発。ストアの前でヒッチハイクをする。さて、どれくらいでつかまるだろうか。

 ところが、予想と期待に反してあっさりと車が止まる。小さい、ジムニーの様な、ジープ型の車だ。乗っている人は白人でちょっと痩せ過ぎが気になるような人だった。でも、なんとなく悪い人のような気もしないし、
“どこまで行きたいんだい?”
と言った言葉で心が決まる。彼は遠くモンタナから仕事の為にワシントン州へ来ていると言う。娘と奥さんを残して来ているのだが、これから一時帰宅するという。とても長い旅だ。その旅の道連れができると思って乗せてくれたのだろうか。短い間だけれど、少しでも気晴らしになればと思う。
“どこから歩いて来たの?”
この質問に、おそらく彼はPCTを知らないだろうと思って、メキシコ国境から、と言ったあとに彼からの新たな質問が来る前に話し続ける。信じられないな、と良いながらもとても興味を持ったような目を僕に向けてくる。Skykomishを過ぎるとき、見慣れた3人が立っているのが見える。Guthook、Tangent、Tickだ。
“彼らも同じかな?”
“うん、そうだよ。ぼくの仲間さ。”
あの3人もゼロを取らずに今日出発なのだな。楽しい時間はあっという間に過ぎて、Stevens Passへ到着。ヒッチハイクに慣れて来た僕は礼儀として、
“いくらかな?”
問いかけると、
“そんなものいらないよ。気をつけて、旅を続けて!”
そう声をかけてくれた。
“あなたも!”

 歩き出す前にストレッチなど準備をする。その間にガットフックたちも到着する。彼らも結構スムーズにヒッチハイクができたようだ。
“やあ。悪くない天気だね。”
“そうだね。このまま保ってくれれば良いけどな。”

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 しばらくは平凡なトレイルを進む。いかにもTH近くのトレイルという雰囲気だ。出発前に妻にもう一度電話をして元気をもらったはずなのにどうも気分が乗らない。3人はスタスタと早いペースで行ってしまう。マイペース、マイペースさ。と、その3人がさっそく立ち止まっている。どうやらデイハイカーと話しているらしい。傍らには大人しくしている犬が一匹。もし、犬連れでPCTを歩けたら楽しいだろうか。面倒もありそうだけれど、寂しくはなさそうだ。

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 しばらくは雨が降らないで歩けたのだが、昼には空はあっという間に厚い雲に覆われてくる。そしてパラパラと雨。予想通りということだけれど、やはり雨になると心は落ちてくる。写真も撮ることも忘れ、心に余裕の無いまま歩き続ける。

 ちょっと休憩する。いつの間にかペース復活で3人よりも先に来ている。雨もまだひどくないので、丸太に腰を下ろして休んでいるとガットフックが1人やってくる。
“やあ。”
“やあ。”
彼とも長い付き合いになったもんだ。密な時間を過ごしているのはチャーリーだけれど、ガットフックとは時々追い越したり追い抜かれたり、でここまで来ている。
“タートル。もし君さえ良かったら一緒に歩かないか?”
唐突に彼が言う。
“キックオフパーティの2日後に会ったから、まだ100mi歩く前だよ。その時に会っていたハイカーとこうしてまた会えているなんてすごい事だと思わないか。だから、一緒に歩かないか。”
また誘われている。もう最後まで1人かな、と思っていただけに意外だし、うれしくもあるけれど、驚きでもある。なんだろう。結局ボクはこういうことなんだ。自分で意識してないけれど、誘いやすいのかな。なに一つ思い通りにいかない。もちろん、一つ一つは自分の選択だ。けれどそのどれもボクが思い描いていたものとは違う。こうしたい、ああしたい。そのほとんどが叶わない。人の誘いを断る勇気もない。流れて行く自分。でもその中で生きていくのが僕という人と成りなのだろう。それでも良いさ。見えるけど掴めない雲のように、感じるけど見ることのできない風のように、掴めるけど留めておけない川の流れのように生きていくのも悪くない。たくさん蛇行して行こう。時に乗り越え、回り道をして行こう。一つ一つは自分の意志でも、抗えない流れの中で生きていこう。これが僕の旅。僕の生き方。僕の人生。どこに流れ着くのだろう。楽しみでもあり、ものすごく不安でもある。でも流れている。流れていく。留まることの無い、掴めない、見えない、強い流れの中で。
“ガットフック。ありがとう。一緒に行こう。”

 3:00pm頃からは雨となる。気温自体はそれなりに高いので寒くは無いのが良かった。これくらいの雨ならばもらったレインカバーも十分働いてくれる。ありがたい。その後雨は本降りになってくる。写真を撮る余裕もない。ここまでしっかり雨に降られるのは久しぶりだ。景色を見る余裕も無い。樹林帯をひたすらに歩き続けるだけ。

 なんとか今日のキャンプを予定していた、Pear Lake。きっと上からみたら洋梨の形に見えるのだろうけど、そんな余裕あるわけない。各自良さそうな場所にテントを立てる。テンジンとティックはタープとビヴィの組み合わせ。風を避けられる場所やロープを張る場所に苦労している。この風と雨じゃあ、さすがに大変そうだ。PCTを通して考えれば、ほとんどタープでも事足りるだろうが、今年みたいに天気が不安定で寒い年では辛そうだ。とはいえ何とかなるから彼らはここにいるのだから、人間の慣れって怖い。かく言う僕のテントも一般的に見れば決して褒められたもんじゃないんだろうね。

 外はびしょ濡れ。中は結露でびしょ濡れ。こういう毎日ももう少しで終わるのだな。さて一日を楽しんでいきましょう。でもやっぱり、この雨は辛いな。朝には止んでいることを祈る。



9/18(Sat) Hiking Day120/ 26mi/ 7:00am- 6:40pm (11:40) /NB 2520mi
8 days left!!
“Lull”

 雨は止まずに朝を迎える。そんなもんだ。濃い霧の中スタートする。時間は7:00amだけれど明るさがまだ完全ではない。明るくなり始める時間が遅い気がする。日暮れも早まっているようだし、どんどん秋が来ているのだ。いやもう秋か。

 昨日ほどの降り方ではないので助かるが、気温が高めのようでレインウェアを着ていると暑い。けれど脱いだら濡れてしまうだろう。雨はそれほどでも無いのにブッシュが多いため、それに付いた露で濡れてしまう。ハイキングパンツは早々にぐっしょりとなり、中まで染みてきてしまう。

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 昨日と違い見渡しがきくので雨でも楽しい。それに変化に富んでいるのでなおさらだ。しばし登りが続き、大きく下った後にまた登りにさしかかる。その頃には雨が止み始める。陽射しもさして来たのがうれしい。雲が取りきれることは無さそうだが、それでも雨と比べればずいぶん助かる。

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 雲の中から覗く頂。あれはなんだろう。
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 途中からは標高をあまり変えずに進む山肌のトラバース道に変わり一気に歩きやすさが増す。久しぶりの歩いていて楽しい道。きっとここなら怖がりの妻でも喜んで歩いてくれるだろうな。ここまで来るのは簡単じゃないけれど。

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 Indian Creek TRの分岐に着く頃には陽射しがはっきりとしてくる。4人ともここで一休み。ここは少し開けていてキャンプするにも良さそうな場所だ。
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雨具を脱いで、乾かす。ついでにびしょ濡れのテントも乾かすが、気温が低いのと、陽射しが続かないせいでなかなか乾かない。バックパックの上にくくり付けそのまま歩くことにしよう。歩くと風も起きるから余計に乾きやすいだろう。ここの道標には一枚の注意書きがある。ここから先に橋が流出し渡れない川があるから迂回することを勧めるものだ。しかしその川には丸太がかかっていてそこを渡れるらしい。多くのPCTハイカーは勧告を知りながらもPCTを進むという。かく言う僕らもだが。

 その後も快適なトレイルは続く。とても気持ちが良い。相変わらず空に雲が多いのだけれど、空を見る限りすぐに雨になりそうにはない。安心して楽しもう。稜線に沿った道は紅葉が少しずつ始まっている。
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 気持ち良く歩いていると前方のトレイルの上に何やら不思議なものが。近づいていくとそれが立っているマーモットだと分かる。そう思うと周りから良く聞こえてくる動物の鳴き声はこのマーモット達だと気づく。近づくと、さっと身を隠す。ところが隠れたそれはトレイルに沿っていて、おそらくは自ら作った巣穴なのだが、あまりにも発見されやすくはないか。確かに陽当たりも良く出入りもしやすいのだろうけれど。それだけ普段歩くハイカーが少ないのかも知れないな。巣穴を覗いてみると、お尻だけ微妙に見えている。頭隠して尻隠さず、とは言ったものだ。

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 素晴らしい景色とマーモットに囲まれながら進んでいく。そして少しずつ山容が変わり、大きく雄大に広がってくる。


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 Red Passからは稜線を離れ、明らかに雪によって削られてできた、滑りやすそうな斜度の、大きなカールの谷を進む。そこをゆっくりと下って行く。
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 やや斜面をトラバースして谷に沿ってカーブをしていった先には大きな、それは大きなピークがそびえている。雲が上がってきたお陰で見えたのだ。あれがGlacier Peak。
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 一年中雪を頂く山。雄々しく僕らにその勇姿をやっと見せてくれる。おもわず4人で興奮して写真を撮ってしまう。お互い撮り合ったり。自分の旅だと自分の写真は本当に少ない。せっかくだから撮ってもらうことにしよう。
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 その後もグレイシャーピークは姿を見せ続けてくれる。空に浮かぶ雲も垂れること無くなんとか保っていてくれている。
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 大きい深い谷をずっとずっと下っていく。時間は午後6時を過ぎていく。そろそろ今日もキャンプする場所を見つける時間だ。ちょうど下りきった辺り、Baekos Creekの橋を渡る。その先に少しだけ平らな場所を見つける。この辺りが納めどころのようだ。

 クリークの水はSilty な状態。Siltは砂よりも小さく粘土よりも大きい細かい鉱物が砕かれたもの。それが水に混ざっている。言ってしまえば泥みたいなものだ。身体には、良いわけではないだろう。だけど、これしかなければこれを飲む他ない。バンダナで2回ほど漉してみるが効果のほどは見られない。そりゃもっともです。フィルタータイプの浄水器を持っているが、これにSiltyな水を通したら一発でフィルターの目が詰まる。経験済みだ。浄水剤だけ、気休めに入れて使うことにする。

 木々の下で焚き木を集めて焚き火をすることに。本当はファイヤーサークルが無ければだめなのだが、ティックとテンジンが濡れたものを乾かしたいと言う。彼らはタープだから、ビヴィなしのテンジンは僕以上にひどく濡れているのだろう。後片付けだけはしっかりやることを決めて焚き火をしよう。火は本当に暖かい。身体の芯を暖めてくれる。それに微妙に濡れた服がどんどん乾いていく。結局ほとんど濡れずに今日は歩けたし、景色も素晴らしかった。あれだけ濡れたテントもなんとか乾いた。このままなんとか保って欲しいと願う。

 しかしパラパラと雨は降り出す。さすがに毎日の雨にうんざり。ワシントンに入ってからというもの2日間連続でまともに晴れた日が無い。なんとかこのまま小降りの状態でいてほしい。

 願いは叶わずに、午後9時過ぎからはしっかりと降ってくる。明日はどんな一日になるのだろうか。今日の様な一日を願うが、僕の願いは叶わないのが僕のセオリーだ。


9/19(Sun) Hiking Day121/ 23mi/ 6:50am- 7:00pm (12:10) /NB 2543mi
7 days left!!!
“Twist”

 雨が小降りの朝。願いは届いたような届いていないような。昨日乾かしたって、結局は濡れてしまったテントを素早く撤収し出発だ。

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 ワシントンの自然はカリフォルニアやオレゴンとは違い、多くの湿気を帯びているせいかシダ類や苔も多い。ところが、今日からさらにその苔の多さや大きさに変化が見られる。本当に豊かさを感じる森だ。その薄暗いしっとりとした森の中を歩いていく。

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 この辺りの川はどこもSilty な状態だ。きっとGlacier によって削られそれが水に溶けているのだろう。そしてこの辺りの川は嵐になると猛威をふるうことは間違いなさそうだ。目の前にある橋もなんとか渡れるものの、真ん中から真っ二つだ。

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 昨日と同様に雨が落ち着いてきて陽射しがさしてくる。きっと今日も回復してくれるに違いない。削られた大きな谷がずっと遠くまで続いている。

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 色づいた山の中に積極的に飛ばない鳥がいる。こんなに近づいているのに飛ばない鳥。山の鳥で心当たりがあるのはGrouse(らい鳥)だ。そういえば以前もどこかで見たな。どこだったろうか。いや、見たような、見ていないような。


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 昨日よりも雲は濃く、ガスはたれ込めている。雨も止みそうで止まず、時折降ってくる。強く降らなければ良いけれど。今日の雲は重さに耐えられなさそうだ。歩きやすい稜線に沿った道を歩いていく。ちょうどこの東側にはGlacier Peakがあるので、天気が良ければもっと美しい景色があるのかも知れない。でもこの程度の天気で済んでくれていることを感謝しなくちゃいけないのかもな。

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 下に見えるジグザグ道。長く遠いスイッチバックだ。


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 なんとか、雨にもひどく降られないままMica Lake へ到着。とても美しい景色で気持ちが良いのでここで休憩する。陽射しも少し差しているのでみんなテントなど広げて乾かしている。池に水を汲みにいく。このまま一日が終わってくれれば良いな。食事をして一服。すると、また雨がパラパラと。またすぐに止むと思っていたら、どうやらそうでは無いらしい。降りが強まってくる。急いで出発の準備をして歩き出す。

 雨が強く降り出す。これはどうやら本降りにとうとうなったようだな。覚悟を決めて谷底に向かって下っていく。とても長い下り道をずっとずっと下りていく。長くてうんざりするが、天気が良かったらさほどかも知れない。一度下りきった後今度は急斜面をスイッチバックしながら登っていく。とてもブッシュが多く、雨はさほどでもないのに身体をどんどん濡らしていく。着ている雨具の中は汗でぐっしょり。もう全てずぶ濡れの状態になる。いったい何回切り返したのかわからないほどジグザグな道だ。標高が上がってきたせいだけでは説明ができないほど気温が低くなってきている。登りで身体も熱を出しているはずなのに身体が温まらなくなってくる。


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 ギャップを乗り越すと景色は開ける。Glacier Peak の山肌を通っていく。とても気持ちの良い雰囲気なのだが、止まると寒くてしかたない。自分でも珍しいくらい寒い。末端は冷えにくい方だが、手がとても冷たいのが良く分かる。グローブもしているが、それもあまり意味がないほどだ。一瞬、霧が取れて、またすぐに霧に巻かれる。ガットフックは見えないくらい前方に、テンジンとティックは見えないくらい後方にいる。しかし気を使うゆとりはない。きっとみんなも同様だろう。

 晴れていたら休憩したいくらい開放感のあるキャンプサイトがある。Dolly Vista Trail Campだろう。一本ある大きな木の下でも雨は防ぎようないが、その下でちょっと休む。着られるものを着込んで、とはいえろくなものはない。ダウンジャケットを着たいくらいだが、夜のことを考えると濡らしたくない。震える手で行動食を食べ、震える身体を抑えつつまた歩き出す。時間は午後6時になろうとしている。とにかくガットフックを追おう。

 まだ雨が小降りになっていることが救い。急斜面を細かくジグザグに下っていく。辛い。身体の冷えは体力を急速に奪っていっているのが良く分かる。とにかくひたすらに下る。トレイルは非常にマッディになりずるずると滑り足を取られ、余計に体力を消耗していく。脳が動いていないのが良く分かる。疲れのピークなのだ。しかし、休めない。寒い。

 斜度が少し緩んだ。周りはだいぶ暗くなって来ている。ぼおっとする。その次、右足が地面を踏むはずなのに、そこには何も無い。地面の上に足がない。疲れていてトレイルをちゃんと見ていなかったのだろう。でもいままで、こんなこと無いのに、でも今がそうなのだ。
“うおっ!”
なんだかよくわからないけれど声を出している。どんな状態で地面を蹴ったのだろう。身体が斜めになりながら、斜面を蹴ったのだろう。いつの間にか体は一回転をして進行方向とは逆を向いて片膝をついている。心臓がものすごく強く鼓動をうつ。
“どっ!、、、、、どっ!”
たしかに崖から落ちそうになったはずだ。道を踏み外したはずだ。でも今はトレイルの上に、まだ、立っている。良かった。本当に危ない所だ。

 頭がスッキリするどころか一層思考が止まる。ただ歩いて下る。今朝決めていたより一つ手前のキャンプサイトにガットフックのテントが立っている。様子からするとだいぶ前についていたらしい。明るさはギリギリ。声をかけるが、外に顔を見せる様子もない。彼も相当疲れているのだろう。僕も自分のテントをすぐに張り潜り込む。

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 全てずぶ濡れ、どうにもならないほどずぶ濡れだ。冷えた体は食事をして少し回復する。この長旅で初めて撮った調理中の写真。ぼくにとっては生活だから写真を撮ることもなかったが、無性に撮りたくなる。

 行動中は食べている時間も無かったので、それも冷えや疲れと直結している原因だろう。でもあの時は余裕を失っていたのだ。食事を食べ終えたころテンジンとティックが到着。もう暗くなっていたし、来ないかと思っていたのだが、途中食事をしてから下りてきたのかも知れない。

 服を脱げば良かった、と後悔は遅い。後悔は常に先にたたずだ。考えもせずいつものように濡れた服のまま寝袋に入ってしまう。しかしいつも以上に濡れていたのだから当然だが、夜中寝袋がぺしゃんこになっているのに気づく。時すでに遅し。とにかく寒さに耐え震えながら寝る。ここまでの長旅でこんな辛い日があったろうか。まだ学ぶことは多い、そのことを痛切に思う。
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by hikersdepot | 2013-05-10 23:38 | PCT 2010 by Turtle
Dinsmore’s, WA / Day148/ Zero Day27
9/16(Thur) Zero Day27
”Probably Last Zero Day”

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 朝、だらっと起きる。この緊張感がない朝がうれしい。妻に電話をする。特別になにを話すでもない。声を聞きたいだけだ。短い時間でも楽しい会話に力をもらう。

 TransientやGolden Bear達は今日出発する。デイブとダニエルも次の場所へと移動するようだ。立ち去る前に挨拶をする。するとデイブがレインカバーを差し出す。昨晩話していたレインカバーについて彼らは覚えてくれていたらしい。彼にとって旅の道具は大切なものだろうに、彼は僕にくれるというのだ。“僕はもう使い終わったから、君が使ってくれよ。”ありがとう。本当にありがとう。感謝しかできない。正直なところこれが本当に必要なのかも分からない。いや、むしろ必要ないことは分かっている。それでももう一度試してみたかった。本当にすごい雨の中、ブッシュの中でもレインカバーが役に立つのかを確認してみたいのだ。

 みんないなくなってしまう頃には第2陣が到着する。Uncle Tomだ!
“トム!来たね。みんなはどうしたの?”
“少しあとを歩いていたから、きっとすぐに来るよ”と言う。
少し早い昼食を食べにストアにトムと行く。店内には5〜6人で一杯のテーブルとカウンターがある。コーヒーショップのようだけど、簡単な料理も出してくれる。卵とベーコン、パンケイキのシンプルな食事でも暖かく、調理してあるだけでとても美味しいしありがたいものだ。
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 続々とハイカー達がご到着で一気に賑やかさを増す。もう気が置けない顔なじみの仲間ばかりだ。みんなそれぞれ自分達の場所を確保し、あっという間に自分の家の様な雰囲気だ。この部屋の広さなら、どんなに酒飲んでたって気にならないよ。
“そう言えば、ガットフック達を見かけないけど”
そう言うとトムは、彼らがSkykomish でステイしていると教えてくれる。あんなにトレイルエンジェル好きのガットフックにしては珍しい。

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 ハイカーのために用意されている一台のパソコンは、残念ながら日本語入力ができないけれど、読むことはなんとかできる。日本とのこういうやり取りももしかしたらこれが最後かも知れない。おそらく次の補給地、Stehekin にはインターネットが使えるコンピューターはないだろうから。

 外に止まっている車のナンバーを見て驚く。『PCT DAD』と『PCT MAM』と書いてある。自分で言うのもどうだろうと思ったが、そのアピール具合はアメリカ人ならではだし、実際にそれだけのことをしているので嫌みがない。
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 『The Almost World Famous Baring Store』。こうストアの入り口に書いてある。これまた自己アピールが大きい。とてもクラシックな作りで、店内も古き良きアメリカの雰囲気が漂う。古いポストオフィスのカウンターの雰囲気がまた良い。

 今日もまた何も無くのんびり。あまりにも何も無く。Snoqualmie Passでもそうだったが、いつもなら街に下りても次への準備で慌ただしい。でも、全ての手は打ってある。『万事を尽くし』、ということか。いいなぁ、このダラダラ具合。This is Life!

 ストアの人達、地元の人達、みんなハイカーフレンドリーで楽しい。なのに、夕方の時間に早い夕食を食べに行くと、その女性の対応がひどい。この店終わる時間が早い。だから、これから準備するのが面倒なのだろう。それは分かる。けど、いかにも嫌そうに、これなら作れるからこれにして、と一方的にホットドッグ決められ、しかも中まで温まっていないという手抜きぶり。がっかり。腹が立つよりも呆れてしまう。日本じゃ絶対許されない対応だろう。でも、いかにも人間的とも言える。むしろ面白く、感心してしまう。昔マーチャンダイジングを学んでいた頃、アメリカの高級店の接客や対応に習え、と先生に言われたことがあったが、そのピンからキリまでがこの国にはあったりする。きっとこの店以上にひどいところもあるだろう。しかし、それを選択出来ることが良いことなのだ。何に置いても自分の選択次第で気持ち良くも悪くもできるのだろう。心持ち次第ということだ。肝に銘じよう。

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 また、雨が降っている。なかなか降り止むことがなさそうだ。遅い時間になって、イスラエル人ハイカーのブラックが到着する。Snoqualmie Passの前で別れたが、のろのろしているうちに追いつかれてしまったのだ。そのブラック、レインウェアを持っていないらしい。確かにここまでの間、最悪無くてもなんとかなるような状況が多かった。晴れる日だけを選ぶこともできただろう。けれど、ここに来て雨が降り続き、その都度待っていては先に進めない状況になっている。やっとその必要性を思い立ったが、雨具を帰るような場所は近くにあるわけない。かといってあげられるレインウェアは今の僕には無いのだ。
“ブラック、どうするつもりだい?”と尋ねる。
“シアトルに出ようと思っているんだけど。ヒッチハイクできるかな”
ここからは相当な距離がある。なんだか心配になってしまうけれど、今の僕にできることなんて無い。ごめん。

 天気予報はかんばしく無い。向こう数日は雨の日が続くらしい。もう覚悟を決めよう。毎日雨だって歩くしか無い。心が決まれば、気持ちもすっと落ち着いてくる。靴擦れの対策も忘れずにしよう。予定では、あと9日!
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by hikersdepot | 2013-04-25 23:15 | PCT 2010 by Turtle
Snoqualmie Pass, WA to Dinsmore’s / Day145– 147/ Hiking Day116- 118/ 2402.8mi-2476.6mi/ 73.8mi/②
9/15(Wed) Hiking Day118/ 25mi/ 6:40am- 6:20pm (11:40) /NB 2477mi
“Another Hiker Heaven

 久しぶりにドライな朝を迎える。今日はテント内にも結露がない。久しぶりだな。天気はまずまずだろうか。

 長い一日の始まり。昨日の下りの続きを順調に歩く。トラバースのトレイルなので特長の少ないトレイルだ。反対側の稜線と谷が見えていることくらい。単調に行くのかと思いきや、そう簡単には行かないところがハイキングじゃあないか。
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 大きな登りや下りはないのに、ちょこちょことGapやPassを超えていくのだ。そのどれもが急登、急下降なので、思いの外体力を削られていく。救いは今日も良く見えている先の景色。遠くそびえるあの山はGlacier Peakだろうか。あそこまであと少し。もう少し。崩れた岩が散乱する草原。白い岩と緑のコントラストが美しく思う。行けども行けども距離は思うように伸びていかない。Glacier Lakeが見えるころ、疲れ果てて休憩。ぐったりだ。ちょうど見晴らしの良い場所があるのでバックパックを背もたれに横たわる。
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 休息で気分も変えて再出発。下からはアウトフレームのバックパックを背負った若者達が上がってくる。父親のものを借りたのだろうか。それともThrift Shopで買ったものかな。コットンTと短パン姿はこれぞアメリカンハイカーといったもの。

 空には雲が増えて来た様だ。標高が下がるとまた雰囲気が変わる。森の中を歩くが、中途半端なトラバース道に比べたらこちらの方が歩きやすいし、楽しい。どうやら僕は森歩きが好きなようだ。自分でも思ったことはなかったけど、どうやら僕は結構真面目に野外活動と向き合うようになっていたらしい。いつの間にか自分が変わっていたのかも知れない。だからこそ、何の利害関係もなくこの文化に寄り添っていたいという気持ちが大きく膨らんでくる。とても矛盾する気持ちが渦巻く。でも今は深く考えるのは止めておこう。今すべきはハイキング。歩くことだ。
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 振り返るとこの区間は人工物が少なく、ほとんどジープロードなどとも交差しない。それゆえの人気トレイルだからほかのハイカーも見かけるのだろう。そんなことをぼんやり考えていたら、デイハイカーが向かいから歩いてくる。シルバーの髪が綺麗な年配の女性が目立つ。3人の女性グループだ。
“こんにちは”
“どうもこんにちは”
そのまま通り過ぎようと思ったらむこうから話しかけてくる。
“あなたはPCTハイカー?”
“そうだよ。”
“Wholeで歩いているの?”これは定番の質問だ。
いつもの感じでいろいろ話すがおばさまがたが集まっているので、質問攻めに合っているように次々に聞かれる。するとその内の1人のおばさまが、
“これ食べなさい。”とミニトマトと青リンゴを出してくる。おぉっ!生もの!!と心の中で声を発する。もちろんありがたく頂くしかない。
“Thank you so much!!!”
びっくりするほど美味しいトマトだ。それを伝えると、これはHomemadeで彼女が作っていると言う。とても気持ちも入っているのだ。それをくれることがうれしい。
“きっとこれから雨になるけど、もう少しだから気をつけてね。”と励まされる。
“ありがとう。本当にありがとう。そちらこそ気をつけて!”
いつの間にか総勢5名になっていたおばさまグループに別れを告げて先を急ぐ。それにしても本当に美味しいトマトとリンゴ。あとに残しておこうと思ったのに止まらない。あっという間に全て食べきってしまう。
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 時刻は午後4時を回り少し過ぎる。小さな丘をひと越えする頃、いよいよ暗くどんよりとした空から大きな雨粒が落ち始めた。一気に降る強さが増して来たので、すぐに大きな木の下に行き、そこで雨具を着る。おばさま達は大丈夫だろうか。どこまで行く予定だったのか、心配だ。雨は止む気配なく降り続ける。

 Lake Susan Jane を通り過ぎると大きなPower Lineが見えてくる。急に人里の雰囲気が増す。目の前には急な登りが待ち構えている。これが最後だと思いたい。気合いを入れて一歩一歩足を前に出し続ける。Gapに着く頃に雨は、降った時も急だが、急に止んでくる。ガスも取れて景色も開ける。Gapに着くと近くにスキーリフトの降車場が見える。Stevens PassもSnoqualmie PassやWhite Pass同様にスキー場のある峠なのだ。
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 Passまでもうすぐ、急いで下っていく。下の方にはセンターハウスだろう建物も見える。気持ちにやっと余裕が生まれる。ところが、これも突然に急に訪れる。腹が痛い。この雰囲気は明らかにPoopが僕を呼ぶ声だ。でもすぐにTHだからなんとかそこまで我慢してもらおう。見えている建物のどこかにはトイレがあるはずだ。ところがトレイルは建物を避けるように違う方向へと進んでいく。
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 頭は真っ白。高いConcentration のなせる技だ。あっという間にTHに到着。ところが見渡す限りトイレらしきものはない。小さな建物があるが、人気は無い。これは無理だ、きっとトイレは無い。しかし、僕の腹は暴発寸前の危険ブザーが鳴り響いている。すぐさま人の目につきにくい場所を見つける。
<しばしお待ちください>
この旅一番の焦った時間に違いない。無事に用が済んだことを感謝。

 THに出る手前には大きなクーラーボックスのTrail Magicがあり、感謝しながら頂く。時間はすでに午後6時を回っているのであんまりゆっくりもしていられない。

 Highway 2、Stevens Pass。雲に巻かれ視界が悪い小雨の降る中人気もほとんど無く寂しさが漂う。車の通りは少なく不安がよぎるものの、そんなことで負けていられない。神経の図太さはスルーハイカーの専売特許だ。それにしても、今日は6つも7つも8つも登っては下り、登っては下りを繰り返し、本当に疲れる日だ。まるで人生そのもの。

 何台目かの車が来る。いつになったら止まってくれるかな。そんなことを考えていたら、車が近づいてきて止まる。まあ、なんてすごい荷物が一杯の車だろう。ミニバンの車内一杯になんだか分からないけど物が詰まっている。ルーフにはカヤック。人の良さそうな、ちょっと個性的おじさんが顔を出す。
“やあ、こんにちは。どこまで行くんだい?”
“Baring に行きたいんです。”
BaringはトレイルエンジェルのDinsmoreの家がある町。その手前にはSkykomish という街もあるのだが、Snoqualmie でたくさんお金も使ったし、少し節約したい。
“Baringには何もないけど。”
そういう彼に地図を見せながらなんとなく説明する。すると彼はDinsmoreの存在を少し知っているようで、すぐに把握してくれる。そうして、助手席にも一杯だった荷物をよけてくれて僕の座る場所を確保してくれる。

 車は西へ走る。23miくらいあるから、しばらくはおじさんとの会話を楽しむ。いったいこの人は車が家なのか。でも家があるのならなぜ車にこれほどのものが溢れるのか。もちろんこの近くに家があるからDinsmoreのことも知っているのだろうから、この車で生活しているわけはないのだけれど。Skykomishは小さい街なので、まともに買い物出来るお店は無いようだ。Cheveron くらい。その割には宿が二つあるようなのが面白い。Dinsmoreのところにも小さなストアがあるらしいのだが、まだ空いているだろうか。
“BaringにはGeneral Storeがありますよね?”
まだ空いていると思うか聞くと、この時間ではやはり閉まっていると言う。一瞬Cheveronに寄ってもらいたいと思ったが、さすがに言うのは気が引ける。そう思った瞬間に車はSkykomish を通り過ぎていく。まぁこれで良いあきらめがつく。
 
 森に囲われた道路はいつまにか線路に沿って走っている。家が数件建っている場所が見える。ここがBaringだ。案の定閉まっているストアの前に止めてもらう。
“家の場所は分かるかい?”
“うん、だいたいね。”
“線路を渡って左に行ったところだよ。”
“なるほど。ありがとう!”
おじさんはたくさんの荷物と共に去っていく。Stevens Passからは思っていた以上に距離がある。戻る時のヒッチハイクに少し不安を感じる。

 幹線道路とアムトラック鉄道の線路が並んでいる。非常に分かりやすい構造だ。ここは交通路の途中にある小さな集落。ストアは案の定開いていない。街灯が点き始める時間。線路を渡り、歩いていく。するとある一軒の家の前に、『Dinsmore’s Hiker Heaven』という看板がある。ここが、もうひとつの、Hiker Heavenだ。

 こんな天気だし、だれも外には出ていない。家と、その奥のガレージ。僕が行くべきはどちらかと言えば、きっとガレージの方になるのだろう。ガレージの窓からは明かりも漏れているし、人の気配もする。ドアを開けると中には数名のハイカーが各自の場所に納まりくつろいでいる。その中には見た顔もある。ちょっとした趣味の部屋のようなインテリア。壁には過去数年のPCTバンダナ。もちろん今年のピンクもある。二段ベッドやソファが適当に並んでいる。どこでも好きにくつろげということなのだろう。

 バックパックをおろし、一旦疲れた身体を落ち着ける。Transient は変わり者のハイカーでこれまでも幾度もすれ違って来ている。久しぶりの再会。Goleden Bear とYuriiのカップルは、トムと一緒に歩いている時、Snoqualmie Pass以前にすれ違ったことがあるのを思い出す。たしかあの時は雨の中で、彼らはその雨で濡れるのをいやがり停滞していたのだ。

 僕はここにも食料ボックスを送っていたのだが、どこでピックアップできるのだろう。すると、初老の男性が入ってくる。彼はここのハイカーヘヴンを開いているDinsmore 夫妻の夫である、Jerry Dinsmoreだ。とっても人の良さそうなおじさんで陽気だ。お世話になります、と挨拶をし、荷物の置いてある場所を聞く。荷物は僕達がいる隣の倉庫の中にあるらしく、室内から鍵を開けたドアから入る。そっちのガレージは、さらに趣味色が強く、ごっつい車はもちろん、かれの趣味らしい様々な模型が飾られている。

 荷物を受け取り、ランドリーやシャワーは自宅にあるので、簡単に説明を受ける。ガレージの中にはHiker Boxもあるし、誰かからの差し入れのフルーツなども少しはある。それ以外にも時間をつぶす為のビデオコーナーやボードゲーム、カードゲーム、それから暖炉などなど飽きずにでものんびり出来るようになっている。街に特になにも無いこともむしろ良いのかも。ハイカーにとってはけっこう遅い時間になっているが、なんだかそんな気がしない。身体の時間がおかしくなっている。とりあえずシャワーを浴びて気持ちをすっきりさせよう。

 いつも街に下りたら、結構贅沢な食事をするのだが、今日はそんな店もないので、あるものを食べよう。ちょうど食料も受け取った直後だし、余っているものは全て食べても良いのだ。外は雨がまた降ってきている。なかなか止まない雨にすこしうんざり。雨の中、外で食事を作っていると車で訪れるカップルがいる。男性の名前はDave(ダイブに聞こえる)、女性はDanielだ。ダニエル?それって男の名前じゃないのか、友達にダニエルという男の子がいるよ、と聞くと、彼女は笑いながら、女性にも使われる名前なの、と教えてくれる。日本の名前だと、まこと、みたいなものかな。

 ダイブとダニエルはPCTを歩き終わっているようだ。シアトルまで出て来てから車を借りて2人でドライブ旅行がてらここに寄ったらしい。そんな楽しみもあったのか、なるほど。2人はそれぞれ違う場所に住んでいるらしく、遠距離恋愛みたいなのだが、もしかしたらPCTがきっかけなのかな?さすがにそこまでは突っ込んで聞けないな。ここからカナダ国境までのことを聞くと、彼らは途中で雪に降られたらしい。その後すぐに融けてしまったということだが、今以上に寒さが気になるところだ。数日前には雷雨がすごかったらしい。雨が予想以上に降るものだから、つらいね。僕はレインカバーを必要無いと思って持ってこなかったが、さすがにこれほど続くのなら、あっても良かったのかと思う。これも今だけの気持ちだし、パックライナーで防水しているから、道具が濡れてしまうことはないので、まあ問題ない。ようは気持ちの問題なのだ。

 今日は本当に長い一日だ。トレイルも6つも7つもアップダウンを繰り返す、けっこう辛い道のりで、身体がじっとりと疲れている。本来ゼロデイは取らないつもりだったけど、明日は一日ここでゆっくりしよう。

 時間がすぐに過ぎていく。Time flies so quickly. この旅の終わりも残り1週間ほどになる。長くてうんざりしていた日々もここまでくれば先が見えてくる。急に寂しくなるもんだ。なんて勝手なものだろうか。思わず笑ってしまう。
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by hikersdepot | 2013-04-18 12:43 | PCT 2010 by Turtle
Snoqualmie Pass, WA to Dinsmore’s / Day145– 147/ Hiking Day116- 118/ 2402.8mi-2476.6mi/ 73.8mi/①
9/13(Mon) Hiking Day116/ 22mi/ 8:00am- 6:30pm (10:30) /NB 2424mi
“Great Day”

 朝はやはり時間通りすっきりとは起きられない。アメリカのTVプログラムは不思議で同じ映画を続けて流したりする。結局ロードオブザリングの興奮覚めやらず、もう一度途中まで見てしまい遅くなってしまったからだ。どうしようもないだめなハイカーだ。それでもゼロデイをとったお陰で体調は良い。日本の妻に電話をして声を聞き、力をもらう。

 トムと昨晩話していた位の時間にモーテルを出る。まだみんなは動き出さないようだ。道路を歩いてTrail Headに向かう。約8:00amにTHから歩き出す。急登からのスタート。大きなスイッチバックをしながら稜線を目指し上がって行く。今日は気持ち良い天気だ。久しぶりの乾いた空気。濃く青い空。山も景色もよく見える。また少し地質や植物が変わったように感じる。登り始めて1時間くらいで稜線が近くなってくる。
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 稜線に出ると景色はさらに開けて美しい。遠くMt. Rainier が見えている。近くを通っている時にはほとんど全貌を見ることができず、やっとご対面といったところだ。ここから見てもあの大きさということは、近くだったらもっと雄大だったに違いない。しかし、これでも僕には十分すぎるほど。
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 山の様相はごつごつとしていて穏やかな雰囲気はない。けれど、小さめな岩山の灰色、限られた場所に根を張る針葉樹の濃い緑と青い空とのコントラストが美しい。振り返るとMt. Rainierを端に、Snoqualmie のスキー場とI-90が見える。トレイル自体はとても歩きやすく、稜線の細かいアップダウンを避けるように巻いている。のんびりと歩みをすすめる。
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 トレイルの上に動いている生き物を発見する。まるまるしているように見える。ありゃなんだ?よく見ればどうやら僕が何度も見たことのある動物、Marmotだ!僕が知っているマーモットが生息出来るだけの標高ではないので、それだけ緯度が上がり寒冷地に入って来ているということだろう。シエラで見たときのマーモットと色が違うように思う。たしかシエラは茶色、ここでは灰色だ。土地柄か、それとも冬毛?食事中なので邪魔をしたくはないのだけれど、僕達は先を急ぐので、申し訳ないが脇を通過させてもらおう。
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 稜線脇にある小さく美しい池、その名もRidge Lake、に到着する。ちょうど昼時なのでここで休憩。ここに着く直前で出会ったデイハイカーも一緒だ。彼が“熊がいるぞ”と僕達に声をかけてくる。確かに反対側の大きくカールした斜面に熊が歩いているのがわかる。あまりに遠くて僕のカメラで写真に収めてもまともに写りはしないだろう。だいぶ北上してきたのでもしかしたらBrown Bearかとも思ったが、トムもデイハイカーの彼もきっとBlack Bearだろうと言う。水を汲み、準備を整えたらまた歩き出す。デイハイカーの彼はここから戻ると言う。互いの幸運を祈りつつ別れる。
 
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 ここから先はもっと素晴らしい景色が広がっている。山肌をトラバースするようにトレイルはすすむ。眼下には大きな湖があり、深い谷になっている。Alpine Lakes Wildernessというエリアで岩山に囲まれた美しい池や湖が点在するところのようだ。歩いているだけで楽しい気分になる。やはり景色を見ながらのハイキングには格別なものがあるな。深い大きい谷の向こう側にはまたMt. Rainier が見える。雲が朝よりも増えているが、それがまた美しさを増しているように思う。ものすごく長い長いトラバース。もし雪がある季節なら雪崩の巣窟だろう。ここからだと前に歩いているハイカーがいるとよく見える。1人僕らの先にいるようだ。また1人見えるがそのハイカーは逆方向で歩いているみたいだ。
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 South Bounderのところに到着。彼は大きく立派なカメラを持っている。彼が言うには、出会うハイカーの姿を写真に撮って歩いているらしい。僕とトムもそれぞれ写真に撮ってもらう。数日前からハイキングしているというのでハイカーの動きについて聞いてみる。昨日は少なかったが一昨日は多かったようだ。やはり僕らの前の大きなグループは約2日先行しているようだ。

 3mi近いトラバース道が終わりGapを越える。そこにはぼくらの前を歩いていたハイカーが腰を下ろしている。景色が開けて綺麗だし、天気も良いし、僕らも少しだけ腰を下ろそう。

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 ここからは大きな下りで山の奥へと入って行く。天気は変わらずに良いままで最高の気分だ。トレイルもおおむね歩きやすく、歩みは軽やか。変化に富んでいるエリアで飽きることがない。今日はまるでシエラネバダのエリアを歩いているような気分だ。Hot SpringのDetourもとても興味があったが、こちらを選んでよかった。またいつかここを歩きに来たときにはこの迂回路を選んでも面白いだろう。

 小さな池を回り込みGapを越えどんどん下って行く。途中には滝が流れ豊富な水を誇る。冬に雪がたくさん降り山に多くの水が蓄えられているのだろう。オレゴンやカリフォルニアのようにトレイルを外れて水を汲みに行かなくて良いので助かる。小さな森林火災跡は長いジグザグ道で下っていく。

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 出発が遅めだったにも関わらず、歩きやすいトレイルと心地よい天気のお陰で、22miをサクッと歩き通し、Lemah Creekに6:30pm到着する。ここのクリークの橋は流出してしまったようで架かっていないが、徒渉も問題なく渡れる。
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 僕としてはもう1mi進みたい。僕としてはあと2日でStevens Passに着きたいのだけれど、トムは3日で良いと思っているらしい。彼らの気持ちも良く分かるし、でも僕は僕のペースで行こうと思う。そうすると、ここでのキャンプがもしかしたらトムと最後になるのかも知れない。そう思うと、あと1mi先に行くことができない。結局30分も悩んでいたが、ここで泊まろう。続々とみんな追いついてくる。リー、ダフ、リチャード、アグゼラ、ガットフック、テンジンと勢揃い。それほど広くもないキャンプサイトがとても賑やかだ。

 楽しい時間だけれど、長くは続かない。まだ明日もあるし。みんなあと3日かけてStevens Passまで行くつもりのようだ。僕1人が2日で行こうとしている。食料はあるけれど、でもここは自分を信じて進もう。明日は25〜27miを歩く。長いなぁ。でも1人、久しぶりにのんびり歩こう。それも悪くない。眠くて眼が痛いな。



9/14(Tue) Hiking Day117/ 27mi/ 6:35am- 7:05pm (12:30) /NB 2452mi
“Hike Alone”

 まだみんなが寝ているか、やっと起き出した頃。僕にとってはいつも通りの時間に出発する。時間は6:30amを過ぎているが、陽射しは森に届かずに薄暗い。日が短くなっていることを痛感する。
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 今日の予定では、大きい登りが二つ。大きい下りが一つ。小さい下りが一つといった感じで、メリハリがある一日になるはず。いきなり壁にぶち当たるように急な登りを黙々と歩く。斜度をなるべく出さないようにたくさんスイッチバックしているので思ったよりも歩きやすい。昨日Gapのところで会ったハイカーが先行している。彼は手作りに違いないシンプルなバックパックを背負っている。せっかくなので写真を撮らせて欲しくて声をかける。彼のトレイルネイムは“Tick”。Tickはそのままダニと言う意味だ。どうしてこの名前なのだろう。気になって尋ねてみると、大きなバックパックを背負って手足が少しだけ出ていて動いている様が似ているからだと言う。なるほどね。彼は話を聞くところによるとテンジンの友達らしい。彼もTangent と同じく1995年にPCTをスルーハイクしている強者なのだ。写真を撮り終え、“じゃあまたね”と先を進む。
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 上に上がってくると周りの山がよく見える。陽当たりの悪いところにはびっしりと雪がついている。このまま万年雪として来年もあそこに残るのだろう。突然“がさっ!”と音がするので見てみると鹿がのんびりと歩いてくる。こいつはずいぶんのんびりやなのだろう。今日も天気が良くて気持ちよく歩けそうだ。雪解けの綺麗な水はとても冷たい。あまりお腹が空くような感じがしないのでとにかく先を急ぐ。ひたすら歩く。あの複雑な山の形は雪に削られたのだろうか。

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 うんざりするほど長い下りが続く。下る、下る、歩く。下りだけでも6〜7miあるのだからすごいもんだ。
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 結局休み無しで、Waptus Riverまでの14.4miを歩く。さすがに疲れたのでここで一休み。橋の上が陽当たりが良いので、昨日湿ったテントを干して気持ち良くドライに。昨日よりもだいぶ暖かく感じる日で、道具は日向、僕は日陰がちょうど良い。暖かい陽射しは喉を乾かすからだ。
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 一つのめの大きいアップダウンの次は二つ目の大きな登り。今度は急登ではなく、緩やかに長い。約8miだけれど、登りということもあってか思う以上に時間がかかる。前半飛ばしたせいで疲れもあるのだろう。ずっと谷の中なのでこれといった大きな変化もなく、黙々と歩くのみ。浅く水がとても綺麗な川を越えるとDeep Lakeに着く。疲れたので湖までは近づけない。湖の上にはCathedral Rockがそびえている。周りは平らで広い高原となっていて美しい場所だ。こんなところでのんびりキャンプができたら楽しいだろう。みんなはきっとここまででキャンプだろうか。僕もしばし悩む。時刻はまだ午後5時前。まだ歩ける時間はある。一休みしたあと、この後水が無さそうなので夜の分の水を担ぎ先へと進む。
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 3miの急な登り。ここもスイッチバックが多いので歩くのはそれほど大変ではないけれど、水を担ぎ疲れた身体にはとても辛い。木々の間から見える景色の美しさが救いだ。Lakeが望める。テントが張ってあるのが見える。まさかトム達ではないだろう。Gapまでたどり着くと、Cathedral Rockが目の前。上の方は少しだけ紅葉が始まっている。素晴らしい景色だ。ハイカー達とすれ違う。彼らはDeep Lake を目指しているのだろう。
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 ここからは下り。Stream Junctionという場所を目指すが、名前とは大きく異なり水はないらしい。下りていくと小さなPondをいくつか見かける。さらに下りていくとどこからか流れの音がする。結局小さなクリークから水の流れもあるし、なんの為に水を担いで来たんだか。少し急な下りをおりきると、開けて平らな場所が現れる。どうやら目的に到着のようだ。なぜ流れの合流点となっているのだろう。あたりを探索してみると、確かに流れの跡がたくさん交錯している。そのどれにも水はなく完全に枯れたクリーク。でもこの谷を少し詰めていけば水のあるところが見つかるような気がする。
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 たくさんキャンプしやすそうなところがあるのでむしろ悩んでしまう。困ったことだ。時間は午後7時を少し回ったくらい。日暮れまでには着くことができて良かった。それでも辺りは休息に暗さを増していく。日に日に駆け足で迫る冬の気配。乾いてとても良いキャンプサイトだと思う。水が流れた跡のない場所を選び今日の家を準備する。
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 今日も良く歩いた。慌ただしく一日が過ぎていく。明日はStevens Passにおりる日だけれど、そこまでもまだ25miもあるのだ。長いなぁ。とほほ。
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by hikersdepot | 2013-04-11 12:44 | PCT 2010 by Turtle
Snoqualmie Pass, WA / Day144/ Zero Day26
9/12(Sun) Zero Day26
“Happy-Go-Lucky”

 寝不足の朝。そりゃそうだ。結局寝たのは朝4:00am。今日がゼロデイだから良いけれど、我ながら困ったものだよ。眠い目をこすりながら起き出す。朝食は昨日買った余り物で済まそうと思っている。ところが、トムが呼びに来て、昨晩のレストランでBreakfast Buffet があるという。なるほど。昨晩だってこれでもかというくらい胃袋に詰め込んだのに、確かに今空腹を感じている。

 レストランにはGeneral LeeとDuffが一緒。Duffは他のメンバー同様に遅れていたのだが、1人先行して歩いてきて昨晩到着していたらしい。体力もさることながら心が強い女性だ。四人で思う存分がっつく。具材を選ぶと作ってくれるオムレツもある。みんな具材たっぷりにして作ってもらう。それ以外にも普通のメニューだが、押さえるところ押さえていて十分満足。アメリカ定番のWhite Gravyもある。僕はこのホワイトグレイビーソ−スが苦手。肉汁を元に作っているのでもちろん不味いわけない。でもホワイトグレイビーは、慣れない味、とでも言おうか。リーやトムはもちろん大好きだ。トムやリーと競うように食べ続けたが、もう腹一杯。リーは最後の一つとマフィンのホワイトグレイビーがけを食べている。さすがだよ。

 本当に今日はすることが無い。こんなにのんびりするのも久しぶりな気がする。いつもなら、街に下り時は次のハイキングへの準備をするのに多くの時間を費やす。でもWashington で必要な食料や荷物は全てCascade Locks から送った。ここSnoqualmie でもそれをピックアップしただけ。先のことを考えるにしてもあと10日強。二週間はかからないと思うので先が見えている。次のSteven Pass経由でトレイルエンジェルDinsmore’sの家に。次は最後の補給地Stehekin。そして、Canada、、、。一体どんな気持ちが僕を待っているのだろう。

 道具の洗濯などを済ます。僕の体はほとんどをベッドの上、そして寝て過ごす。なんて怠惰な、そして幸せで楽しい時間だろう。

 午後前には次々とハイカーが到着する。Richard Wizard、Axera、Mayer、Genius、Guthookはいつの間にか後続。そしてTangent。部屋が満タンになってしまったLeeの部屋。Duffが何人か入れないかと言うが、本当にごめん、と断る。上手く僕の気持ちを伝えられない。5人いるのだから、2部屋とっても良いと思うのだが、そこはなんとか節約をしたいのだろう。気持ちはわかるし、でも酒臭いのも、酒飲み過ぎも、ちょっとお断りしたいのだ。その後はトムが部屋について聞いてくる。その手で来たか。トムには正直に話す。僕の拙い言葉でもちゃんとわかろうとしてくれる。お酒のこと。きっとこれが最後のモーテルで1人で取れるゼロデイ。少しでも心穏やかに過ごしたい。トムはちゃんと僕の話を理解してくれる。わかった、と心強い言葉。みんなに誤解されるかも知れない。それでも自分の主張はしっかりと伝えたいし、伝えなければ本当の仲間にはなれない。でも、ごめん。

 部屋をノックする音。外にはガットフックが立っている。“裁縫道具持っていないか?”との問い。意外とみんな持っていないのだろうか。もちろん快く貸す。頼ってくれることも少しうれしい。

 夕食は再び、いや三度、Webb’sへ。しかし、今夜ロードオブザリングの続き、最終章が放映する。それまでには戻らないと、と思っているとリーやトム、ダフも昨晩見たらしく、意思の統一はできている。今日はステーキでは無く、ハンバーガーにしよう。みんなそれぞれの料理がそろい楽しい夕食。楽しい夕食にはおいしい料理が欠かせないが、ここの料理は申し分無い。量だってハイカーを満足させるのだからすごいものだ。リーやダフともずいぶん長い付き合いだ。もちろん長いって言っても数ヶ月だが、その中で過ごした凝縮された時間が関係を深くさせてくれている。でもこんなにゆっくり話をすることはあまりない。彼らのチーム名がMEGATEXというのはなぜか。General Lee、Richard WizardとUncle TomらがAppalachian Trailを歩いた時、それぞれのハイカーが出会い歩いたのだが、トムは Main州、リーはGeorgia州、リチャードはTexas 州出身でそれぞれの州の頭を付けたのだ。リーは見た目のユニークさからは想像出来ないほど勤勉らしく、英語意外にもスペイン語を話せるらしい。これからはフランス語を勉強したいという。どれも文法がほぼ同じだし、言葉が似ているから覚えやすいのだという。なるほど。“僕は日本語だけだよ。英語も満足に話せない”というとみんなして“十分話せているよ!”と言う。リーにいたっては“俺は全然日本語話せないよ”と。僕も含めて日本人は得てしてほぼ完璧に話せないと、話せる内、に入らない。でも海外の人間はそれでも話せている内に入ると多くの人が解釈してくれる。確かに僕は語彙こそ足りないけれど、今のところ十分会話は成り立っているのだ。リーは“それに日本語はとても難しい”と言う。その理由として文字の多さがあるという。英語はA-Zの26しか文字がなくそれの組み合わせで言葉を作る。それに引き換え日本語はひらがなだけでも46文字。小文字を入れればさらに増える。そこにカタカナ、と漢字の組み合わせ。漢字も覚えなければ。そして日本語には数多くの同音同意の言葉があるからたちが悪い。とても興味深い話。とても面白い。こうしてお互いの国のことを話ができて楽しい。そしてこれだけの会話がなんだかんだとできている自分に驚く。確かに、いつの間にかこんなに話ができるようになっていたのだなぁ。リーはいつか日本で働きたいと言う。“英語の先生とか出来るかな?”という彼の問いに僕は“君なら人気者になれるよ”と答える。

地元の若者が話しかけてくる。彼もハイキングが好きらしく、明日から行くらしい。PCTのことも少しは知っているようだ。THから先ちょっとルートをそれると山中にHot Springがあると教えてくれるが、近くないし、通り道でもない。ありがたい情報だけれど、ごめん、行けそうにないや。仲間達との楽しい会話。地元の人達とのふれ合い。素晴らしい時が過ぎて行く。でもこれももう少しで終わるのか。

 モーテルに戻り、ロードオブザリングの最終章を見る。話している英語の半分も理解していないけれどとても面白い。一度見て話を知っているからというのもあるだろうが、きっと脳のどこかが補完しながら理解しようとしているのかもしれない。今日は映画を見終えたら早く寝よう。でも、ハイキング前日はいつも何度でも胸が高まりナーバスになる。そんな夜もあと数回だ。
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by hikersdepot | 2013-03-27 00:00 | PCT 2010 by Turtle