ANA国内線【PR】
カテゴリ:PCT2010
  • Seiad Valley, CA to Ashland, OR/ Day111-112/Hiking 87-88/1666.6-1730.8mi/64.2mi
    [ 2012-04-20 03:00 ]
  • Castela, CA to Seiad Valley, CA/ Day 105–110 Hiking Day 81–86/ 1510.0mi –1666.6mi(156.6mi) /3
    [ 2012-04-13 23:33 ]
  • Castela, CA to Seiad Valley, CA/ Day 105–110 Hiking Day 81–86/ 1510.0mi –1666.6mi(156.6mi) /2
    [ 2012-04-06 10:28 ]
  • Castela, CA to Seiad Valley, CA/ Day 105–110 Hiking Day 81–86/ 1510.0mi –1671.6mi(156.6mi) /1
    [ 2012-03-09 10:03 ]
  • Mt. Shasta, CA/ Day 104
    [ 2012-02-29 17:49 ]
  • Old Station,CA to Dunsmuir,CA and Mt.Shasta, CA/ Day98 – 103/ 1382.8mi – 1510.0mi(127.2mi)/part4
    [ 2012-02-15 03:17 ]
  • Old Station,CA to Dunsmuir,CA and Mt.Shasta, CA/ Day98 – 103/ 1382.8mi – 1510.0mi(127.2mi)/part3
    [ 2012-01-25 00:30 ]
  • Old Station,CA to Dunsmuir,CA and Mt.Shasta, CA/ Day98 – 103/ 1382.8mi – 1510.0mi(127.2mi)/part2
    [ 2012-01-21 08:28 ]
  • Old Station,CA to Dunsmuir,CA and Mt.Shasta, CA/ Day98 – 103/ 1382.8mi – 1510.0mi(127.2mi)/part1
    [ 2012-01-06 23:35 ]
  • Belden, CA to Old Station, CA/ Day95 – 98 Hiking Day72 – 75 / 1293.8mi – 1382.8mi(89.0mi)/ Part3
    [ 2011-12-07 22:50 ]
Seiad Valley, CA to Ashland, OR/ Day111-112/Hiking 87-88/1666.6-1730.8mi/64.2mi
8/10 (Tue) Hiking Day87 / 30mi / 6:30 am- 7:00 pm (12:30) /NB 1703mi
“Border of Oregon”

何時くらいだろうか。
まだ日が変わる前だと思うが、車が来て去っていった。
何事も無くて良かった。

昨日の忙しさと遅さのせいだろうか、とても眠い朝。
歩き始めるも、すぐに腹が減る。
そして体の切れも悪く、思うように歩みが進まない。
長いロードウォークは足にくる。
天気は雲が多い。
昨日とは違ってひんやりとして冷たい空気だ。
雨が降りそうにも見える。

徐々に稜線に近づいていく。
深い谷の形状がよくわかる。
思った以上に長い道のりで、2時間半くらいかける。
途中滝のように水が吹き出す場所があり、綺麗で冷たい水を補給する。
そこから直ぐに、Cook & Green Pass に到着する。

看板も立っている普通のTH。
そこにはひと張りの、どこかで見覚えのあるテントが。
Sun Seeker だ。
なぜ僕よりも先に、なぜまだここに。
いったいどっちなのかわからないが、とにかくまた見かけるとは。
しかし、彼は遅くまで寝る方なので、結局顔を見ることは無い。

少しトレイルを入った風を防げるところで座って休憩する。
陽射しがないので、けっこう肌寒い。
するとハイカーが歩いてくる。
しかもはだか。
シャツは背中に掛けている。
足元はサンダルにソックスだ。
若々しい体をしているが、40代くらいか、白人のハイカーだ。
名前はFreebird 、初めて会うハイカーだ。
“どこから歩いて来たんだい?”と問われ事情を話す。
すると、ここのトレイルは楽しいのに、と言う。
彼は両方とも歩いたことがあるらしいのだ。
元気よく裸のまま歩き去っていく。

稜線に出てからは今までに無いくらい歩きやすいトレイルが続いていく。
しかし、体は重くスピードは上がらない。
食べても食べても空腹感が消えていかないのだ。


開けた場所で遠くの方まで景色が見える。
あれはMt. Shasta のようだ。
まだここからでも見えるなんて驚きだ。
それだけ直線距離では離れていないところを大きく迂回してきたのだ。

Lowdens Cabin という場所が地図にある。
キャビンがあるらしいのだが、すこしトレイルから入っているのか見えない。
その先に人の声が聞こえてくる。
きっと一人はフリーバードだろう。
もう一人はやはり初めて出会うハイカー、Turtle Done だ。
直訳すれば、完了した亀、ってことだけど。
“ぼくもTurtle だよ”と握手する。
彼は70歳近いのか、結構な歳を感じさせる。
名ばかりの僕とは違い、本当にゆっくりと歩いているらしい。

ここは小さなお花畑になっていて、水が沸き出している。
しかし、流れが小さいので葉っぱで水を流す工夫をしている。
さすが年の功だ。


彼らは浄水しないで直接水を飲んでいる。
大丈夫なの?、と聞くと、沸き出す水は安全だ、と言う。
まあ何となく理屈はわかる。
出て直ぐの水は汚染されていないと言いたいのだろう。


ビィィィィィ、と独特の音が聞こえる。
PCTでは良くお目にかかる機会はある鳥だか、最近多く出会うようになる。
英語でHamming Bird、日本語でハチドリ(蜂鳥)という。
小柄で軽く、素早く羽を動かすことでホバリングをする。
写真を撮ろうとするが上手く撮れない。
こんな時はカメラの性能を感じざるを得ない。

気持ちの良いトレイルは続く。
相変わらず体は思いが、少しずつ動きが良くなっている。
昨日の夕飯を抜いたことで今日の分のエネルギーが少ない状態でスタートしたのか。
注意しなければならない。

前を向いて歩いていく。
歩く。
いくつかのジープロードを通り過ぎていく。


開けている場所で岩にもたれかかり休むことにする。
追いついて来たFreebird は僕に尋ねる。
“Walking girls を知っているかい?”
もちろん知っている。
ずいぶん会っていないが日系の女性ハイカーの兄弟だ。
彼女たちはかわいいよね、と言う。
そんな話か。
“でも彼女達は日系だから日本語は話せないよ、だから深く話したことは無いよ”
それよりもびっくりなのは、彼の経歴。
プロのウィンドサーファーで、ハワイに住んでいるという。
日本人女性のウィンドサーファーとも知り合いで同じチームだという。
さらにPCTは3回目らしい。
他のトレイルには興味がなく、PCTが好きなのだと言う。
そういうハイカーもいるのだ。


彼の歩き方も上手い人の歩き方だ。
いつの間にかずっと先に行ってしまうのだろう。
向かいから来るハイカーにも出会う。
彼はセクションで、Oregon Border まで行って引き返してきたらしい。
“もう少しだからがんばれよ”と励ましの声をもらう。

牛の糞が多くなる。
放牧地なのだ。
稜線を外れて、斜面を降りて行く。
水場があり、斜面から吹き出している。
これも大丈夫なのだろうか、しかし牛の糞があれだけ多いと安心できない。

十字路のWards fork gap を通り過ぎて、窪地に降りていく。
小さい谷間だが、草が覆い繁り、湿地のようになっている。
小さな橋を渡るところに水場があるが、藻が多くあまり綺麗ではない。
しかし、今日はここで水を汲んで、この先でキャンプの予定。
さっき水を多めに汲んでおけば良かったな。

そして山を上がって行く。
もう少しで着くのだろうか。
気がはやる。
それでも一歩一歩。

それは特別でも無く、普通にそこにある。
やっと辿り着いた!
California の終わりだ。
Oregon Border!
先に着いていたFreebird と喜びを分かち合う。
彼にとっては3回目だが、それでも噛み締めるものはあるようだ。
ボーダーにある、レジスターには日本人の名前も残っている。
Yas の名前はもちろんだが、それ以前2003年のハイカーの名前もだ。
感慨深い。
これが終わりではなく、まだ続くのだ。
しかし、PCT のほぼ3分の2がカリフォルニアだ。
そして、長く苦しい州を越えたのだ。


フリーバードはもう少し先まで歩いてキャンプすると言う。
僕はもう歩きたく無い。
ボーダーの直ぐ上には道路があり、そこから少し離れた場所でキャンプすることに。
今日は心身ともに疲れた一日。
反省も多い一日。
しかし、今日はここまできた自分を褒めてあげたい。

今日の夕飯はたくさん食べた。
食料には余裕があるのだ。
腹いっぱい食べられる。
ボーダーを越えたご褒美は、昨日買ったオレンジ。
夜になると急に冷えて来た。
久しぶりの寒さは体にこたえる。

明日もまだ長い。
Ashland まで残り27mi。
足の調子は良く無い。
それでも、だましだまし歩くしかない。
明日はOregon のHiking だ!



8/11 (Wed) Hiking Day88 / 27mi / 6:30 am- 5:30 pm (11:30) /NB 1703mi
“Ashland”


今日の目覚めは悪く無い。
体の調子も朝から良いが、膝がいけない。
しかも今日は長い下り。
気合い入れて行こう。


歩き始めてしばらく、Observation Peak というところに着く。
小さいピークだが、とても見晴らしが良い。
そこに、久しぶりの、Trail Magic があり、中には大量のペプシがある。
ありがたい。
これはOregon のForest Service が用意してくれているようだ。
“長いカリフォルニアを抜けて、オレゴンを楽しんで”と書いてある。
しかし、今日も空気が冷たい。
晴れてはいるのだが、冷たいソーダは腹にきそうだ。

Sheep Spring で水を汲んでいると、下からフリーバードが上がってくる。
どうやらトイレをしていたらしい。
水場の上じゃなくて良かった。
ここからは、フリーバードと抜きつ抜かれつになる。


見晴らしは良く、アップダウンはあるがなだらかで歩きやすい。
天気は不安定で、晴れていたのに急に霧が出て来たりする。
そんな変化も楽しみながら歩いていく。
休憩を挟みながら、のんびり自分のペースで。

それでも少し飽きて来しまったころにお花畑ゾーンに突入する。
今までにも無いほど、たくさんの種類の花が咲いている。
さらに広範囲に広がっているので、歩くのも楽しい。
むしろ、写真を撮ることで先に進めなくなってしまう。























色とりどりの花に癒されて歩く。
花畑を抜けて、一気に斜面は下り始める。
小さなTH の脇で陽に暖まりながら昼飯を食べる。
止まった車から出て来たアメリカ人男性。
その話相手はアジア人女性、いや日本人のようだ。

お互いに気になって声をかけ合う。
彼女はタダヤスエさん、と夫のジョンさん。
サンフランシスコに在住なのだが、旅行でここに着ているらしい。
久しぶりの日本語にいろいろ話をする。
ジョンさんはついこの間PCT のトレイル整備ボランティアに行ったらしい。
この先にその場所があるらしいのだ。
こういう人達に僕らは支えられている。
本当にこころから感謝。
シリアルバーをいくつかもらう。
彼らは花を見に来たらしい。
さよならえお言って、僕はまた歩き始める。

朝よりは膝の調子は良いが無理はできない。
ずっとずっと下っていく。
前方に建物が見えてくる。
Mt. Ashland Inn だ。
特に用はないがトイレがあればと思ったが、近くには無いようだ。
先を急ごう。
すると後ろからものすごいスピードでフリーバードが来る。
彼は一気にトレラン気分で走り去っていく。
ちょっと真似しようと思ったがやめておこう。

トレイルは道路に沿って下っていく。
前方にはすでにI-5 が見えている。
I-5はDunsmuir でも跨いだのに、またここで出会うとは。
まだまだある下り道を膝を痛めないように身長に下っていく。


突然急に細かい道がたくさん現れる。
そろそろ近いか。
Callahans の看板が出てくる。
ハイカーフレンドリーな場所で宿泊とレストランがあるらしい。
そこへのショートカットらしいが、僕はそのままPCT を辿る。
くねくね着きそうで着かない道を下りていってやっとI-5へと到着。

PCTはこのまま西へ向かっているらしいが、僕はヒッチハイクをする為に、Callahans へ。
Callahans までは意外とあり、施設は綺麗そうだ。
でも時間はもう7時を回りそうだ。
街へ急ごう。

ヒッチを開始。
どうせすぐにつかまらないだろうと思って気を抜いていたら、一発ゲット!
びっくりして戸惑ってしまう。

乗せてくれたのは老婦人の友人同士。
運転をしている女性は、日本に住んでいたことがあるらしい。
1976年でずいぶん前だが、夫が大使館勤務だったのだ。

街までは意外とあってその間ハイキングの話などする。
しっかりとダウンタウンの中心部まで送ってもらう。
人がたくさんいてにぎわっている街だ。
若い人も多く、おしゃれな雰囲気だ。

目当てのホステルに行ったがいっぱいだという。
たしかに街にも人が溢れている。
本を見ながら、ホテル探し。
コロンビアホテルという雰囲気がレトロなホテルへ行く。
しかし、そこもいっぱい。

困っていると、フロントの男性が部屋を探してくれる。
ありがとう、感謝しかない。
結局空いているのは、来た道を戻って、I-5 のインター近くのモーテルしか無いらしい。
まだ状況がわからないので、とにかく歩いて行くことにする。
途中のコンビニでコーラのXLを買う。
背中に刺したトレッキングポールが飛び出ているので“角みたい”と笑われる。

ロスの知人に電話しながら歩く。
膝の痛みについて相談する。
基本は休むしか無いらしい。
予想よりも一日早く入れたので、ゆっくりと2zero とって休むことにする。
どっちみち、この街では先へと食料を送らなければならないので忙しい。

30分くらいして、Knight Inn へ。
とても愛想が良く、親切なおばさん対応してくれる。
部屋は広く綺麗な上に安かった。
しかも隣にはAlbertson’s などショッピングモールがあり便利だ。
良く聞けば、街に出るにはバスがあり便利らしい。
そして街がいまにぎやかなのは、シェイクスピア祭り、があるかららしい。
とても有名で人気のあるイベントらしいのだ。
だから街のホテルはいっぱいだったのだ。

コインランドリーは隣にあり、洗濯している間に買い物を済ます。
食事はKorean が経営する日本食レストラン。
あまり期待していなかった割にとても美味しい。
海藻サラダは、サラダではなく、ただ海藻が盛ってあるだけ。
でも、注文したJapanese Steak“Bonsai”は美味しい。
なによりも米が美味しいのが嬉しい。

モーテルに戻り、甘いデザートとコーラを飲みながらだらだらする。
ついつい遅くまでテレビを見てしまい、夜更かしする。
夜更かしついでに、日本にいる妻に電話をかける。
ああなんて堕落したハイカーだ。
でも今日は一人、Oregon に今いることを祝う。
また明日も忙しい。
だから、今日だけは、こんなぐうたらも許そう。

-"corrupt" Turtle
by hikersdepot | 2012-04-20 03:00 | PCT2010 | Comments(0)
Castela, CA to Seiad Valley, CA/ Day 105–110 Hiking Day 81–86/ 1510.0mi –1666.6mi(156.6mi) /3
8/8 (Sun) Hiking Day85 / 31mi / 6:30am- 8:00pm (13:30) /NB 1645mi
“Sunrise to Sunset”

疲れの残る朝。
鞍部でないせいか、この場所でもそれほどの風に悩まされずに済む。
ちょうど日の出が綺麗に見える。
体いっぱいに太陽を浴びて浄化する。
そのあと、煙草の煙で体を汚染してから歩き出す。

今日はSeiad Valley への長い下りが始まる直前まで歩くと決める。
距離にして約31 mi 。
楽じゃない。
ただ、地図を見て想像するに、行けるはずだ。

尾根に沿うように緩やかな下りは続き、快適に歩き始める。
ところどころ良さそうなキャンプサイトが見つかる。
気持ち良く歩けるトレイルは続く。
景色もまた変わり、岩と緑のコントラストが美しい。


小さい池の側を通る。
見た目はとても綺麗だが近くによると浮遊物が多い。
しかし、水の流れが多いので幾らでもとれるところがある。
この付近はたくさんの花が咲いていてとても美しい。
日本で見たようなクルマユリなどが咲いている。





この先もまだいくつかの水場があるがトレイルからはどれも少し離れていそうだ。
あまりたくさんの水を背負いたくはないが、ちょっと不安がよぎる。
稜線歩きが多いと、どうしても水場が少ないか、離れてしまう。
だったら、ここで少し多めに持っていても良いだろう。



トレイルは二股に別れている。
ただの分岐とは違う点がある。
Old PCT とCurrent PCT との分かれ道なのだ。
何が理由で別れたのかは、僕には解らない。
どっちでも好きな方に行けよ、ってことだろう。
現行のトレイルを歩いてみよう。



距離は大したことなさそうだが、急斜面を上がって行く。
ガレの多い、なかなか歩き応えのある上り道だ。
稜線を跨ぐと反対側に降りて行く。
今度は急斜面をジグザグに降りて行く。
下には山に閉ざされた池がひっそりと佇んでいる。


そのまま下るのかと思いきや、斜面をトラバースして行く。
すると今度は登り返しさっきの稜線の方に上がる。
そのまま稜線を辿るが、思っていたよりも細かくアップダウンを繰り返す。
出発直後は快適だったがここに来てのスピードダウン。
思うように進めない。


空腹とのどの渇き。
稜線に上がってから水場がない。
どこも稜線から大きく外れてしばらく降りて行かなければならない。
近くにあるかも知れないと予想していたところもだいぶ離れているようだ。
唯一、まだトレイルから距離が短い水場も、面倒でパスする。
稜線に上がる前に多めに汲んでおかなければ今頃もっと辛い思いをしていただろう。


疲れ果てて、日陰の草むらの中でうずくまり休憩する。
とても静かだ。
明日にはSeiad Valley に入れる見当がついたので食料は十分食べられる。
しかし、水分がそれに追いつかず、ギリギリのラインだ。
気分も体も重い。
ここまで20mi は歩いたが、残りはまだ10mi以上。
時間はもうすぐ午後3時。
休憩無しで行ったとしても、あと4時間はかかる計算だ。

さあ、行くか。
まずは、a single step
亀の歩みでも前には進める。
正面には、また変わった雰囲気の山がある。
Marble Mountain というらしい。
遠くから見た時はまるで月が積もっているように見える白い岩山だ。
それがシマシマになっているからマーブルというのだろうか。


歩き始めると、人の声が聞こえる。
若いハイカーが音楽を流しながら楽しんでいるようだ。
別のトレイルから入ってきたのか。
それ以外にも明らかにデイハイキングのハイカーがいる。
地図では確認ができなかったが、きっと近くにTH があるのだろう。


トレイルは下に見えるMeadow 目指して進んで行く。
いつもは飛ばせる下りも、今の膝ではゆっくりしか歩けない。
小さい橋が架かっている下には待望の水が流れている。
ゴミの多く混じる水だが、本当に貴重な存在だ。

橋の近くには小屋がある。
レンジャーの小屋の様で、解放はされていない。
さっき見かけた若者達がそこで休憩をしている。
通るとき挨拶をしたが、返事は無い。
とても奇異な目で僕を見ている。

道はぐっと歩きやすくなる。
まだアップダウンはするものの、道も良くなり、斜度も緩い。
山をぐるっと回り込むように進むと、今度は黒い岩山が。
Black Marble Mountain というのだが、まあそのままだ。


この先にまた広い草原が出てくる。
Big Rock Camp という名前が付いているので、やや期待を持つ。
しかし、これといってキャンプできそうな場所も見あたらない。
PCT atlas ではキャンプできるような書き方。
来たことがあれば解りそうなものだが。
Eric the black のPCTスルーハイク“デマ説”が流れる訳だ。
事実スルーハイクは自己申告制。
嘘は幾らでもつける。

向こうから下りてくるハイカーが。
女性で、自分の母親と同じくらいの年だろうか。
アメリカ人は日本の感覚からすると老けてるので、もう少し下かな?
セクションハイカーの彼女は写真を撮りながらゆっくりとハイキングを楽しんでいる。
しばし歓談の後、彼女は南を目指し、僕は北を目指す。

歩きやすいトレイルは続く。
しかし、距離はまだまだある。
急ぎたい気持ちがあっても体は着いて行かない。

一時間くらい歩いた頃に開けた場所に着く。
人の声も聞こえるようだ。
そこは岩のピークに囲まれた、Paradise Lake だ。
キャンプをする広々としたスペースもある。
とても気持ち良さそうだ。
さっき声がしたのはそこでキャンプをしているハイカーらしい。
池に近づいて行くと、とても美しい景色が開けている。
ちょうどここだけ囲まれているので、天気の影響も少なそうだ。
もしかしたらPCTハイカーかも知れないと思い、キャンパーの方に近づく。
立派なテントが3張り。
全員池の方を向いておしゃべりに夢中だ。
どうやら3人とも女性で、スルーハイカーでは無いらしい。
邪魔をしないように静かに歩き出す。

今日もドライキャンプの予定だ。
予定キャンプ地には水があるらしい。
Yogi’s の情報であれば間違いは無いだろう。
必要な分だけ水を汲んで行こう。
足の負担も少しは減らせるはずだ。

少し行くと鞍部に出る。
ここから谷は西と東に大きく別れて行く。
僕は尾根を行くのだが、尾根の取り付きで一休みする。
風が吹いているのだが、寒さはほとんど感じない。
とてもぬるい暖かい空気だ。
体の疲れが風に押し出されるように出てくる。
横になって眠りたい。
弱る気持ちを奮い立たせてもう一踏ん張りする。
毎日20miから25miを歩くことは、疲れるけれど、苦痛では無い。
けれど、日々30mi 近くを歩いて来たここ数日は本当に辛かった。
心身ともに。

体を起こし、今ある全てを背負い、歩き始める。
Big Ridge とそのまんまの名称がついている稜線を北に向かう。
稜線に上がってからは平坦でとても歩きやすい。
稜線のやや西側を道は進む。
平坦な場所は少ないのでキャンプはしにくい。
しかし、点在する緩やかなピークの付近まで上がれば良さそうだ。
とにかく体力が続く限りはまだ歩けそうだった。
もしかしたら、僕はリミッターを少し外せるようになっているのかも知れない。
体はとっくに安全線は越えているのだ。


さすがに日が落ちて来た。
まだ夕陽には時間がありそうだが、西日が美しい時間だ。
向かいからハイカーが歩いてくる。
こんな時間に!?
どこかで見たことがあるハイカーだ。
挨拶を交わして、彼は南、僕は北へ歩み続ける。
ああ、そうか。South Lake へ向かう途中、Echo Summit 前で会ったんだ。
あの時も遅い時間で、とても小さなバックパック一つだった。
デイハイカーかと思って心配したのだ。
今日の彼も本当に小さいバックパックだけ。
それにまた出会うなんて、デイハイカー、なのか?

PCT の不思議を考えながら歩いていると、無意識にどんどん先へ。
水場を通り過ぎていないかと思い、はっ、とする。
Yogi’s に目を通す。
ハイカーの情報では、水は毎年出ているらしい。
場所は火災の跡地に近いようなことも書いてある。
いったいどこのことなのか。
歩む速度を緩め、付近を観察しながら歩く。
しかし、そんな場所は見当たらず、心配になってくる。

戻って探そうかとも思ったが、そんな場所は無かったはずだ。
少し燃えた後が残る場所の下の方だろうか。
でも急斜面で下りるのは難しそうだ。
なんて考えながら歩いていると先が少しずつ下り始めた。
リッジの終わりに近づいているのだ。
どうしたものだろうか。
少し開けた場所、どうやら小さなMeadow、に出る。
この先はずっと下って行っているのがわかる。
そうなると行き過ぎなのだ。
振り返るとトレイルの脇に小さな紙が見える。
拾い上げてみると、そこには“この先水場”のサインが。
このMeadow の中にあるのだろうか。
そのサインを信じて行こう。
少し歩き出すと、しっかりと付いた踏み跡がある。
それを身長に辿って行く。
途中で足跡は薄くなってくる。
このまま真っすぐ行けば斜面をもっと下りることになるだろう。
横を見ると小さなくぼみがある。
そっちに踏み跡が残っている。

横50センチ、縦30センチほどの小さなくぼみ。
そこには水が、下からだろうか、湧き出ていた。
見る限りとても綺麗な水だ。
不意にかえるが出て来て驚く。
ただ生き物のいる水というのは心なし、安心するのだ。
彼の住処なのだろう。
騒がせて悪いが、少し拝借させて頂こう。
もしかしたら、ここが目的の水場ではないのかも知れない。
でも今の僕にはここの水場で“十分”だ。
とても冷たい水だ。
やはり湧き出ているのだろう。
そして澄んだ良い水だ。

汲み終わりトレイルに戻る。
その目の前には大きな大木が立っている。
いくつかに大きく枝分かれした立派な木だ。
その下には小さなファイヤーサークルと設営スペースがある。
ここで終了だ。
いよいよ世界は茜色に染まり、一日の終わりも近づいている。

稜線直下でオープンスペースだが、大木のお陰で風には吹かれずに済みそうだ。
手早く家を作り、寝床を整える。
時間も遅いのに、なんだか今日は急にそんな気分。
体を拭いて綺麗にしよう。
ぼくはめんどくさがりなので、たまにしかしない。
でも今日は久しぶりに水がたくさんある。
靴下も洗濯する。
体がすっきりとすると心もすっきりする。

やっと長い一日が終わる。
今日は日の出を見て始まり、日の入りと共に終わる。
とても疲れたし、長い一日だが、清々しい気持ちで終わることができた今日に感謝。
しかし、明日の疲れが心配だ。
ああ、体がだるい。



8/9 (Mon) Hiking Day86 / 21&5mi / 6:30am- 1:30pm & 6:00pm-8:00pm(9:00) /NB 1672mi
“Seiad Valley”

朝を迎える。
まったくすっきりしない。
昨日の疲れと休憩不足のせいか、体がむくんでいるように感じる。
気付の高カロリー食を放り込み血糖値が急上昇。
ストレッチをして目を覚まさせる。

まだ青みが残る空の中歩き出す。
現在地は歩き始めてみると自分が正しいのがわかる。
直ぐに標高を下げて行く。
樹林帯に入り景色は見えなくなったが、脇目もふらずに歩いていく。
尾根を一つ跨いでまた標高が下がる。
足が痛い、膝が痛い。
我慢ができる痛さだが、温存できることならしたい。
しかし、下るしかない。
ひたすらに、足の痛みを忘れるように、黙々と歩く。
景色も記憶も留めないように、無心で歩いていく。

樹林は濃く、薄暗い。
急な斜面が続くので、その度に膝がうずく。
どんどん沢が近づいてくる。
また一つ稜線を跨いで越えるとその先に広いスペースがある。
ジープロードとぶつかっているところで、ここはTHにあたるのだろう。
焚き火の跡もある。
しかし、最近はここで人が泊まった形跡はなさそうだ。

道はくねくねと曲がりながら、また別の沢を目指して伸びていっている。
斜度が少し緩くなったお陰で膝の痛みが軽減されて歩きやすい。
つい、早く、と思ってしまう。
焦りは禁物だ。
黙々と粛々と歩こう。

時間の感覚もなく、どれくらい経っただろう。
痛む足をごまかし、心もごまかし歩く。
また道路を横切り、越えていく。進む。
そうしてやっと目の前には一つ目の橋が見える。


ここからはひたすら谷を北へ北へ真っすぐ歩くのみ。
しかし、斜度がないのでスピードは出せない。
膝への負担が少なくて嬉しいが、精神的に辛くなりそうだ。

小さな沢やガリーの度に縫うように曲がる。
そして上下動だ。
周りの景色は限られた映像となりただ流れていく。
2本目の橋を渡り過ぎる。

ここで休憩をとる。 
橋の桟にもたれかかり休憩する。
空気は、水の流れの影響か、ひんやりとしている。
そして何より嬉しいのは匂い立つ水と木々の香り。
日本では良くかぐことのできる、あの湿った空気の匂いでもある。
本当に久しぶりだ。
太陽はもう上がっているが深い谷なので陽が入らない。
でも気持ちが良い。気持ちが良い朝食を楽しむ。
スタートから約9miを3時間で歩く。
良く歩いた。

そしてまた黙々と歩く。3本目の橋も渡りすぎていく。
本当に長い。
多少のアップダウンはあり、谷底が離れたり近づいたり。
風が巻き起こるほどの勢いで歩く。

その先の地図には書いてある別ルートなんて無く、自分の場所もわからないまま進む。
それで良い。
今はなにも考えないで歩くだけだ。

少し道が広くなり綺麗になってくる。
トレイルは川に当たり橋を越えると、そこはTH のCamp ground だ。
着いた。
といっても町まではまだある。
CGには一組のキャンパーがいるのみだ。
軽く挨拶だけする。
TH のトイレに立ち寄るだけで、直ぐに町へと歩く。

ここからは地獄の車道歩きが6.5mi 続く。
いままで以上に長く感じるつらい時間だ。
舗装路だと足への跳ね返りも強いので歩くのが辛い。

Road Walk は退屈だ。
なにもない道路の上をひたすら歩かなければならない。
ここも例外なく、なにもない。
未舗装の山道を歩いていく。
舗装路に変わってからは家もあり、キョロキョロしながら歩く。
しつけがなっておらずただ馬鹿みたいに吠える犬がたくさんいる家を過ぎる。
道は川にぶつかる。


Seiad Valley はこの川の対岸で直線距離なら、1miもないか。
しかし、橋はここから2mi以上先。
さらに橋を渡ってから1mi以上ある。
ここで考え始めたら辛くなるだけだ。
川沿いの道の端をとぼとぼと歩いていく。
濡れても良いからどこか渡れる場所は無いだろうか。
渡れる浅瀬は無いだろうか。
しかし、運良くそんな場所を発見することはできない。


そうこうしているうちに家がたくさん出てくる。
なんとも素朴なかわいい家もあり、アメリカの田舎の良さがある場所だ。
やっとの思いで橋を渡り大きな道路へ。
そこを西にまた橋を渡り町を目指す。

しばらく歩いていくと前方には白い看板が見えてくる。
そこには“Welcome to Seiad Valley”と書いてある。
やっと町に着いたのだ。


時間は午後1時半だ。
ここには一つのRVキャンプグラウンドとストアがあるだけ。
しかし、それで全てをまかなえる。
キャンプグラウンドにはシャワーとコインランドリーがある。
ストアにはレストランがあり、うまい食事が食べられる。


時間的にぎりぎりでレストランに間に合う。
ここで昼食が食べられればと思っていたからだ。
それにしても、標高が低い為か陽射しが暑い。
バックパックを日陰に置いてレストランに入る。

メニューはいたって普通のアメリカンフード。
しかし、ボリュームはすごそうだ。
ここの名物はPancake Challenge。
とにかく大盛りのパンケーキを食べる、大食いチャレンジだ。
それ以外にもミルクシェイクも美味しいらしい。
けれどメニューボードには、今日はシェイクができないと書いてある。
元となるアイスが無いようだ。
しかたない、それは諦めてコーラを注文。
それからチキンのフリッッターを注文する。
付け合わせは山のようなフレンチフライだ。
コーラはいつ飲んでも上手い。
この炭酸がたまらない。
食事は見た目よりは普通の味だったがそれでも暖かいものは美味しい。
しかし、ちょっと油っぽくてもたれてしまう。

食事が終わり、隣のストアに向かう。
それほど大きくは無いストアだが、RVキャンプの為にそれなりの品が揃う。
必要十分は買えるということだ。
ここからは二日の行程でAshland へ到着する。
それほど必要は無いのだが、せっかくなのでフルーツでも食べよう。
RVキャンプへ行くとそこにはさっきレストランにいたハイカーがいる。
少しだけ囲われ東屋のような場所がハイカー用に用意されたところだ。
屋外で壁も無いが、テレビがあり、ビデオも見られるらしい。
そして冷蔵庫や電子レンジまである。
これがただで使って良いというのだから、本当にありがたい。

コインランドリーとシャワーを使う為には25セントコインが必要で受付に両替をする。
受付と言ったって、オーナーが一人でやっている小さな場所。
開いていなかったが、呼ぶと大きな体が歩いてくる。
見た目よりずっと優しく、ハイカーフレンドリーだ。
僕が日本人だと知ると、電車が好きらしく、日本に行きたいと言う。
日本にはアメリカには無い、高速電車もある。

大量の25セントコインを持ってシャワーへ。
体をすっきりと洗い流し、そのあとは洗濯の時間だ。
さっき話をしたハイカー達も洗濯をしている。
彼らはセクショナルハイカーでSouth Bound(Sobo)ハイカーだ。
とてもフレンドリーで優しい2人だ。

標高が低いので、陽射しを避けていても暑い。
しかし、こごえることのない気温が、久しぶりに気持ちが良い。
ゆっくり休もう。

2人のハイカーと話をしながら荷造りをする。
Eric the Black は高い割にいまいちだ、なんて話をして笑い合う。
しかし、このコンパクトさで軽い地図は他にないのだから。
すると、ひとりのハイカーが到着する。
彼とは初めてじゃない、Agua Dolce ぶりに出会うハイカー。
懐かしのCrow dog 達と歩いていた一人だ。
名前はShade。いつもサングラスをかけている。

僕はもう少し歩いて先に進んでおきたかった。
Shade とAshland でまた会おうと約束をして出発する。
歩き始める前にストアでコーラの追加とアイスを買う。
本当は浄水剤が欲しかったのだが、売っていない。
ぎりぎりだが間に合うだろうと諦める。
するとレストランのママが“娘が持っているのをあげるわ”という。
甘えついでに、レストランのジャムをもらう。
みんな本当に優しい。
ありがとう。


Trailhead 付近でキャンプをしようと思っていたが、Sobo ハイカーの勧めで別ルートをいく。
TH よりも手前の道路を北東に上がって行く。
彼らもここから下りて来たという。
しかもガットフックにも会ったというのだ。
元気そうで何よりだ。
彼は僕よりも少し、1日くらい前をずっと歩いているようだ。

道路歩きは退屈だが、あえてするショートカットがどうなのかも知りたかった。
人家がまばらに並ぶ中をゆっくりと歩いていく。
時間は午後6時を回っている。

道は真っすぐに進むだけだが、地図が無いので分岐に迷う。
すると道ばたにメモが置いてある。
それには、ここを歩いたハイカーからのメッセージが書いてある。
このまま真っすぐに進んでいけば良いようだ。

道はどんどんと狭くなり、人の気配も消えていく。
思ったよりも奥の方まで人の家があるのは、どれもサマーハウスなのだろうか。
川が近くを流れているので、暑い時等は楽しいだろう。

いよいよ人の気配は無くなり、人家も見えなくなる。
人工物はこの下の未舗装の道路だけだ。
川の距離を計りながら歩いていく。
あまり離れてしまう前に汲んでおかなければ。
陽は暮れ、谷間はもうだいぶ暗い。

道をそれて下に続く方に降りて行き、ブッシュをかき分けて川に下りる。
もう少し早くしておけば良かった。
思いのほか大変だった水汲みを終えて歩きはじめる。
すると直ぐに、下の方に看板の様なものが立っているのが見える。
さっきのところから奥に行けば繋がっていたのだろうか。
戻る気にもなれず、下りられそうなのでそのまま斜面を下っていく。

どうやらここはキャンプサイトのようだ。
看板には注意事項が書かれている。
ファイヤーサークルもある。
今日はここにしようと決める。

直ぐには気がつかなかったが、蚊が結構多く、いつの間にかたくさん刺されている。
Seiad Valley から5mi くらい歩いたのだろうか。
川へもここからの方が下に下りやすそうだ。
夕食を食べようかと思ったが、あまりにも腹がいっぱいで軽く食べて終わらせる。
そして、おもむろにコーラを飲む。
なんて贅沢なのだろう。

今日は、なんだか忙しい一日で、歩きもそうだが、疲れた。
けれどアシュランドまでもうすぐだ。
そして明日はとうとう“線”を越える日だ。


-"fizzy" Turtle
by hikersdepot | 2012-04-13 23:33 | PCT2010 | Comments(0)
Castela, CA to Seiad Valley, CA/ Day 105–110 Hiking Day 81–86/ 1510.0mi –1666.6mi(156.6mi) /2
8/6 (Fri) Hiking Day83 / 33mi / 6:30am- 7:30pm (13:00) /NB 1587mi
“PCT Hiker of The Legendary”

目覚めの良い朝を迎える。
最近はどこでも熟睡体制だ。
いつものように準備をしていつものようにスタートすると時間も大体いつも通り。
今日も30miを目標に歩こうと思う。
しかし、どこまで歩けるのかはその時に任せよう。

順調にペースを上げて歩く。
途中に水の補給を挟むが、これといって大きな変化も無く単調だ。
登りはきついが、メリハリの無いトレイルも長すぎると飽きる。

今日もサイドトレイルをいくつも通過していく。
二時間ほど歩いた頃に、前方から歌が聞こえてくる。
トレイル上に膝を抱えて座るハイカーとトレイル脇に3人のハイカーが座っている。
トレイル上に座るハイカーはとても特徴がある風貌だ。


確かに見たことがある。
会ったことは無い。
Yogi’s Book にも出てくる、伝説、だ。
Billy Goat !!!!!
会いたいと思っていた、会えると思ってなかった人が目の前にいる。

Billy Goat はPCT上最も有名なハイカーの一人だろう。
彼はトリプルクラウンはもちろん、PCTを何度もスルーハイクしている。
一年でMexico to Canada to Mexico のヨーヨーを初めてやってのけた人でもある。
住んでいるのは、Mt. Shasta らしい。
ヒッピーの文化に染まった一人なのだろう。

思わず、“あ、あ、あ、、、”と声にならない声を出してしまう。
すると、一緒にいた女性のハイカーが、
“そうよ、ビリーゴートよ。”
と僕に笑いかけながら話してくれる。
“ビリーゴート!初めまして、僕は日本から来ているハイカーです!”
と訳の分からない挨拶をしてしまう。
“とりあえず、座ってゆっくりしようよ”とビリーゴートは言う。
ちょうど2時間くらい歩いていたので休憩しよう。
まさかこうしてビリーゴートと座るなんて、嘘のようだ。

一緒にいる3人のうち一人は、トム。
エヴァン達を惑わせた人だ。
ハイカーで無いのに、あまりにもハイカーに入り込む彼をあまり好きではない。
ハイカーは自分自身で選択し、進むのだ。
スルーハイクを経験しているトレイルエンジェルはハイカーに深く入り込まない。
それが、ハイカーの為だと知っているからだ。
トムはそれが無い。
彼はスルーハイクできない自分を誰かに託しているのだ。

他の二人のハイカーはどこかで顔を見たことがある。
PCTAのトレイルエンジェルで、キックオフでも見たはずだ。
二人は夫婦の様で、リタイア(定年退職)しているのだろう。
二人とも穏やかで優しい笑顔だ。
いつものことだが、アジア人の場合“日本人か”と聞かれることはほぼ無い。
土地にもよるのだろうが“Korean?”聞かれるのが常だ。
アメリカ人から見ても、中国系とはどこか違うのがわかるのだろう。
しかし、韓国系との区別は全く付かないようだ。
まあ、僕らも“西洋人”もしくは“欧米人”なんてあまりにもバックリとした区別しかできない。

“日本から来たよ”と言うと、ビリーゴートも夫婦も知り合いがいると言う。
“Yas”だ。
僕も友達だよ、と伝える。
“彼は今CDTだろう?”
“そうだよ。彼はすごいね”
そう話しているとビリーゴートが、
“2年連続だろう。続けては普通やれない。彼はCrazy さ!”と言う。
Yasも、あなたには言われたく無い、ときっと言うんじゃないかな。
ビリーゴート、あなたも十分過ぎるくらい、いかれてる!“

今この区間は一番辛い時だと言う。
カリフォルニアはあまりにも長い。
まだ、カリフォルニアだ。
でももう少しでオレゴンに入れる。
シエラのダイナミックな景色も過ぎ、単調な毎日。
心が挫けそうになる。
Hiker Blue
そう言うそうだ。

良い時間だ。
でも楽しい時間は過ぎるのが早い。
“そろそろ、行こうか”
みんな何となく立ち上がる。
記念にビリーゴートと一緒に写真を撮ってもらう。


素晴らしい思い出の1ページになる。
ありがとう。
“旅立つ君に歌を歌おう”そう言うとビリーゴートは歌い始めた。
振り返り写真を撮る。
素敵な笑顔だ。Yas と良く似た、良い笑顔だ。
ありがとう。


心は晴れやかで、足取りは軽やかだ。
単調なトレイルは確かに退屈だ。
しかし、僕は嫌いじゃなかったし、楽しんでいる。
そんな今の思いをカメラのムービーを撮りながら一人語る。


その後、ピークを避けるようにトレイルは続いていく。
アップダウンもほとんど無い単調なトレイルだ。
それでも、木々が少なく開けているため、気持ちよい。
一つ鞍部を過ぎ、一つピークを迂回する。


標高を下げ始め、Hwy 3が近づいてくる。
ジープロードが近くを通るようになり、車を見かけるようになる。
ジグザグに下り、THに出る。
道路は意外に立派だが、車の通りは極端に少ない。

西に向かい、その道路を横切る。
大きなパーキングロットを備えているTHで、キャンプグラウンドもあるらしい。
PCTに沿った日陰のある場所で休憩をする。
今日も陽射しが暑い。
さすが夏の気候だ。
でも日陰に入れば十分涼しいのは日本とは違う。

誰か来るかな、誰も来ない。
車も通らない、静かな時間が過ぎていく。

ここからは長い登りになる。
気合いを入れて歩き出す。
森の中を緩やかに登っていく、穏やかな景色だ。
今日は体に力がみなぎっているようで、グングン進んでいける。


それにしても、退屈だ。
楽しい、と思っているが、今日は特に代わり映えの無い日だ。
森でもないし、時々見える景色もそれほど綺麗でもない。
遠くにマウントシャスタが見えている。
少しずつだけど、あの姿からは遠ざかっていく。

声が聞こえる。
たくさんの人がいるようだ。
見えてきたグループはずいぶん若そうだ。
その中にはアジア人の姿もある。
ハイスクールのハイキングイベントだろう。
Hello、と声をかける。
するとアジア人同士が日本語で話している。
こんにちは、すると、こんにちは、と返事が。
事情を聞くと、彼らは福岡のアンビシャスの翼という青少年団体のイベントで来ているようだ。
海外体験プログラムらしい。
ほとんどが高校生で、数名付き添いがいるらしい。
グループ全体の8割はアメリカ人で構成されている。
いくつかのグループがあるらしいのだが、グループによって内容も異なるようだ。
彼らはキャンプがメインで、その一環としてハイキングにも来ているだという。
久しぶりに生で見る日本人にやや興奮。
コットンパンツにTシャツという、いかにもアメリカ人のような出で立ち。
しかし、若さにはこの方がよく似合う気がする。
僕も人生で初めて旅に出た時は、麻のパンツに綿のTシャツだ。
それで良いのだ。
僕の旅の内容を聞いて驚いている。
僕にもなぜPCT を歩いているのかわからない。
けれども歩いている。
旅なんてそんなものだ。
大きな理想や大志を抱いた旅なんて無い。
そんなもの抱いたらそれは旅ではなく、自らの利と益だ。
血肉では無く装飾だ。
彼らは純粋で良い。
目が輝いている。
足元では無く前を向いている。

彼らアメリカ人の中にはPCTを知っている若者もいるようだ。
何か食べ物を、と申し出てくれたが、ほとんどが生もの。
その気持ちだけを受け取り、あとは遠慮させてもらう。
きっと彼らと再会することは、ほぼ、無いだろう。
でも、またいつか会える日を信じて言葉にする。
See you.

今日の景色は代わり映えしない。
でも、面白い人との出会いがある良い日だ。
今までになく足が動いて快調だ。
小さなジープロードを越えてPCTは進んでいる。
にぎやかな声がまた聞こえてくる。
今度もハイスクールのハイカーたちだ。
どうやら地元のグループだろうか、白人達しかいないようだ。
ちょっと腰をかけて休んでいると僕の前を通り過ぎていく。
そのままジープロードを辿っていくようだ。

トレイルに戻り少し進むと下の方から声が聞こえる。
どうやらさっきのグループらしいが、増えている。
かなりの大集団だ。
巻き込まれなくてよかった。

尾根に沿うように辿るトラバース道を上がっていく。
だいぶいい時間になったのだが、今日はもう少し歩きたい。
意外とアップダウンが多く思うように進めなかった。
キャンプしやすそうなのは30mi より手前か奥かだ。
はてさてどうしたものか。
水さえ持っていればどこでだってキャンプができる。
Yogi’s によれば、もう少しで水場があるらしい。
さらにその先にも流れがあるようなのだが、地図にはそのような表記が無い。
万が一のことを考えると、確実に水を確保しておきたい。


陽当たりの良い山肌に水場があり、そこから沸き出すように流れている。
これは良さそうな水だ。
浄水せずに飲めそうだが、ここは安全に行こう。
ちょっと多いかなとも思ったが、欲を出して少し多めに水を汲む。

樹林の濃い山肌の道を、先を急いで歩く。
時間は予定より押していて、もう12時間行動を過ぎた。
ふと膝に異変を感じる。
今まで一度も膝を傷めたことは無かったが、さすがに無理がたたっているのか。
痛烈な痛みではないものの、少し気になるところだ。
ゆっくり歩いても痛みは取れないが、それでも歩かなければ。
少し膝をひねったのがいけない。


いくつかの小さいGully を通りすぎていく。
その内の一つにはかなりの勢いで水が流れている。
あの時水を汲まなければ、膝の痛みも。
いや、後悔先に立たず。
あの時の判断はあの時は正しかったのだ。
自分の判断を信じる。


その先に開けた鞍部がある。
鞍部からはトレイルが2本に別れ、PCTは上に向かう。
その手前に少しだけ平らなスペースがある。
適度に木も生えていて風も避けられる。
南の密度の濃い方は斜度があってあまり良くなさそうだ。
あと一時間も無いくらい歩けばキャンプサイトもありそうだが、ここまで。
膝のことも考えるとこれ以上の無理は良くない。

思ったより気持ちの良いキャンプスペースで、とても平らだ。
少し斜度があるのが当たり前の生活だと、平坦なのは本当にありがたい。
今日は良く眠れそうだ。
鞍部は風が吹き抜けているようだが、ここの影響は少ないようだ。
気温は思ったより暖かい。

膝の痛みは引いたようだが、しっかりマッサージとストレッチで体をほぐす。
ここまでの長旅と最近の無理がたたっているのは確実だ。
先を急ぐあまり無理をしすぎたのだろう。
しかし、少しの無茶は承知の上だ。

明日もまた歩く。
長く遠くへ。
自分の体を信じるしか無い。
自分の力を信じるしか無い。
明日も動かす。



8/7 (Sat) Hiking Day84 / 27mi / 6:30am- 6:50pm (12:20) /NB 1614mi
“Lonesome”

平らな場所に寝られたせいかいつもよりぐっすりと眠れた朝。
しかし、昨日の疲れもあるせいか少し体がだるい。

鞍部を過ぎた先は少しずつ標高を下げながら道は進む。
山肌を縫うように進む。
ちょうどこの区間についてYogi’sに記載がある。
“Etna Summit の手前の区間はDate Book が間違っている”
あまりアップダウンが無いように書かれているのだが、実はきついらしい。
おそらく、計測点だけを見ればアップダウンが少ないように見えるのだろう。
しかし、その計測点の間に高いところがあるのだ。
とはいえ避けることもできず、言うほどでもないのではと思う。
Fuckin’ PCT Atlas の高低図は全く信用ならないが、その通り真っ平らだ。

緩やかに下る歩きやすい道を往く。
眼下に道路が見えてくる。
Hwy 93 だ。
道路は綺麗に舗装されているが、車の通りはとても少ない。
トレイルと道路の交差点はTHになっているが、トイレも無く、人影もない。

とっとと反対側に向かい登っていく。
樹林帯の緩い登りだ。
出て来た鞍部は開けていて休憩しやすそうだ。
山の反対側を覗きに行くとハイカーの姿がある。
“こんにちは”
声をかけるが反応がはっきりしない。
聞こえていないのだろうか。
しかし彼は振り向き挨拶を返してくる。
どうやらGPSか何かをいじっているようだ。
不意にこちらを向き挨拶をしてくる。
彼の右膝には大きなサポーターがある。
痛々しいが、膝が気になる僕にとって人ごとではない気分だ。

ここから南面をトラバースしていく。
地図の高低図はほとんど真っ平らだが、実際には道は上へと続いている。
大きく登っては下り、細かいアップダウンを繰り返す。
地図ではこんな地形は見て取れない。
地図自体にそれほどの精度がないからよけいだろう。
ぜんぜん歩きやすくなんてない。
これでは思うように前に進めない。

ジープロードと交差するところは大きな原っぱになっていて綺麗だ。
そこで腰を下ろして一休み。
ここまで、Yogi’s の言う通り、思ったよりもアップダウンが多い。
体に疲れが蓄積しているのが分かる。
少し長めの休憩をとりしっかりと休みを取る。


今日も花が綺麗に咲いている。
花を愛でながら原っぱの中を登って行く。
今までは樹林帯だったが急に景色は開ける。
山肌を縫うようにトレイルが上へと向かっているのがわかる。
それほど傾斜も無く歩きやすいが、見えてしまうと気が滅入る
地図では直ぐ上に池があるらしいのだがトレイルからは全く見えない。
見えないのに、そこを目印と地図に書かれても困ってしまう。


上へ向かうトレイルと岩の景色はきれいだが、ずっと同じなので感覚的には長い。
その長い長い登りを終えて、やっと稜線を乗り越す。
少し下ると木々に囲まれたStatue Creekで緩やかな地形になる。
そこでまたハイカーに出会う。
今朝の人とは対象的で、ニコニコしていて人懐っこく話をしてくる。

トレイルは小さなアップダウンを繰り返しながら進む。
Etna Summit までがとても遠く感じる。
トレイルと交差し、また一つ交差する。
空腹と疲れの中、意識無く、ただ前へと歩いて行く。

眼下に綺麗な池が見えてくる。
Taylor Lake だろうか、深い青緑色の池だ。
あそこでキャンプしたら楽しそうだな。
でもまだ止まれない。


なんとかして木曜日までにはAshland へ着きたい。
その為には明後日の昼頃にはSeiad Valley に着きたい。
今日はまだ止まれない。

徐々に標高が下がり始める。
なにがあるわけでもない。
まだ先に進みたい。
不意に道路が見える。
やっとEtna Summit に着いた。


小さなパーキングロットがあるTHでとても殺風景だ。
峠のどちらを向いても山しか見えない。
疲れて座り込む。
今日は4日目で食料の量が足りそうな、足りなさそうな感じだ。
抑えながら食べていたので、空腹と疲れが大きく出てしまう。
実際、今日の割当分は全て食べ終わっている。
まだまだ余裕があるとは思いながらも我慢してしまう。
しかし、今日はまだ25mi も歩いていないのにこの空腹だ。
もう少し歩くには食べるしかない。

腰を下ろし、スニッカーズ アーモンドをほおばる。
これ一つでは空腹は満たされないが、強烈な甘さは満足感を得られる。
それにしてもここは車の通りが少ない。
この下にはEtna の街がある。
Brewery があり、ビール好きには欠かせない街の一つだ。
多くのハイカーがこの街に寄るのだが、ヒッチハイクが必須だ。
しかし、この通行量ではなかなか難しそうだ。
そう思っていると、一台の近づいてくるトラックが。
休憩かと思っていると、開いた窓からおじさんが顔を出す。
“街まで行くかい?”
うれしい誘いだ。
でも、今は行けない。
“ありがとう”
たどたどしくお礼を言う。
“ああ、行きたい。”心のどこかがそうつぶやく。

一服し終えると少し力が湧いてくる。
そろそろと、立ち上がるとなんだか膝が痛い。
昨日ほどではないが、気になるところだ。
靴の中も何かが当たっている気がする。
靴を脱いでみると、久しぶりに靴擦れができている。
すこし無理して歩きすぎているのか。

それでも歩き始める。
せめてキャンプできる場所を探そう。
水はあるのでどこでも良いのだが、休みやすい場所を探し進む。

しかし、進んでも細い尾根を辿るため、適当な場所を見つけられない。
結局Etna Summit から一時間くらい歩いてしまう。
もう稜線が見えて来る。
地図にあるキャンプ適地はまだ一時間も先だ。
だがさすがにこれ以上歩くことはためらわれる。
稜線に上がって直ぐのところ、本当に稜線の真上に少しだけ開けた平坦な場所を見つける。
もうここで良い。
風が吹こうが、どうでも良い。
とにかく今日は疲れた。

ステイクが刺さらない場所なので石を積んで固定し、風への対策をとる。
その後やっと食事だ。
今日は特別に高級フリーズドライを食べる。
お湯を注ぐだけなのに、とても美味しい。

Yogi’s の言う通り、今日はアップダウンの多さに手間取った。
十分満足するべき距離を歩いたのだが、それ以上に疲労の蓄積が大きい。
しかし、明日も30mi が目標だ。

Ashland ではZero Day をとっていろいろとやらなければならないことがある。
しかし入るのが遅れれば、また日程が伸びてしまう。
今のままのペースでは10月に突入だ。
少しでも先に行きたい。
明後日にはなんとか Seiad Valley へ入る。
リサプライを済ませたら、少しだけでも歩こう。
そして水曜日には遅くなってでもAshland へ入ろう。
THからは距離があるので、ヒッチハイクが上手く行くか心配だ。

風は思った通り強い。
でも、耐えられる程度の風だ。
景色が良いので良しとしよう。
夕陽が沈んで行く。
長い明日へと続く今日が終わる。

-"steps" Turtle

by hikersdepot | 2012-04-06 10:28 | PCT2010 | Comments(1)
Castela, CA to Seiad Valley, CA/ Day 105–110 Hiking Day 81–86/ 1510.0mi –1671.6mi(156.6mi) /1
8/4 (Wed) Hiking Day81 / 14mi / 2:00 pm- 8:30pm (6:30) /NB 1524mi
“Good Bye, Dear Charlies Hyde”

ゆっくりとスタートの朝。
僕の出発時間も特に決まっているわけでは無い。
急ぐ旅でもないのだ。
モーテルで迎える朝はいつものんびりだ。

お決まりの朝風呂に交代で入る。
日本ではこんなことはしないのになぜだろうか。
体の疲れは取れるし、目がすっきり覚めて気持ちよい。

朝食はBest Western の中にあるレストランで食べる。
大抵のモーテルには簡単なブレックファストはある。
しかし、ここは夕食も出す、割とちゃんとしたレストランがある。
モーテルの朝食はブッフェ形式が多い。
このほうがミルクもオレンジジュースもコーヒーも全て飲める。
ベーコンやソーセージだって好きなだけ食べられる。

朝食の後はチェッックアウトの時間までゆっくりと過ごす。
チャーリーはTrail Journal の更新をする。
僕はモーテルのパソコンでこの先の情報のチェックだ。
先客がいたので、待つ間に日本へ手紙を書く。
妻とは良く連絡を取るが、みんな元気だろうか。
手紙は、不思議と心が素直になる。
いつも思っていて言えない感謝をみんなに伝えようと思う。
本当にありがとう。

この先、森林火災による迂回がまたあると聞いていたが解除されている。
良かった、ハイカーにとってロードウォークほどきついものも無いだろう。
チャーリーがいなくなる事で情報の共有を身近でできなくなる。
こういった事も丁寧にしていかなければと思う。

出発前に日本にメールを送ろうと思い写真を撮る。
なかなかのひげ面だ。
汗と油で髪がベトベトしていないだけ“まし”だろう。

正午が近くなり、荷物をまとめてモーテルを出発する。
いつものハイキングスタイルに着替えると気持ちが締まってくる。
それと同時にチャーリーとの別れが近づき寂しい気持ちも。
あっという間にDunsmuir を通り過ぎてしまう。
“Castelaに行ってみないか”とチャーリーの提案があり了解する。
どういう場所なのか見てみたかったのでちょうど良い。

Yogi’s にはとても小さなコミュニティだと書いてある。
小さいストアしか無いので、リサプライは難しい。
しかし、POがあるのであらかじめ食料など送っておけば良い。

言う通り、なんとも言えない雰囲気のストアが一軒建っている。
表現の仕様がないのだが、アメリカらしいというのか。
70年代、いや80年代の映画に出てきそうな。
いや決して良い意味ではないが。
その横には小さいPOがぽつんと建つ。
近くにはキャンプ場もあるらしいがここからは見えない。

車を止めて降りてみる。
POの中のレジスターをチェックしてみる。
外に出てストアの方に向かう。
ストアは外身だけでなく、中の雰囲気も怪しい。
田舎の良い雰囲気では無く嫌な雰囲気が流れている。
品揃えはまあまあで、簡単なホットミールなら食べられる。
でも、夜に一人では入りたくない店だ。
久しく飲めなくなりそうなので、コーラを飲んでおく事にしよう。

さあ、行くか。
さっきは気がつかなかったが、車に乗り込もうとすると、ストアの裏手に人の姿が。
その3人はどう見てもハイカー“Trash”に間違いない。
みんな見覚えのある顔、Ann、Ass Face、Fuzzy Monkeyの三人だ。
残り1000miにしてこのメンバーとまた会えることに喜びを覚える。
みんな元気にしているようで、日陰で休憩している。
Ann とAss Face は休憩したら、また先に進むと言う。
Fuzzy Monkey は僕達の状況を説明したらDunsmuir まで行きたいと言う。
少し買い物をしたいのだと言う。
チャーリーは、反対方向だけど良いよ、と快諾。
Ass Face やAnn ともう少し話がしたかったが僕ものんびりはできない。
大きく手を振って別れる。

Castela からTHまでは車なら直ぐ近くだ。
インターチェンジを降りたところ直ぐがTHになっている。
ふとカーブの所を歩くハイカーの姿が見える。
Fidget とDrakesbad で会ったハイカーだ。
Ben の姿は見えないようだ。
彼らに手を振るととても驚いた顔で僕らを見ている。

THにも二人のハイカーの姿が。
Heitman’s で出会った少し変わったハイカーカップルだ。
車を降り、みんなでしばし歓談となる。
久しぶりに友人と再会した時のようにみんなで盛り上がる。
PCTでも初めの頃は大人数が集まる場所があるのだが、機会は減って行く。
ここまで来るとそれだけ人数も減るし、各自のペースができて会う機会は減るのだ。
Fidget達はチャーリーにDunsmuirに送ってもらう事になる。
チャーリーの車は臭い匂いで充満だ!


“じゃあ、そろそろ行くよ。”チャーリーとの別れだ。
なんとも言えない気分だ。
今までと違いまた会えるような気がしないのだ。
僕はこの先どうしても急がなければならない。
余裕が無いわけではないのだが、遊んでいる暇もないのだ。
チャーリーは、一緒にPortland に行こう、なんて言う。
しかし、当初の予定からするとかなりの遅れなのだ。
それは仕方の無いこととしても、10月中には帰りたい。
そのペースで進んで行くという事は、チャーリーには会えない。
でも“またね”と言って別れる。
彼の目には涙が。
きっと僕の目も同じだろう。
“ここでゆっくり準備をしているから、きっと戻ってくるまでいるよ”
Fuzzy Monkey の用事は直ぐに終わるようなのだ。
それでも、もしかしたら。
“じゃあ”
“うん、じゃあ”
チャーリーの車は走って行く。


さあ、気持ちを入れ替えて行こう!
まずは足拵えをしながら、スナックをつまんでパワー補給だ。
名前が覚えられないハイカーカップルは自然食にこだわりリサプライしているらしい。
そのほとんどは家族の協力によって送ってもらったものだ。
それにしてもいっぱいもっている。
“少しいるかい”なんていっている。
そういえばHeitman’s でも余った食料を作ってみんなに振る舞っていたっけ。
“僕は大丈夫”丁寧にお断りしよう。
だって、そのほとんどがオートミールで、僕はとても苦手だ。
じゃあこれをあげるよ、と出て来たのはミソスープだ。
しかも、Kikkoman じゃないですか。
日本のものと違いはあるが、なんだか嬉しい。
Nisshinやサッポロ一番などのヌードルはたくさん見かける。
みそスープだって良く見かけるが、高くて買えない。
ありがたく頂いておこう。

買っておいたオレンジをむいて食べているとバンが近づいてくる。
若いカップルが窓から顔を出して声を掛けてくる。
“ねえ、君たち!PCTハイカーだろ!?”Hey guysってヤツだ。
“僕達は君たちにプレゼントがあるんだ!”
おっとこれは意外なトレイルマジックかと期待する。
しかし、出て来たものは紙に包まれ煙草のようになったganja だ。
“ハイキング中に疲れた時に『ハイ』になるから、役に立つよ”と言うことだ。
僕は、もちろんやらないが、間に合ってるよと言って断ろうとする。
しかし、笑顔でなんの悪意も無く差し出す彼らに断れない。
カップルのハイカーの彼女の方が“サンキュー”と言って受け取る。
“がんばってね〜!!!”バンは走り去って行く。
“いる?”
“いや、いらないよ”
“私もしないのよね”
結局ここにいる三人誰も必要としなかったのだ。

再び車が近づいてくると、それはチャーリーの車だ。
“また会えたね”
さっきウルウルしながら別れたのに、やっぱりまだ僕はここにいる。
ファジーモンキーを降ろしたチャーリーは、“行くよ”と言う。
いよいよ、ほんとにさよならだ。
もう一度強く抱き合う。
本当に言葉では言い表せないほど感謝している。
ありがとう。
本当にありがとう。
またいつかきっと会いたいと思う。
Good-bye, Charlie. You are my best friend ever.

みんなでぼんやりのんびりしながら時間を過ごす。
でもずっとここにいるわけにもいかない。
“じゃあ、僕は先に行くよ”
ゲートを越えて歩き始める。
もう道路は見えないが、すぐ近くには車の行き交う音がする。
なんとなく人工物から離れる時は、寂しい気持ちになる。

ふと、草むらの方から音がする。
なんだろうと注意してみる。
、、、くま、だ。
おおお、さすがに近い。
静かにカメラを出してシャッターを押す。


小さく見えるので小熊だろうか。
こんなに道路の近くにまで降りているなんて。
油断した。
しばらく睨み合っていると向こうが動き始めた。
心臓がバクバクしているのに気づく。
僕も歩き出す。

小さなパワーラインに沿って林道を上がって行く。
どこからかトレイルに戻るのだが、この道が正しいのか不安になる。
しばらく行くと山の上に上がるトレイルを発見。
トレイルを辿るといくつかの分岐を過ぎながら進む。
いつしか道は一本になり、そのまま進んで行く。

地図を見る限りでは近くに林道も走っているようだが全く見えない。
さっきまで聞こえた車のエンジン音は聞こえなくなっている。
Castel Crag Wilderness へと入る。


一昨日、トレイルから見えていた、あの岩山の事なのだろう。
今日のスタートは結局のところ、午後2時となっている。
もとから急ぐつもりは無かったものの、中途半端なスタートになってしまう。
どこまでどれくらい歩こうか。
10mi以上は歩きたいが、そうすると登りの途中になってしまう。
この先はしばらく長い登りが続くのだ。
登る手前でキャンプか、登った先でキャンプか。
登る前の方が場所も選びやすいし、水も確保しやすい。
登って良い事はほとんど無い。
明日が少し楽になるということ位だ。

小さい沢は豊富な水を蓄えている。
トレイルからは美しい岩峰が見えている。
深くに入るにしたがって景色は閉ざされてくる。
細い道を考えながら辿って行く。


登りにさしかかり、水場で腰を下ろし、食事をしながらプランを練る。
ここから5mi上がらなければならない。
標高差も2000ft以上あるので、容易ではなさそうだ。
3時間から4時間といったところだろう。
時間はすでに午後5時を過ぎている。
ここか先か。
あまり考えている時間も無いのだ。
悩むくらいなら進んでしまおう。
それで失敗も多いのだが、動かないことを後悔するくらいなら動こう。
夏のアメリカの陽の長さを享受しよう。


決めたら後は歩くのみだ。
斜面を大きく回り込みスイッチバックで上がって行く。
歩くのは大変じゃない。
急に斜度を上げたと思えば、また大きく迂回して距離だけは長い。
再び空が開けて来て、向かう先がよく見えてくる。
太陽に照らされ、空は青くて、岩が美しい。
もう少し、一歩一歩上がって行こう。
時間はもうすぐ7時になろうとしている。
きっとチャーリーだったらいやがるんだろうな。
こんな歩き方も一人だからできる旅の形なのかもしれない。


トレイルは山頂直下まで上がって、やっと斜度を緩める。
すると直ぐにcreek があり、十分なほどに水が流れている。
あわよくばこの水場にキャンプできる場所があればと思っていたが、残念。
周りはブッシュばかりで、ここでは難しそうだ。
水を汲んで場所を変えよう。

時間は8時を回る。
さすがに太陽は山の向こうに隠れてしまい、薄暗くなってくる。
ヘッドライトを使う前には歩き終わりたいと思う。
唯一可能性がありそうなのは、地図で見るところのゆるい尾根上。
ここから見える限りでは良さそうだが行って見なけりゃわからない。
歩きながら注意深く見ていく。
なにかテントらしきものが見えるが、枯れ木か何かだろう。
良く人工物に見間違えたりする。

尾根の近くまで来てみる、近くには平らな所は無い。
しかし、降りて行った先には平らな所がありそうだ。
本当は樹林帯の中のほうが風を遮れて良い。
開けていて見晴らしが良いのだが、寝るだけなので景色は関係ない。
とはいえ、わがままも言っていられない状況だ。

降りて行くとより状況がわかり、上から見ているよりも平になっている。
草むらの向こうにはテントが張ってある。
さっき見えていたのは錯覚ではなかったのか。
木の根元にちょうどひと張り分のスペースを見つける。
バックパックを置いて、テントの住人に挨拶へ行こう。

“Hi, How’s it going?”
すると出て来たのは、カップルのハイカーだ。
お互いPCTハイカーだということを確認する。
初めて出会ったハイカーだ。
“あそこでテント立てても良いかな”
“もちろん!”

時間は午後8時半を過ぎて一気に暗さを増して来ている。
ここは風が吹いたら辛そうだが、思いのほか地面が軟らかく暖かそうだ。
立木を上手く使いながら僕のソフトハウスを建てる。
設営と撤収が楽なソフトハウスは最高だ。
こんな原始的な生活に戻っても人は幸せに暮らせるのだろうか。
いや、むしろその方が幸せなのかも知れない。
幸せという言葉すら、必要なくなるのかも知れない。

そんな事を考えながら、今日も文明に支えられた食事を取る。
文明に支えられたハイテクな素材の家で寝るのだ。
そんなこと考えたって何の役にも立たないのかな。

向こうの山がやけに明るい。
どうも山火事のように見えるのだが。
僕の行く先は無事に進んでくれると良いな。

Interstate HWY が近いせいか、携帯が通じる。
日本に電話をして妻と話す。
力をもらった。
ありがたい。

星が綺麗で風は穏やかだ。
明日も穏やかでありますように。
友達や家族にも優しい風が吹きますように。


8/5 (Thurs) Hiking Day82 / 30mi / 6:30 am- 6:30pm (12:00) /NB 1554mi
“Independent Hiker”

すくっ!とまではいかないが、今日も素早く動き出す。
さすがに昨日の遅さが響いて寝不足のようだ。
空気が暖かいと朝の動き出しがしやすくて助かる。
今日の予定を確認しながら、いつもの高カロリースナックで始まる。
とっとと撤収を開始して、一服しながらソフトハウスをまとめる。

まだ起きてこないカップルのハイカーには声をかけずに出発。
トレイルに戻り、緩やかなペースで歩き出す。

歩き出して直ぐにcreekletがある。
小さく細い水の流れだ。
その先の奥まったスペースにノットアチャンス、クロエーション達がいる。
すっかり抜かれて先に行ったものと思っていたので驚く。
きっと彼らも街におりたか、していたのだろう。
ここでキャンプしているという事は出発は昨日だろう。
“おはよう”というと、向こうも僕がいる事に驚いている。
向こうは向こうで、僕が先に行ったと思っているだろうから。



山肌を、標高を上げないように辿って行く。
歩きやすくて快適だし、景色は開けて美しい。
木陰のトレイル上に座り込む二人のハイカーを見かける。
White Beardと3rd monty だ。
本当に久しぶりの再会で驚く。
一体いつぶりの事だろうか。
思い出せないほどにずっと前の事だ。
“やあ、おはよう!”
そう言うと彼らも驚いた顔をして僕のことを見ている。
“ずいぶん君の名前をレジスターで見なかったね。”
“いろいろあってね。”とざっくり説明する。
“他のハイカーと、辞めたのか、と話していたんだ。”と言う
がんばってますよ!

彼らをパスして先に進んで行く。
昨日まではチャーリーがいた。
今日からは僕一人だ。
僕は久しぶりに一人で歩く。
単独行の旅人になる。

大きい変化に乏しいトレイルが続く。
アップダウンも少ない為何も考えないように歩く。
今日の目標は30mi。
けっして楽な距離ではない。
しかし、一日でも先に詰めていきたかった。
距離はともかく、12時間は行動し続けようと決めている。

ほぼ水平に進んでいくトレイル。
途中休憩を挟むが後からハイカーの来る気配は無い。
とても静かで穏やかなハイキングだ。

流れるように過ぎていく景色と時間。
一人歩くハイキングはこんなにも無心なものだったのか。
いくつかの分岐を過ぎ、いくつかのジープロードを跨いでいく。

まだ僕はMt Shasta のエリアからは脱していない。
美しくそびえるこの山も角度が変わると別の趣だ。
南から見るとその綺麗な稜線が印象的だったが、西から見ると勇ましさを感じる。
より山頂付近の高さが目立って見える。


そして、今日も花が美しい。
時々現れる花畑は心を癒して、力を与えてくれるようだ。
何も求めず、顧みずに、美しく咲く花に、心から感謝する。


今僕は大きく西に向かっている。
本来ならば北に向かえば良いのに、I-5 を避けるように迂回しているのだ。



また分岐が現れる。
ここから池に降りて行けば水が手に入るようだが、余計に歩きたく無い。
もう少し我慢すればトレイル沿いに湖を通る。
すると、小さな看板で水場への案内がある。
Yogi’s にもPCT Atlas にも書いていない水場だ。
ガレた斜面を少し降りるようだが、興味が湧く。
水を汲む為の道具を用意して行く。
踏み跡は明瞭だが、まだ道にはなりきっていない所を見ると、新しいのだろう。
3分ほど歩くと、岩の間から流れ出す綺麗な水がある。
この下のToad Lake へと注ぎ込む沢の一本の源流だろう。
湖や池は一見綺麗でもゴミが多く、処理が手間だ。
ここで水を補給できるのはありがたかった。
水を汲み終わり、歩き出そうと思うが休む事にする。
一人で歩くと休み時がつかみにくい。
しかし、疲労は着実に溜まっていて、体に負担を大きくする。
岩にもたれて昼飯を食べる。
疲れがどっと体を襲う。
でも、食べれば動ける。
誰も後からくる気配はなさそうだ。


さあ、また歩き出そう。
すると、後ろから声がする。
クロエーション達かとおもったら、ホワイトベアード達だ。
さすがPCTのベテランは無駄が無く素早い。
感心していると、彼らも珍しく足を止めて休憩するようだ。
彼らは携帯を出して電話をしている。
まだ電波が届いているようなので、僕もメールをしよう。
これが良い時代の証なのか、はたまた悪い時代の象徴なのだろうか。
著しくハイキングの楽しみを台無しにしているとも言える。
安全性を高め、楽しみを増しているとも言える。
僕も、その恩恵に大きく預かっている、現代人の一人なのだ。

そんな事を考えながら今度こそ歩き出す。
ずっと山肌を縫うように道は続く。
途中の西側斜面にしっかりと着く、Snow Patch がある。
なんてこった。
今8月だぜ!
思わず一人つぶやいてしまう。
別に大した量では無い。
ちょっとパッチで付いているくらいだ。
しかし7000ft付近ですごく標高が高いわけでは無い。
今年の雪の多さを表す、一つのポイントになるだろう。

それを過ぎてから緩やかに下る。
急カーブを曲がって降りて行くと眼下には二つの湖が見える。
Deadfall Lake というらしい。
突然現れる湖だからだろうか。
あまり良い意味の言葉ではないが、見える景色は美しい。
数人のハイカーを見かける。
Summer Holiday のまっただ中だから人も多いのか。


反対側の斜面に向かい、谷を下に見ながらトラバースして進む。
向かいからたくさんのハイカーが歩いてくる。
どうやらファミリーのようだが、断続的に続く。
数組のファミリーがキャンプを楽しみに来ているのだろう。
まだ小学生になったばかりくらいの子もいる。
大体は小学4年生くらいだろう。
道を先に譲りながらゆっくりと進む。


辿り着いた先は殺風景な峠、そして道路だ。
舗装はされていないが、整地された大きな駐車スペースがある。
なるほど、山に入りやすい環境だからファミリーハイカーを多く見たのだ。
先程までと打って変わり空は黒い雲に覆われ始めている。
雨が降るのだろうか。
時間はもう午後5時になろうとしている。
そろそろキャンプをする場所を考えなくては。

ちょうどこの辺りはキャンプしやすい平らな場所が多い。
心が揺れる。
しかし、今日は12時間は行動しようと決めている。
負けそうな心を奮い立たし、一歩先へと踏み出す。
動き出してしまえば、体は再び動き出す。

距離は3mi以上あるが、
そこまで行けば水場もある。
山裾を、半円を描くように進むトラバース道。
ほとんどアップダウンも無く、一気にスピードを上げて歩き進む。
雲はどんどんと発達して空を覆い尽くしていく。

とうとう雨が降り出す。
大粒の雨がぱらぱらと落ちてくる。
雷雨にならなければ良いのだが。
一時間ほどで水の流れるcreek まで一気に到達。
流れは細いが水は綺麗だ。
この辺りもキャンプには良さそうだが、湿っているし、下草も多い。
もう少し歩こう。

トレイルは馬蹄状に大きく回りこむので、今は南に向かう。
下の谷には池が見える。
あの辺はキャンプに良さそうだし、ジープロードも通っている。
でもここからは降りられないようだ。

地図であたりをつけた場所は急カーブとなる尾根状地。
この辺りだと一番等高線が緩んでいる。
遠い空には天に向かって大きく発達した雲が。
空は相変わらず暗く、雲に覆われたままだが雨は止んでいる。


到着した尾根状地の末端は大きな岩になっている。
そこから見える北側の景色はなかなかのものだ。
もう少しトレイルから離れていくと枯れ草に覆われた平らな場所に出る。
地面も良く乾いていて、とても快適そうだ。
ここに決めよう。

時間は午後6時30分、ほぼジャストといったところだ。
思っていた通り、疲れもしたが、適度な休憩を挟みながらの12時間。
歩いた距離は約30mi。
もちろんアップダウンが多ければ難しいが、高低差の少ない今なら歩ける。
予想した通りだ。

食事を取り、しっかりとストレッチを行う。
今日は久しぶりに一人のキャンプだ。
ずっと誰かいる時間を過ごして来た。
それは友達との時間とも違う、とても濃密な時間。
寂しい、という気持ちなのか、何かが足りない気持ちだ。
忘れ物をしたような。
でも、PCTハイカーは一人一人が独立したハイカーの集団だ。
一人一人が判断し、行動する。
時にはチームを組み、協力し乗り越える。
しかし、一人。
だからこそ、その結びつきも強いのだと思う。

さらに独立したハイカーとなる為に、明日もまた一歩踏み出そう。

-"independent"Turtle
by hikersdepot | 2012-03-09 10:03 | PCT2010 | Comments(0)
Mt. Shasta, CA/ Day 104
8/3(Tue)  a Zero Day
“Driving North California”

すっきりした朝。
やはりベッドで寝ると疲れの取れ方が違う。
まずは目覚めのシャワーを浴びる。  
体だけじゃなく、頭の中がすっきりとする。
チャーリーの朝シャワーを待ったら、Breakfastだ。

いつものYogi’s に書いてあるおすすめのレストランに出かける。
場所もこの通り沿いなので迷いようが無い。
ところがその店は定休日。
ショックだが、他の店を探してみよう。

アムトラックの駅前の通りに行くと、ちょっと洒落たカフェがある。
隣には雑貨屋があり、中で繋がっているようだ。
選ぶほどの店も無いのでそこに入る事にする。
店内は地元客で繁盛している。
おそらく、あの店が休みな事も影響しているだろう。

店内に張ってあるチラシに太鼓のイベントのものがある。
こんなところで日本人のがんばりを見られて嬉しい。
メニューはこれといって普通だが、ワッフルが売りらしい。
たまにはパンケーキでなくワッフルも良いと思い悩む。
フルーツソースがいくつかあり美味しそうだが、ちょっと高め。
ブレックファストメニューもあるのでエッグとベーコンの“いつもの”にする。
チャーリーは大好物(いくつもあるが)のワッフルにフルーツソースたっぷり。
さらに、カリカリベーコンをリクエストして作ってもらう。
その上には“いつもの”シロップがけは店員もあきれている。

にぎやかな店内を後にしてモーテルに戻り出発の準備をする。
もう一度バスの時刻を確認し、モーテルの主人にバスについて聞いてみる。
すると、ここのモーテルの前にも止まるらしい。
この田舎町で、この長距離を走るバスにしては本数が多い。
日本のように電車が無いことを考えれば普通なのかもしれない。

午前9時51分のバスに乗り込む。
既にバスには5、6人の乗客がいる。
車社会のアメリカでは、大都市を除き、バスを使うのは主に貧困層だ。
そのほとんどはマイノリティが多い。
僕達スルーハイカーのほうがよりマイノリティだろう。

長距離のバスだが日本の高速バスとは違い、普通の路線バスだ。
ハイウェイが無料なので、それでも十分に成り立つのだろう。
ハイウェイ使い小さい町を繋ぎながらバスは進んで行く。
バスの揺れは日本でもアメリカでも心地よく眠りを誘う。

今日の目的地のMt. Shasta という街も通りすぎ先へ進む。
集落とも言えるような小さい町の度にハイウェイを降りバスは止まる。
一杯になるという事は無かったが、需要のある大切な路線なのだろう。
周りの風景は荒涼とし、広くどこまでも広がっている。
PCTが進む山脈沿いの東側にはこういう大地が広がっているのだ。
しかし、今までと明らかに違うのは独立峰が多い事だ。
一つ一つが火山のようで、円錐体が見られる。
そのうちの大きな一つが、あのMt. Shasta なのだろう。
これだけの広い大地ならどこからでも良く見える。
原住民に“神の山”として信仰される理由としては十分に思う。
きっと富士山も、ほんの100年前には、このように見えていたのだろうか。

Dunsmuir を出てから約二時間近くが経った頃、やっとYreka に到着。
バス停は町の中心のショッピングモールに止まる。
バスの運転手にレンタルカーの話をすると場所を教えてくれる。
僕達はもう一つ先の工場街の様な所でバスを降りる。
ありがとう、の言葉を残しバスを降りる。

車の修理工場や、大きなガレージが建ち並ぶ場所で他には何も無い。
運転手の言葉を思い出しながら歩いて行く。
バス停から数分の所にHarts の看板を見つける。
中に入ると、カーパーツも並んでいる。
ここはカーパーツやカスタムをするお店なのだろう。
それと同時にレンタルカーの営業もしているようだ。

チャーリーは予約しているので直ぐに済むかと思ったが先客がいるためしばし待つ。
日本でもアメリカでも田舎町の店は殺風景なのはなぜなのだろう。
それはそれで好きなのだが、観光客向けでは無いということか。
受付を始めるとほどなくして車に案内される。
チャーリーは店員とハイキングの事についても話しているようだ。
とても興味を持って僕らの事を見ている。

車は日本車。
レンタルカーでも壊れずに使える車という事だ。
乗り込むと、PCTで3度目の、チャーリーと車の旅が始まる。

マイカーなら寄り道が無いので1時間もしないでMt. Shasta に到着する。
お腹が空いてしかたないのだが、チャーリーは平気そうな顔だ。
マウントシャスタで滞在するモーテルはどこにするか話をする。
Yogi’s でも紹介しているものもあるし、安いモーテルを探す。
“チャーリー、この通り沿いに結構あるね。”
そう言うと、チャーリーはにやりと笑って
“そんな安い所には泊まらないよ”と言う。
チャーリーはもとからリッチな雰囲気を出していたが、ここに来て全開か。
まだカジノで儲けた分もあるということなのだろう。

街の中心部には小さな店が建ち並びにぎやかな雰囲気だ。
大型のグロセリーやファーマシィも中心部から近く十分歩いて行ける。
中心の十字路を曲がり、ショッピングモールの隣にBest Western がある。
チャーリーはそこに行くつもりらしい。
Best Western はどこでも必ずランドリーもあり、朝食付きだ。
そう考えると安いモーテルより良いのかも知れない。
しかし、ご存知の方も多いと思うが、結構高い。
安いモーテルは、地域差は大きいが、$30から$70といったところ。
高級モーテルは、$100から$200だろうか。

モーテルに行く前にポストオフィスに寄りバウンスボックスをピックアップ。
チャーリーも荷物を受け取っている所を見ると、ここに寄る用もあったのだろう。
ポストオフィスの近くには座り込む若者の姿がある。
まるでスルーハイカーそのものだが、ヒッピーなのかホームレスなのかは判別できない。

昨日もモーテルに泊まっているし、あまりお金をかけたく無いアピールをする。
チャーリーは“心配するなよ”と言って笑う。
Best Westernのフロントに料金を確認しに行く。
PCTからは少し離れた街だが、Yogi’s でも紹介されている街だ。
ダメもとで“PCT Rateはあるかい?”と聞くと、ある、との返答が。
ラッキーだ!
それでも決して安いとは言えないが、チャーリーの意見を汲もう。
PCもあるし、サービスを考えれば、良さはある。

部屋はきれいで広々としている。
二階建ての建物の一階で庭に面していて気持ちが良い。
シャワーを浴びて着替えを済ませ街へと出かけよう。
まずは腹ごしらえだ。

時間は昼を過ぎて、もうおやつの時間になっている。
さっき車で通った時に見た、熊のレストランに行く事にする。
店の名前はBlack Bear Diner 。
熊は駆除の対象にもなれば、看板にもなる。
それだけ人にとって身近で、また大きい存在なのだろう。

チャーリーも初めて見る店だと言うが、どうやらチェーン店らしい。
カリフォルニアだけでなく、オレゴンやワシントン州にもあるらしい。
メニューはHome Made を特徴としたものになっている。
おおむね、僕らの大好物だと言う事だ。
新聞の様になったメニューを見ながら、結局“いつもの”になっている。
食後にはデザートが欠かせない。
“Fresh Strawberry Milk Shake”なんて、頼まずにはいられない!
もう胃袋はパンパンだ。

食事の後は街の中を軽く流す。
もう一度全体を把握しておきたいとチャーリーの提案だ。
そのついでに夕食の場所を探すことになる。
昼食を食べたばかりだというのに。
街の中心の十字路を南西に進むとモーテルが建ち並ぶ場所になる。
人気は少なくなるが街は綺麗だし、治安は良さそうだ。
途中にアメリカらしいメキシコ中華の店がある。
チャーリーが興味を持ってメニューを見に行く。
店内も不思議な雰囲気に包まれている。
場末のスナックのような色合いだ。
外にはヒッピーのような人達が多く見られる。
顔の感じから、メキシコ人でもなさそうだ。

後に知った事だが、もともとネイティブが多く住む街だったらしい。
そして、神聖なMt. Shasta がある事からヒッピーも多く集まった歴史がある。
そういった事がこの街の雰囲気や人を作り出している。
いかにも西海岸カリフォルニアの街ということか。

さらに道路を西に行くがすっかり静かな雰囲気になっていく。
そろそろ戻ろうとした時にまた中華レストランが見える。
この店は全体に綺麗で店員も中国系の人がやっているようだ。
またメニューを見せてもらうと、なにやら良い雰囲気だ。
特に派手という店内でも地味でも無く、なかなか良い料理を出しそうだ。
夕食時にまた来るよ、と挨拶をして店をでる。

街の中心部に戻り、歩いて散策する事にする。
小さいエリアだが通りにはたくさんの店がありにぎやかだ。
この街には二件のアウトドアストアがあるのでどちらも行ってみよう。
Base Camp という店はYogi で親切な店と褒めている。
しかし、実際に行った店は小さくほとんどものが無い。
というよりもウィンター向けの店のようだ。
スキーやスノーボードのチューンナップを受けたりもしている。
これといった収穫も無く店を出る。
裏通りにも小さなグロセリーがあり、人が多い。
近くには大きなグロセリーRays があるのに、きっと何かの需要があるのだ。

ぐるりと回り込むようにメインストリートに戻る。
Hardware store や本屋や土産屋があり外から見ているだけでも楽しい。
Book & Café の店に入り、ポストカードを探す。
久しぶりに日本に手紙でも書こう。
とても清潔感のある良い店だ。地元の人達の楽しそうな会話が心地よい。

中心の交差点に戻って来る。
角にはもう一件のアウトドアストアのFifth Season がある。
ここはYogi’s で酷評されている店だ。
店員がものを知らず、対応が良くないと書いてある。
どんな店なのだろうか、興味津々だ。
ところが、店内はいたって普通のお店。
物量も豊富に揃っている。
靴だってREIよりもましかと思えるほどだ。
店員は女性の若い人が多いのは不思議だが、皆親切だ。
僕は浄水剤を、チャーリーは新しいソックスを買う。
レジでの対応も気持ちよい。
Yogi’s もたまには外れる事もあるようだ。

一通り見終わってモーテルに戻り、チャーリーはパソコンに向かう。
ジャーナルのアップが溜まっているのだと言う。
僕はその間に二人分の洗濯をしよう。
チャーリーにはそれくらい世話になっている。
フロントでコインを両替し、洗剤を買う。
いつものようにコインをセットして“ガチャン”。
待つ間はフロント脇のパソコンで暇つぶしでもしよう。

もう手慣れたものだ。
何度か部屋とランドリーを行き来して片付ける。
Zero とはいえハイカーの休日は決して暇ではないのだ。

昨日のモーテルでダニにやられたのか体がかゆい。
あちこちに赤い発疹が出て来る。
まさかこんなところでやられるなんて、蚊より質が悪い。

気づけば時間は夕方になっている。
昼飯の時間が遅かったので大してお腹は空いてない。
チャーリーは夕食の後に映画を見たいと言う。
僕も食料の調達等をしなければならない。
変に遅くなって食いっぱぐれるのも嫌なので行くことにする。

モーテルから車で5分以上かかるのでそこそこの距離だ。
昼間に目星をつけておいた中華レストランへと到着。
店の雰囲気はもちろんスタッフの対応も良い。
味は広東風だろうか。
チャーリーが、食べられる、というので多めに注文。
しかし、予想通り早々にお腹が膨れてくる。
どうせ直ぐにお腹も空いてしまうだろうから、胃袋の限界まで詰め込む。
口には出さないがチャーリーとの最後の夕食になるかも知れない。
なんと無く会話が弾まないまま夕食が終わる。

げっぷが止まらない状態でモーテルに戻ってくる。
映画館もグロセリーもモーテルの直ぐ隣だから楽で助かる。
“じゃあまた後で”と挨拶を交わして僕は買い出しに行く。
買い出しはいつも楽しい。
どうせ買うものは決まっているのだが、何か発見が無いかとわくわくする。
アメリカではフルーツも一つで買えるので、味見がしたくなってしまう。
特にカリフォルニアのオレンジは本当に美味しい。
日本に輸出するのとは完熟度が違うのだろう。
それからネクタリンも欠かせない。
日本では滅多にお目にかかれない、大好物だ。

このアジア人はいったい何者だ、という目で見られながらレジを通る。
パンパンに詰まった袋を三つ下げてモーテルまで歩いて戻る。
夜風が、心地よい、と心から思う。

部屋に戻り荷物の整理をするが余計な事に気が散って進まない。
次のセクションはやや長く、6日くらいの行程になりそうだ。
増やしたくない食料と食欲との折り合いをどこで着けるのかが本当に難しい。
そうこうしているうちに時間だけが過ぎてしまう。
チャーリーも映画から帰ってきて、ご満悦のようだ。

今日も一日が終わる。
とても充実した内容の濃い一日だ。
チャーリーとの最後の夜になるのだろう。
でも、いつも通り。
テレビを見て、二人で笑い合い、夜が更けて行く。
準備は万端だ。

明日はどんな一日になるのだろう。
一人の旅が始まる。


-"eating" Turtle
by hikersdepot | 2012-02-29 17:49 | PCT2010 | Comments(0)
Old Station,CA to Dunsmuir,CA and Mt.Shasta, CA/ Day98 – 103/ 1382.8mi – 1510.0mi(127.2mi)/part4
8/2(Mon) Hiking Day80 / 34.2mi /6:30am-8:00pm (13:30) /NB 1510.0mi
“Our Destination”

やはり洗った靴下は気持ちが良い。
今日は良いスタートを切る。
快調に下っていくと、1時間くらいでAsh Camp に到着。
Trail Head になっていて車がここまで来られるようだ。
トイレも設置されているし、その奥には整地されたキャンプサイトがある。
その下には強い流れを持った川が流れている。

朝がゆっくりなキャンパー達はやっと起き出したくらいだ。
チャーリーは先に進み、僕はせっかくなのでトイレで用を足す。
外でするほうが自由で良いが、残さなくて良いものは残したく無い。
まあ、これがちゃんと処理されるのかはわからないが。
閉鎖された空間でできるのは精神的に落ち着くものだ。
蚊の脅威に怯える必要も無い。

外に出ると、キャンパーのテントからは湯気が上がり良い匂いがする。
淡い期待が頭をよぎるが、そんな都合の良い話なんてそうそう無い。
さあ、チャーリーを追いかけて歩かなきゃ。


川を渡ったあとに、その川の下流に向かい沿うように歩いて行く。
林道とはいえ車道も近いせいか、とても道は整備されていて歩きやすい。
水平に伸びるトレイルを快適に歩く。
少しカーブしたトレイルに座るチャーリーが見える。
朝出発してから2時間位経ち休憩の時間だ。
チャーリーはきっと先に行ってしまうのだから、急ぐ必要もない。
ゆっくりと朝食のサンドイッチを食べてから一服する。
予想通り先に行くチャーリーの後を、のそのそと付いて行く。

向こうから人の声が聞こえる。
立って話をしているチャーリーが見える。
そして歩いて行くハイカーの姿がちらほら。
昨日僕達より先に進んで行ったみんなだ。
みんなの今日のスタートが遅かったのか、追いついたようだ。
クロエーションは靴下を洗濯している。
“水場がしばらくないだろう、その前にと思ってさ”という事らしい。
服はほとんど洗濯しないし、本当のTrash のように汚い彼でも足下は大事らしい。

ゆっくりとトレイルは登り始める。
山肌を縫うように上がって行くのでなかなか標高は上がらないが歩きやすい。
尾根を一つ越える度に景色が開けていく。
目線の端には、より近づいたMt. Shasta が横たわる。


ずっと山が連なって伸びている。
その山の側面を歩くので、当然陽当たりもそれほど良く無い。
景色も開けていないし、花も無いのでは歩くしか無い。
少しでも先に進む為に淡々と歩みを進めて行く。

今日も体の動きが良い。
休息の大事さをまた改めて感じる。
長い距離を、長い月日を歩く為には体力を回復させる休息を取らなければ。
そこで蓄えたもの出しながら歩く。

それにもう一つ大切なのは食事だ。
もう僕の体に蓄えられる燃料は無く、投入し続けるしかない。
カロリーももちろんだがタンパク質が欠かせない。
チャーリーを真似して始めたサラミとビーフジャーキーを貪る。
次の補給まで残りも少なく、途中買うことも出来た。
そのため、食料は十分にあるのだ。
昨日の夜はたらふく食べる事ができた。
今日の動きの良さの一因でもあるだろう。
しかし、それでも食べ続けられれば、動き続けられる。

休憩を挟み、チャーリーを追うように歩き続ける。
チャーリーは昨日のへたれ具合が嘘のように元気いっぱいだ。
途中休憩するHuiを追い抜いて行く。
道が単調でいまいち自分の位置を理解できないまま進む。
やっとトレイルが下りた先に小さな橋が架かり、強い水の流れがある。
ここがSquaw Valley Creek だろう。
細い谷だが、キャンプサイトもあり陽が差し込んで美しい。
川の下に下りる道がありそこで水を汲めるようだ。
その川沿いの木々の間にチャーリーは座っている。

陽射しが暑く、日陰が欲しい。
チャーリーのそばに座ろうと思うが良い場所がない。
クモの巣は多いし、斜めだが、横になってしまえば良いか。
水は上から見たよりもゴミが多く、少し濁っている。
食事を取っていると、Hui が追いついて来る。
彼も僕らの近くに来る。

クロエーション達4人も到着。
彼らは僕らとは離れた場所に陣取る。
“ドボン!”突然の大きい音に驚く。
クロエーションが飛び込んだのだ!
そんなに深い所があったんだ。
ノットアチャンスやテンジン達も次々に飛び込んで行く。
お風呂代わりに最適だ。
ぼくも飛び込みたかったが遠慮しておこう。
きっとチャーリーはもうすぐ立ち上がってしまう。

案の定、しばらくして歩く準備を始めるチャーリー。
“さて、行くか”と心でつぶやく。
トレイルはさっきの下りを取り戻すように急に登る。
今日の時間配分は悪く無い。
次の水場までが長く10mi以上、約4時間といったところか。
そこで水を汲んで、次のジープロード付近でドライキャンプを狙う。
まだ先は長いがこのまま行けば十分余裕を持って着ける。

チャーリーの脚は相変わらず早い。
あのペースだから傷めるのではないかと言ってやりたい。
こっちはこっちのペースで歩いて行こう。

一つ林道を跨いで更に進むと徐々に景色が開けてくる。
今日もとても気持が良い天気で、ハイキング日和だ。
のんびり歩く僕をHui が追い抜いて行く。
稜線の近くに出ると、向かう方向の稜線がきれいに見渡せる。
目で見てしまうと更に長そうに感じるのはなぜだろう。

とにかく飽きないように歌を歌ったり、無になり歩いたり。
ただ何も無いからといって退屈でも無く、虚無でも無い。
心の中は満たされていて、とても気持ちが良いのだ。

地図ではジープロードとなっている道を過ぎると途端に景色は広がりを見せる。
いよいよ間近に迫ったMt. Shasta が見える。
昨日よりも山の細かい状態がわかる。
まるで富士の宝永山の様な側火山まである。


カーブを曲がるとHuiが座っている。
携帯をいじっているのでどうやら恋人と連絡を取っているようだ。
ここは電波の状態が良いのだろう。
Interstate Highway が近いから通信設備もしっかりしているからだろう。
立ち止まり、軽くスナックを食べる。
チャーリーはどこまで行ってしまったのかな。
せっかくだから一緒に歩きたかったのに。
Hui はまだ携帯と相対しているので先に歩き出す。
きっと彼なら直ぐに追いついて来るだろう。

トレイルの進む先のCastle Crag が見えている。
景色はだいぶ近づいて来ているようなのに遠い。
トレイルが大きく迂回して進んでいる為だ。


北に向かうはずがずっと西に進み、今度は南へ向かい始める。
2miほどでやっと北を向いて歩けるようになるが、まだまだだ。
救いなのは緩やかな下りということ。
筋肉の負担が大きくなるほどの斜度も無く、とても歩きやすい。
しかし、いっそのこと急斜面でも真っすぐなら早いのにと思う。

細く急なGully から水が勢いよく落ちている。
ここが水補給を予定していた、Fall Creekだろう。
ここから下はCreekなのかも知れないが、ここはどうみてもGully だ。
予定通り水を汲んではみたものの、チャーリーの動きは全く不明だ。
いったいどうゆうことなんだ。
ずいぶんと時間が経つが全く彼の姿を見かけずにここまで来ている。
もしかしたら、トイレに行っている彼を追い抜いてしまったのかも知れない。
いやそれとも本当にただの暴走だろうか。

状況は読めないがここで待っていても始まらない。
少しでも先に進むのが良さそうだ。
この先にジープロードとぶつかる場所がある。
一応そこが今日の終了点になるはずだ。

ここまで同様これといったものが無く退屈なトレイルだ。
下にはトレイルに並走するように通るジープロードが見える。
トレイル沿いには平坦でキャンプできそうな場所はない。
けれど、ジープロードのほうにはできそうな所も見られる。
もうすぐトレイルとジープロードが出合う。
チャーリーは待っているだろうか。
時間は午後6時を過ぎている。

ジープロード出合いに着くと、道路上も広くキャンプできそうだ。
しかし、先日と違い、気持ち良い場所では無い。
“チャーリー”と声をかけてみる。
どこかにいるはずだと思うからだ。
ここが今日の終了点と一緒に決めたはずだからだ。
僕はそれほど特別な事を願ったつもりは無い。
だが、うすうす予感はしていたが、チャーリーはいない。
先に行ってしまったのだ。
それを証明するものが地面に残されている。
“← Coke”
意味が分からない。いや、意味はわかる。
でも理解し難い。いや、理解したく無いのか。
そんな無理してまでコーラに依存しているわけではない。
ただ、なんだかこんな稚拙な事に乗る自分がいやなのだ。
でも乗るしか無いじゃないか。
こんなことでチャーリーと離れるのは嫌だ。
ったく、昨日のあの泣き言はなんだったんだよ。
禁断の、禁忌の、一歩を踏み出す。
そう、残り約5mi を歩き、30mi を越え、街に行くということだ。

禁忌を破った僕にできる事は、ただひたすら歩き続けるだけだ。
余計な事を考えるだけ疲れる。
体は音を立て異常を知らせる、心はブレーキをかけようとする。
それを自ら操り、隠し、伏せて進むのだ。

所々、チャーリーからのサインが残る。
“Bed”“Pizza”“Ice Cream”こんなことでごまかされるか!
適度な斜度の下り道は脚を速める。
しかし、負担は大きく辛い。
その負担を少なくする為にはブレーキを少なくして、走るように歩く。
集中力を維持し、素早く判断して歩き続ける。
景色は流れる速度を増して行く。
歩け歩け、進め進め。

途中空腹に勝てず、立ち止まり残り物を食べ尽くす。
今更残しても意味が無い。
開いているものは全て食べてしまおう。
腹は十分にふくれ、あとは歩くだけだ。

エネルギーを供給された体は動きを活発化させる。
トレイルは歩きを加速させる斜度を再び作る。
もう面倒なので走り始める。
滑るようにいくつものカーブを避けて行く。

突然現れた看板はトレイルの終わりが近いのを告げているようだ。
急に人里の雰囲気が周りにしてくる。
Gate を過ぎると直ぐに道路に出る。
長かった、本当に長い下りに感じた。
ここにもチャーリーはいない。

道路に沿って歩いて行く。
久しぶりにあるくアスファルトは硬くて歩きにくい。
小さな橋を渡ると踏切がある。
R×R と書いてあるのは、Railroad(鉄道)の略らしい。
線路を渡り道に沿って下って行くと、車の音と大きい高架が現れる。
あれが、I-5 だろう。
道を下りきったところのカーブミラーに寄り掛かりチャーリーが座っている。
勝手な行動に腹が立ったので何か言ってやろうと思っていたけれど、もうどうでも良い。
しかし一言“You are So Crazy!”と言ってやる。
それでもチャーリーは笑顔で、楽しかっただろ、と無邪気だ。
もうお手上げだ。
バックパックを下ろして座り込む。
“サインは見たかい”
“ああ、見たよ”
疲れも大きく、しかしゆっくりもしていられないので立ち上がる。
時間はもう午後8時、結局34mi を歩くロングデイとなる。
陽ももうすぐ暮れる。

このI-5 に着いた所で何かある訳では無い。
南西にしばらく歩けば、Castella に着く。
Small Town だと言われているが街にはほど遠いようだ。
小さなストアとキャンプ場のシャワーとポストオフィスがあるらしい。
ハイカーにとって必要充分で贅沢な状況だがここでは久しぶりのZero Day を取るつもりだ。
Zero Day を満喫する為にはなんとも乏しいのだ。

ここから北東に行くと、Dunsmuir という街がある。
そこまでは5.5mi、約9キロの道のりがある
歩くのがハイカーの仕事だ。
しかし、道路を歩くのは本当に辛い。
ましてやこの時間だ、あと二時間も歩きたく無い。
だからこそヒッチハイクをするのだが、上手くできない場所もある。

ここはInterstate Highway、日本で言う高速道路だ。
その周辺でヒッチハイクするには入り口前しかないだろう。
ところが田舎の道路の入り口じゃ交通量もたかが知れている。
何台かにアピールするも芳しい反応は無い。
二人とも面倒な気持ちになっている。
Echo Lake で二時間近く待ったのもトラウマになっているのだ。
だったら危険を承知で、高速道路上でヒッチハイクをすることに。
僕もチャーリーも迷いが無く、そうする事に決めて坂を上る。

Interstate Highway 上は普通のHighway よりも面白いほどのスピードで車が走っている。
ちょっとだけここに上がった事を後悔する。
しかし、ぐずぐずしていても進めない。
Hiker to Town のバンダナを掲げる。

当然ながら、ものすごいスピードなので運転している方も良く見えないのだろう。
通り過ぎる直前に運転手と目が合う事はあっても止まる事は無かった。
何台も、何台も通り過ぎて行く。
インターチェンジから上がって来た車も止まらない。
下でヒッチハイクしていたら止まったのだろうかと考える。
あの時のトラウマはまだ癒えていないのだ。

また下から車が上がって来る。
どうせ止まらないだろうと思っていたら、その車はスピードを緩める。
近くに来て初めて気づいたのは、それがHighway Patrolだということだ。
“おい、おい。やばいな。”
車は僕らを通り過ぎたあと路肩に止まる。
チャーリーと目を合わせる。
車から降りて来たのは、30代前半だろうか、一人の警官だ。
顔はスペイン系で、優しそうな目をしている。
でも、何を言われるのかわからない。
“ここで何をしている”
そう問いかけられてチャーリーが話をしている。
僕達がPCTハイカーだと言う事。
そして街に行きたい事。
その為にヒッチハイクしている事。
警官は怒っているようには見えないが、思案しているようだ。
なにか無線でやり取りをした後に“街まで送って行けると思うよ”と一言。
意外な展開になる。
先程の無線は、本部へ許可を取っているらしいのだ。
チャーリーと再び目を合わせて、心の中で親指を立てる。
無線でまた話をした警官は僕らにIDの提出を求める。
身元を確認した上で“車に乗りなよ”と気軽に声をかけてくる。
どうやら本当にパトロールカーをヒッチハイクしてしまったようだ。
急いで荷物を担いで車に駆け寄る。
前席と後部席はフェンスで仕切られているが、凶器は無いかと尋ねられる。
今までずっと旅を共にしているビクトリノックスを渡し、後ろに乗り込む。
僕らはとても臭い。本当に臭い。
そんな僕達を乗せてくれて本当にありがとう。
感謝の言葉しか無い。

歩いたら遠いはずの街“Dunsmuir”も車だと10分もかからない。
車はまっすぐモーテルに向かって行く。
他にもあるのかも知れないが、街の中心部に近いようだ。
それに、この街を良く知っている人が案内してくれたのだから間違いないだろう。
モーテルの前に止まるパトロールカー。
その中から出て来るハイカー二人。
一体どんな光景なのだろうか。


“忘れ物はないかな”
本当に感謝を言葉でしか伝えられないし、伝えきれない。
“Thank you!”
車はあっという間に見えなくなる。

モーテルの入り口を入りカウンターで受付をする、
出て来たのはインド系の人だ。
チャーリーはジャグジーが無いかと尋ねている。
残念ながら無かったようだが、料金はそれほど高く無い。
他に行くつもりも無いので、ここに部屋を取る。

部屋に入るとチャーリーがと言う。
“彼はパトロールカーが来てびっくりしたらしいよ”
そうだろう、乗せてもらった僕たちでさえ驚いているのだ。
部屋は普通の二人用の部屋だが、とても清潔で気持ち良さそうだ。
しかし、部屋を楽しむよりも先に腹を満たしに行こう。
もうぺこぺこだ。
せめて顔くらいは、と思って洗う、すると茶色い水が流れ出す。

ついついのんびりしたくなってしまうが、急いで食事に向かう。
時間はもうすぐ午後9時になる。
日本の飲食店ならまだ閉める時間では無いが、アメリカの田舎町は平気で閉まる。
まだ開いているかどきどきしながら急ぎ足で歩く。
もしも開いていなかったら、なんの為に無理して歩いたのかわからない。
この街はメインストリート一本の中にほとんどの店が入っている。
それ以外は特にこれといったお店もなさそうな小さな街だ。
しかし、ここもゴールドラッシュ時代に栄えた街のようだ。
他の店のほとんどが閉まっている中、目的のPizza Restaurant は開いている。

もちろんお腹は減っている。
しかし、残った食料をありったけ食べて歩いたせいか、いつも程ではない。
ピザの大きさで悩んでチャーリーに話すが“食べられるさ”と二人でLarge を一枚注文。
トッピングはチャーリーの大好きなペペロニにトマトだけのシンプルなピザだ。
飲み物はもちろん、ダイエットコークとレギュラーコーク!
ピザの出来上がりを待つ間にカップの中はあっという間に空になる。
もちろんおかわりはFree だ。

大きいピザの前にPCTハイカー二人は敗退する。
チャーリーは疲れすぎて、僕はやはり食べ過ぎのようだ。
ハイカーは本当に良く食べる。たくさん食べる。
しかし、胃が小さくなるのかいっぺんには食べられないのだ。
今どんなに満腹でも一時間もすればまた腹が空いて来るだろう。

店もちょうど終わる時間のようだ。
店内を掃除し始めている。
残ったピザを持ち帰りにして店を出よう。
最後に追加したコーラのカップを持って。
通りはすっかり暗くなり静かだ。
帰りに鉄道の駅をチェックして帰る事にする。
チャーリーは明後日の朝、ここから旅立って行くのだ。
駅前の通りはメインストリートよりも更に静かだ。

モーテルまでの帰り道にグロセリーに寄って、スナックとアイスクリームを買う。
さっきお腹一杯になっていたはずじゃないのか、俺の腹!
二人上機嫌で、気持ちの良い夜の空気を吸いながらモーテルへ向かう。
途中にバスストップがあり、時刻表が書いてある。
明日はこのバスに乗って、Mt. Shasta へ向かう予定だ。
時刻表を見ると、ふと気づいた事がある。
“そういえば、チャーリーって本当はどこまで行きたかったんだっけ”
というのは、彼は当初車をレンタルするはずだった。
しかし、どんなに探しても近くの街に見つからず諦めていたのだ。
Yreka で借りられるのは知っていたが、そこに行く手段が無かった。
“Yreka までならバスで行けるみたいだからレンタルできるんじゃない?”
“Sounds good!”
アムトラック鉄道は高いし遅いし、チャーリーとしては仕方なくという感じだった。
“ありがとう!”とチャーリーは上機嫌。

部屋に戻りシャワーを浴びて綺麗になろう。
チャーリーは早速鉄道の予約を解除する為に準備している。
ところが、ハプニング発生。
“携帯が無い!”チャーリーが叫び出す。
なんてことだろう。
きっとパトカーの中に落としたのだろう。

チャーリーの落とし癖は今に始まった事じゃない。
僕も落とし物が多い方なのだが、チャーリーは上をいっている。
サングラスは既に二回無くして今は三個目だ。
クレジットカードも一度無くしている。

電話を掛けてみるとコールはするのでどこかで生きているのだろう。
パトカーに乗る前まではあったのは覚えている。
僕の携帯で警察署に電話するように言うが遠慮している。
以前に通話料が高いのを話していたからだろう。
海外通話ができるテレフォンカードがあるので、それで電話することに。
事情を説明して、あとは待つだけだ。

僕達は本当にハプニングに恵まれている。
だからこそ人生は楽しいのだと、やっと思えるようになった自分がいる。
シャワーを浴びて汚れを落とし、最低限のものを洗い明日へ備える。
そのままでは臭すぎる。
バスタブに湯を溜めてゆっくりと体を癒す。
疲れが少しずつ流れ出ているような感覚がする。

バスルームを出るとチャーリーが興奮している。
“携帯が戻ってきたよ!”
僕がシャワーを浴びている間にあの警官が届けてくれたようだ。
なんて親切な人なのだろう。
本当に感謝、感謝だ。

なんとか今日も無事に一日を終える事ができるようだ。
僕はベッドに横になり、テレビを見ながらコーラを飲みくつろぐ。
ああ、なんて幸せな瞬間なのだろう。

Hui はどうしているだろう。
なんとなく申し訳ない気がする。
また会う事ができたら良いな。

明日はMt. Shasta という街に行き、補給をしながらZero をとる。
どんな一日になるのだろうか。
二人で“Bed 最高!”と言いながら夜が更けていく。


-"soda pop"Turtle
by hikersdepot | 2012-02-15 03:17 | PCT2010 | Comments(0)
Old Station,CA to Dunsmuir,CA and Mt.Shasta, CA/ Day98 – 103/ 1382.8mi – 1510.0mi(127.2mi)/part3
7/31(Sat) Hiking Day78 / 20mi /8:40am-5:40pm (9:00) /NB 1449mi
“Fatigue”

疲れが残るまま朝を迎えた。
すっきりしない僕らと同様、薄くぼんやりした青空だ。

今日は時間を気にせずに寝るはずだったが定刻で目が覚める。
もちろん二度寝に入り、ぐずぐずした朝を過ごす。
とはいえすることも無く、場所も決してすてきとは言えない。
頭の中にもやがかかっているような感じだ。
確実に昨日のダメージが大きい。
しかし、今日も歩くんだ。

午前8時を過ぎてやっと動き始める。
9時出発を目指していたが、その前に片付けられたので出発することに。
Huiはどうやまだ眠いらしく、グズグズしてたが片付けが早い。
まずは道を探さないと行けない。
トレイルの近くには必ずいるはずなので手分けして探すと直ぐにマークが見つかる。
やはり暗闇はライトがあっても人の感覚をほとんど奪うのだ。

トレイルは平で歩きやすいし、もっと良いキャンプスペースがある。
もう少し明るさがあれば、もっと安全な場所を選べたのだ。
昨日はほぼ平坦からやや下りだったが、今日は大きく登る日だ。
すでに斜度が付き始め、山の中に入って行く。
森は深く山は軟らかく、日本の山容に似ていると思う。
ところが谷の作りがダイナミックなのだ。

重い体を引きずって一時間ほど緩やかに登って行く。
大きな谷間を詰めて行った先にはRock Creek に架かる立派な橋がある。
Yogi 曰く、ここは泳ぐのにちょうど良いと言う。

確かに気持ちの良い深さのある川だ。
水の補給をしてのんびりする。
今日の朝チャーリーは、今日は歩かない!と豪語していた。
睡眠が足りないので、ここで昼寝も良いと思う。
ところが、チャーリーはしばらくして歩き始める。
おいおい。
結局いつもと大して変わらないまま、また歩き始める。
Hui は眠そうに、まだ座ったままだ。

トレイルはいよいよ本格的な登りに入って来る。
斜度は決して急ではないものの、ピークまでは12mi以上ある。
トレイルからは登るべき山が正面に見えているのだが、あの奥に進まなきゃ。

なにげにかっ飛ばすチャーリーの相手はしてられない。
自分のペースをしっかり守って疲れないように歩こう。
それよりも気分が乗ってこない。
歌を歌う気にもなれない。
ぼーっと、ぼんやり、歩いて行く。

木々は濃く、山は深い。
今日は景色がほとんど目に入ってくることはなく、歩く。
黙々と。
淡々と。

チャーリーも同じように歩いているのか、彼の姿は見えない。
毎日歩いていて飽きないのかと言われることがある。
自分でも不思議なくらいそういう感じは無い。
単調な場合つまらなく感じることはある。
でも、それはそれで何も考えずに歩けるから悪く無い。

時間だけが過ぎ去っていた。
その時間の長さに比例して距離もいつの間にか伸びている。
山の中なのだがたくさんのジープロードを横切る。
ほとんどが作業道なのだろう。
疲れていて歩くのは楽じゃないのに体は動いている。
それにゆっくりなペースだと疲れにくい。
いつもなら2時間くらいすると休むのに、3時間近く経っている。
もうすぐ水場に着くはずだ。

またジープロードにぶつかる。
ここは綺麗に整備されているようだ。
Peavine Creek があるはずなのだが、どこだろう。
道の斜め向かいにトレイルが続いている。
そこの日陰にはチャーリー、そしてCroatian Sensation の姿が。
“おおっ!クロエーション!”
ずいぶん久しぶりでびっくり、まさか追いつくなんて。
“Not a Chance はいるのかい?”
“今水を汲みに行っているよ。”
すると、Hi 、と声がして振り返るとノットアチャンスが歩いて来る。
話がしたいが僕もまずは水汲みに行こう。
Peavine Creek にも泳ぐのにちょうど良い場所があるらしい。
ここから少し歩くようだが、キャンプサイトもあるらしい。
水を汲むだけなら、今来たトレイルのすぐそばにある。
さっきは見えなかったが、少し草を分けると水の流れがある。

水を汲み戻ると、座っていつもより遅めの昼飯だ。
食べながら四人で今までのことを話す。
二人に会ったのはいつのことだろう。
たしか、Tuolumne Meadow 以来かも知れない。
彼らも昨晩僕らが泊まった所の近くで寝ていたらしい。
あのまま道を間違えずにいたら会えたのかも。
僕らの40miオーバーの武勇伝を呆れながら聞いている。
また二人に会えたのはとても嬉しい。

クロエーションとノットアチャンスは先に歩き出す。
クロエーションの格好はずっと変わらず、前以上に汚い。
ノットアチャンスは女の子だけあって綺麗にしているが、見る度に変わる。
今回はホットパンツにロングゲイター。
袖のちぎれたTシャツだ。
アメリカだなあ。

チャーリーも先に歩いて行ってしまうが、少しのんびり。
とても静寂感のある、気持ちの良い時間を過ごす。
結局チャーリーはゆっくりできない質(たち)なのだな。

Huiが追いついてこないのが気にはなるが、ぼちぼち僕も歩き出す。
まだ長い長い登りは終わらないが、あと少しのはずだ。
えっちら、おっちら、えっちら、おっちら。
気持ちが乗らないのは変わらないが体は元の動きを取り戻しつつある。

またジープロードが現れる。
地図を見ると、まだまだ林道と交差するようだ。
林道は地図を読む上でも一つのポイントだが、これだけ多くては逆に迷う。
地図の縮尺が大きいと載らない道も当然あるからだ。

向こうには更に近づいたMt.Shasta が見える。
火山だというのがわかりやすい形をしている。


今日は無理をせず、約20miだけ歩くことにしている。
目的地には水が無いので、手前で水を汲まなければいけない。
その水場は林道に沿ってあるので、どこを歩いているか把握しないとならない。
けれども、今のところさっぱりわからない。
考えるのも面倒くさいので勘に頼ることにする。

今日も美しい花々に心癒される。
クルマユリが咲いている。


これはゴマナだろうか。
日本の花にそっくりだが、また違う花なのか。


今度はまるでミヤマキンポウゲそっくりだ。
こうして花を見ながら歩くのは、また山の違う楽しみだ。


時間的にはそろそろ着いても良さそうになってきた。
勘に頼るとは言いつつも、慎重に判断する。
ところがさっぱりわからない。
真東に横切っている、と言うことだけが今のたよりだ。
短いスパンで林道をいくつも横切り、もう何がなんだか。
やや開けている林道に出た。
もう一度地図に目を凝らす。
すると林道の下から僕を呼ぶ声が、チャーリーだ。
どうやら水場はこの下らしい。
また、道路を横切ったトレイルの手前には、Water、のサインが。
ハイカー同士の支え合う気持ちに感謝する。
サインが無くならないように整えておこう。
水場は林道を東に少し下った先にある。
Deadman Creek の源流近くに当たるようだが、あまりよろしく無い名前だ。
林道脇のブッシュの細い踏み跡を下ると小さい流れだが水の勢いは強い。
蚊がものすごく多く、防ぐものを何も用意して来なかったことを後悔。
とっとと水を汲み、退散しよう。
トレイルの前まで行くとすでにチャーリーの姿は無い。
Hui が迷わないように、枝を拾って大きいサインを残す。
今日と明日の分の大量の水を担いで出発する。

ブッシュの濃いトレイルが続く。
いつの間に登りは終わっていたらしいが、細かいアップダウンが続く。
水の重さと体の重さで、つらく長い3mi だ。

Logging Roadに飛び出す。
稜線にあたる場所なのだろう、とても見晴らしが良い。
ここが今日の終了点。
時間はなんだかんだと、午後5時半を回っている。
チャーリーはすでにテントを立てている。
どうやら元気だったのではなく、とても疲れているようだ。
早く休みたくて、早く歩いていたということらしい。

水場の無い場所でキャンプすることを、Dry Camp と言うらしい。
今日のように水を大量に担がなければならないのが大変だ。
しかし、水場に縛られずキャンプできる良さもある。
それに蚊がいないのが、なにより助かる。

硬い地面だったがなんとかペグも打ち込める。
僕もテントを立て終えてのんびりする。
チャーリーはあっという間に食事も終えてテントの中に引きこもる。
夕食を食べて、ほっと一息ついているとやっとHui がやって来る。
“どうしていたんだい?”と聞くと、
“昼寝をしていてさ”と答えが返って来る。
チャーリーはテントの中から声だけかけてくる。
本当の引きこもりみたいだ。

Huiはいつも通り、プロテインドリンクを1リットル、ごくごくと飲んでいる。
美味しいのだろうか。
僕はやっぱりHot Meal が食べたい。

Huiが“夕陽が綺麗だよ”と言う。
本当に綺麗な夕陽だ。
空気が乾燥しているせいだろうか。
ここは良く見渡せる場所だ。
だが、あの太陽はまだまだその明るさを保持し続ける。
それは昨日証明済みだ。

今日はそれでも20miを歩いた。
本当に疲れた、いや、疲れていたのか。
昨日40mi歩いても、今日20miじゃあなあ。
まあ、人間体力もさることながら、精神が大きく左右するということだ。

ストレッチを入念にしよう。
そして、今日はもう寝よう。
まだ明るさは残っているが横になれば直ぐに眠りに入れる。
たまにはこんなのも良いだろう。

だって、ほんとに、ああ、疲れた。



8/1(Sun) Hiking Day79 / 26mi /6:30am-5:30pm (11:00) /NB 1476mi
“Scenic”

山の中で寝る時、寝付かれない時がある。
緊張しているせいか、まるで動物のように常に神経を立てている。
しかし、いつからかまるでそんなこと無かったかのように熟睡する自分。
昨日もまた、目をつぶった次がもう朝になっている。
さすがにゆっくりと休んだので、体も頭の中もすっきりとしている。
チャーリーもHui も快調そうだ。

とうとう8月に突入!
気合い入れて歩かなければ。
次の補給地点Dunsmuir までは残り60mi。
今日は特にハイライトが無い区間で気乗りしないが少しでも前に進みたい日だ。
目標はできたら、30miだ。

昨日たっぷり登ったお陰で、今日は稜線付近をのんびりハイク。
細かくアップダウンがあるのでだらだらとはいかないが何も考えずに歩ける。
景色も大きい変化が少ないが見晴らしが良く気持ちいい。

まあるい大きな綿毛がゆらり揺れている。
タンポポの綿毛のようだが、ずいぶん大きい。

見る度いつもはしゃいで綿毛を飛ばす妻の姿を思い出す。
彼女はもうすぐグアム旅行のはず。
元気かな。

太陽が今日も美しい陽射しをつくり、体を温めてくれる。
紫色の綺麗な花が咲いている。

チャーリーはこの花は火事の後などの開けた場所に咲くと言う。
確かに立ち枯れした木が多いのでそうなのかも知れない。
その向こうにはまた一段と近づいたシャスタ山が見える。


今日は退屈な山歩きになるのかと思っていたがそんなことなさそうだ。
山はどんな場所でもどんな天気でも、いつでも楽しめる。
今度は薄黄緑色の小さい花だ。
ここは日本と海を挟んで遠く離れているのに、良く似た植物が多い。


次はまるでゴゼンタチバナの様だ。
尾瀬に咲くゴゼンタチバナはもっと小さく可憐だ。


色とりどりの花達がハイカーの心をそっと癒してくれる。


途中チャーリーと僕は休憩をとるが、Hui は進んで行く。
今日はみんなコンディションが悪く無い。
やはり、しっかり時間をかけて休むことが必要なのだ。

とても気持が良い、稜線のトレイルは続く。
地図を見ただけでは、単調なのかと思っていたがそんなことない。
歩いてみないとわからないことは本当にたくさんある。
流れるように綺麗な風景が過ぎて行く。

標高は1500から1600m位あるのだが、こんなに上まで林道がある。
林業のためか、防災のためか。
しかし、未舗装のままなので風景や雰囲気を壊してしまうことはあまり無い。
日本だったらアスファルトにしてしまい、景色も台無しだろうが。

ほとんど大きな標高差もなく、ピークを踏むことも無い。
なので、今どこにいるのか時々わからなくなる。

凛と咲く花が僕らに挨拶をしてくれる。
綺麗なヤマユリだ。


チャーリーは快調に飛ばしているので姿が見えなくなる。
とはいえ数分の差もないのだが、ずいぶん先に行ってしまった気がする。
面倒だし、栄養をしぼり取る為になるべく出さないようにしている“大”がしたくなる。
稜線付近だと広い場所も隠れやすい所も少ないので探しながら歩く。
鋭いカーブを曲がった辺りはとても景色が良く、目の前にシャスタ山が見える。
この奥が“事”にちょうど良さそうだと思い、バックパックを置いて入って行く。
草をかき分けて入るとちょっと開けて良い場所がある。
だいぶリミットが迫っているので急がなければ。
ふと横で物音がするので見ると、作業中のチャーリーがいる。
はっと目が合ってしまってお互い気まずい。
“ここは僕の場所だよ”とチャーリーの声。
“ごめん”
少し場所をずらすことにしよう。

トレイルに戻るとチャーリーが歩いて行く所が見える。
それにしてもMt. Shastaが良く見える。
そして地球が丸いのが良く分かる。
そういえば、パワースポットとしても有名だと妻が言っていた。
写真を撮ってメールして欲しいと言っていたので渾身の一枚を撮る。
しかも都合の良いことに電波が入るのでついでにメールもしておこう。


それにしても、アメリカ人は中腰で“する”ものなのかな?
和式無いしね。
まあ、いいや。

追いかけるように歩き出すが前の二人は早い。
途中で休憩中のHui を追い抜いて行く。
チャーリーの早さにほとほと呆れてしまう。
今に始まったことじゃあないが。

風景の良いトレイルは続いて行く。
広々とした景色の中歩くのは本当に気持が良い。
北側を向き、思いを馳せる。
あそこをずっと歩いていった先にCanadaがある。



またMt. Shastaが正面に見える。
見る度に思うが、本当に富士山に良く似ている。
その裾野の広さもまるで富士山だ。
今までは連なる山並の中を歩いて来たが、ここに来て独立峰が目立つ。
ああ、美しい。


チャーリーに追いつき一緒に歩く。
稜線付近にも関わらず、今日もたくさんの林道を通る。
荒れていてトレイルと間違えそうになるが、お互いにフォローし合う。
Grizzly Peak から流れるSeasonal Creek はまだ十分な水量を持っている。
そこでHui とも合流し、ここからは三人連なって歩いていく。

三者三様の歩き方、スピードだが、みんな調子良く進む。
途中チャーリーのスピードが少し落ちて来る。
あれだけ飛ばしていたから疲れてきたのだろうか。
“チャーリー、どうしたの?”
“ああ、ハムストリングスがちょっと痛くて”
チャーリーはふくらはぎの後ろ側が傷む癖があるのだ。
あなた休まなすぎですよ、と言ってやりたい。

トレイルは標高をぐっと下げ、Creek を横切る回数が増えて来る。
いくつ目かのクリークにさしかかると人の声がする。
クロエーションとノットアチャンスだ。
その他に二人ハイカーが一緒にいる。
一人は良く見かけるハイカーだったが名前を覚えられずにいる。
以前家から送ってきたという手作りのクッキーをくれたことがある。
もう一人はとても小柄な独特な雰囲気のハイカーで初めて会う。
僕の耳には、テンジン、としか聞こえないが、Tangentというトレイルネーム。
なぜ三角関数なのかはわからない。
水を汲みながら4人で休んでいるようだ。
彼らに軽く挨拶をして先に進む。

山肌を縫うようにして少しずつ標高を下げて行く。
なかなか快調だ。
そろそろ25miを越えるが、時間はまだ午後5時になるくらい。
あと2時間も歩けば目標としている30mi だ。

景色が低くなり、大きな急カーブを曲がってトレイルは伸びて行く。
再び鋭角なカーブを切るところが、Butcherknife Creek。
ここを曲がり降りて行くとAsh Camp という川沿いのキャンプサイトがある。
そこまでは余裕だな、と思う。
Butcherknife Creek に小さなキャンプスペースがあるのがトレイルから見える。
すると突然チャーリーが、ここで終わろう、と言い出す。
“もう限界だ。ここでいいよ”
“でも、もう少し下りれば。”
Hui は僕らを見ている。
直ぐにクロエーション達が追いついてきて、Hui は彼らと一緒に先に歩いて行く。
“ねえ、チャーリー”と僕が言いかけると、全て言い終わる前に、
“まだ歩きたかったら、一人で行ってくれ。”と言われる。
突然の断固たる宣言に唖然としてしまう。
チャーリーはそのままトレイルからキャンプサイトへと降りて行ってしまう。
今日はまだまだ歩けそうな気持ちでいる。
それなのに突然のストップでは気持ちを持て余してしまう。
“はあ”
大きな溜め息を一つ吐いてチャーリーの後を追う。
ずっとチャーリーと歩いてきて今更一人で行くなんてできるわけも無い。
それにチャーリーとこうして歩けるのも残りわずか。
別れが迫っているのだ。
“チャーリー”と声をかける。
“Thank you”
その言葉は、ありがとう、だけじゃなく、ごめん、もたくさんある気がする。

深い谷間なので薄暗く開放的ではないが、整地されたサイトは悪く無い。
ちょうど二人分のスペースがあり、テントを立てる。
時間は午後5時半を回ったところ。
食事をするには早いし、何をしようか。
水もそこそこ流れがあるので、靴下でも洗うことにしよう。
チャーリーがそれをみて、ぼくもそうしよう、と言う。

脱いだ靴下を濡らし、それで足を洗う。
砂埃が付いた脚はすっかり色が変わっているが綺麗に洗い流されて行く。
足も丁寧に指の一本一本を洗っていく。
“気持ち良いね”と言うと“キモチイイ、デスカ?と片言で返して来る。
思わず笑みがこぼれる。
チャーリー、今日も一緒に歩けて楽しいよ。
気持ちが胸に込み上げて来る。

汚れた靴下は一度くらいじゃ落としきれない。
茶色の水が止まらずに出て来る。
完全に透明になるなんて期待するだけ無駄なので、適当なところで切り上げよう。
木の枝に靴下を干して、靴の中敷を出して乾燥させる。
ここは湿った場所にしては蚊がいないようだ。
濡れた足を放り投げ乾かすととても気持が良い。

チャーリーの脚の調子を聞くと、薬を飲めば大丈夫、と言う。
目標には届かなかったが、それでも今日は26mi歩いた。
十分すぎる距離だ。
残りは34mi弱あるので、明日の行程に悩む。
今日30mi 歩いていれば、明日なんとか街に入れるかもしれない。
だが、34mi は少々、大分、厳しそうだ。
スケジュール係の僕は、明日はトレイルヘッド近くまで歩こうと決める。
そして明後日の早い時間に街に入りのんびりすれば良いのだ。
ここまで来て無理する必要も無い。
チャーリーも、良いんじゃない、と同意してくれた。
明日最後に通る水場も確認し、大体のキャンプ候補も決める。

陽が落ちきる前に夕食を終え、ゆっくり日記を書く。
日が暮れたら、今日も入念なストレッチをして眠りに入る。
ここのところギリギリなスケジュールで精神的に疲れを感じていたのだ。
結果的にはちょうど良かったのだろう。
チャーリーとの残り少ないハイキングを明日も楽しもう。


-"drowsy" Turtle
by hikersdepot | 2012-01-25 00:30 | PCT2010 | Comments(0)
Old Station,CA to Dunsmuir,CA and Mt.Shasta, CA/ Day98 – 103/ 1382.8mi – 1510.0mi(127.2mi)/part2
7/30(Fri) Hiking Day77 / 41.2mi /4:00am-9:30pm (17:30) /NB 1430mi
“A Looooooooooooooong Day for Exceed Myself”

本当はもっと早く起きる予定だったが、昨日が遅すぎた。
それでもいつもより早い3時半起きの、4時には出発だ。
Hui は朝の準備が僕よりもかかるので、先に歩き出す。
チャーリーは軽量化の為にライトが小さく、光量も弱い。
夜間歩行には適しておらず、僕が先行して歩く。

昨日見た通り、ここは既に結構な高台になっているらしい。
トレイルは平でほとんどアップダウンは無く歩きやすい。
両側は切れ落ちた絶壁で、その上の台地を歩いているのだ。
ところが、足下は大小の石が多く、時折つま先を痛打する。

背の低いブッシュの中を下に注意しながら黙々と歩く。
少し低くなった場所は水分が溜まりやすいのか、木が生えている。
空がほんのりと明るさを帯びてきている。
遠く大地の中から太陽が飛び出そうとしているのがわかる。
今日も素晴らしい朝が来たんだ。


前方には人工物が見える。
近づいてみるとそれはビヴィで、中にいるのはDrug Storeだ。
サブウェイケイブに行っている間に抜かれて、ここまで来ていたようだ。
何も遮るものが無い場所で風は寒いが、空はひたすらに広い。

軽く挨拶をして通り過ぎて行く。
歩き始めてから二時間くらい経っているので、少しだけ休憩をする。
体が冷えてしまうので長くは休んでいられない。
しかし、座布団を敷いてしばしの憩いをとろう。

まだまだ抜けるには半分も歩いていないだろうか。
遮るものの少ないここからは素晴らしく見晴らしが良い。
昨日以上に近づいたマウントシャスタが堂々と構えている。

Hat Creek Rim の説明が地図に書いてある。
Dry, Hot, Waterless!
なるほど、簡潔な説明でわかりやすい。
時間はまだ8時前だが大分暑くなってきた。
昼間に歩くと言っていたEvan 達は大丈夫だろうか。

さっきの休憩からは2時間くらい、歩き始めてからは4時間くらい。
目の前には明らかに人工物とわかる鉄塔が建っている。
地図に“Old Fire Lookout”と書いてある。
確かに、かなり全体に見渡しやすい気がする。



こんな不毛な大地にも花は咲く。
綺麗な花はハイカーの心を癒してくれる。




Fire Lookout から一時間くらい歩いたところに“Road 22”がある。
細いジープロードだが、数少ない下から繋がっている道だ。
そこにウォーターキャッシュがあるらしいのだが、Yogi には書いていない。
しかし、Heitman が言っていた通り、そこにはあった。
ピクルスというトレイルエンジェル置いてくれたフルーツもある。
ありがたいことだ。
チャーリーとクーラーボックスを開けて確認してみるが、熱さで大分やられている。
後のハイカーの為にも、ギリギリのものから食べる。
僕の大好きな、ネクタリンもあり、完熟の状態で甘い。
そうこうしていると、後ろからはDrug Store とHui の姿が見える。
彼らもフルーツにがっつき始める。
水はまだ余裕がありそうなので、やはり後のハイカーの為にも残しておこう。
レジスターの中には既知のハイカーの名前がちらほら。
そこには、クロエーションとノットアチャンスの掛け合いのようなメッセージが。
若干卑猥な内容だが、彼ららしくて面白い。
“私の豊満な胸とLays(アメリカで最も有名なポテトチップス)、どちらがお好み?”Not a Chance
“もちろん! Lays!”Croatian Sensation
さすがハイカーの発言だ。
それ以外にEric The Black をDevil と揶揄したコメント等、楽しい内容だ。


丸ごと一個のメロンを“食べよう”とHui が言い出す。
チャーリーはそれを断って先に歩き出してしまう。
僕はもう少しレジスターを読んでいたかったが、歩くか、と立ち上がる。
とフーイが“メロン食べようよ”とまた話しかけてくる。
さすがに食べ過ぎじゃないかと思ったが、すでに切り始めている。
ついでだから頂いてしまおう。
久しぶりのメロンはかなり熟していて甘さが強く、とても美味い。

残りを食べている二人を置いて先行して再スタート。
もうすでに今日の予定の行程の半分、13miを歩いている。
時間は8時、急ぐ必要は無いのだけれど。
休憩して少し食べたとはいえ、直ぐに腹が減るのがスルーハイカー。
チャーリーはどこで昼飯にするのだろうかと考えながら歩く。

チャーリーの姿は見えないまま歩き続ける。
リムのギリギリを通っていたトレイルが内側に入り単調な道が続く。


遠くに溜め池のようなものが見える。
家畜か栽培用だろう、水の確保はこの土地では、全てのものにとって、とても重要だ。
再びトレイルがリムに沿うようになる。
地図を見れば、もうすぐHat Creek Rim が終わりになるようだ。

灌木の木陰に佇むチャーリーが見える。
近くに陣取って腰を下ろし、昼食を食べる。
気持ちよい風が吹くが、腹が膨れると眠気が襲ってくる。
Drug Store が追い抜いて行き、Hui が追いついてくる。
Hui は少し休憩をとるようだ。
“今日はどこで終わりにしようか?”Turtle
“さあね”Charlie
“どうしようかな”Hui

引き続きRim すれすれを歩いていく。
細いPower Line(電線)を抜けると、それに沿ってトレイルは下りる。
約20mi続いたHat Creek Rim も終わりとなる。
水場まではまだあるので気は抜けないが、一段落と言って良いだろう。
先には荒涼とした大地が広がっているのが見える。

小さな道路にぶつかり、それに沿ってトレイルは進む。
その道路を跨いで平坦なトレイルが伸びている。
チャーリーと僕は気づく度にゴミを広いながら歩いている。
そして、褒め合っているのだ。
ふと目の前に空き缶がある。
相当道路から離れたトレイルのど真ん中の木に引っかかっている。
空き缶ゴミは大抵人が多く来るところにあるのだが、風に飛ばされたのか。
空き缶なんて拾いたくは無いが、目に入ってしまったのだから拾おう。
それはコカコーラの缶だ。
しかも、全てシルバー。
文字があるのにシルバーだ。
これは驚き。
日光で色が抜けてしまったのか、なんなのか。
チャーリーは缶を拾った僕を見て“Good job!”声をかけてきてくれる。

ジープロードを越えて淡々と歩いて行く。
歩きやすくスピードもグングン上がるが、単調すぎて飽きてくる。
そろそろ30mi以上ぶりの水場が近いのだが。
“シュー、シュー”と変な音が聞こえてくると、大きなパイプが見える。
パイプとのつなぎ目から水が漏れ出して吹き出しているのだ。
そこにDrug Store が立っている。
そこから水を取ろうとしているようだが、難しいだろう。
僕達は先に進み、直ぐに小さい水の流れを見つける。
どうやらここが、Rock Spring Creekのようだ。
今日出発から26miになる。

まずは水汲み、そして一休みしよう。
時間は2時半くらい。
水流が浅いので苦労して水汲みをし、浄水剤を入れて待つ。
その間、ボトル式の簡易浄水器でのどを潤す。
すでに一日分は歩いているわけだから疲れていて当然なのだが、心が高揚している。
陽射しが暑いのでチャーリーと離れた日陰で横になり休む。

さて、どうしたものか。
まだ止まるには早いが、ずいぶん歩いているも事実だ。
チャーリーのそばに行って、どうするのか尋ねる。
するとチャーリーは“もう少し歩こう”と言う。
“良いけど、どれくらい?”
“Burney Falls まで行かないかい”
薄々わかってはいた。
機能は僕も冗談で、行けたら良いね、なんて言っていた。
その時はチャーリーが否定していたのに、今は逆だ。
Burney Falls州立公園にはPCTハイカーの荷物を預かってくれる売店がある。
チャーリーはそこに次の食料を送っている。
僕はOld Station でピックアップしたばかりだから荷物が重い。
チャーリーは“そこまで行けば大好きなコーラが飲めるぞ!”なんて言っている。
“ちょっと待ってよ、行っても売店の開店時間に行けるかな?”
“さあね。行けるかも知れないし、行けないかも知れないね。”
なんて勝手なことを言うもんだ。
だったら先に言っておいて欲しいものだ。
今日ここまで歩いた距離は26mi(41km)。
すでに一日歩く距離としては十分すぎる。
そして、ここからBurney Falls までの距離は12mi(19km)。
今から更に半日分の距離を歩こうというのだ。

もう少し休みたいからと言ってまた木陰に戻る。
どうしたらいいかな。
行けるところまでは行きたいが。
Huiが追いついてくる。
二人はどうするんだい、と問いかけてくる。
チャーリーはにやにやして何か話している。

悩んでいても始まらないし、止まるには早すぎる。
よし、歩こう!
“チャーリー!行こう!”
“もちろんさ!”
現時間は午後3時。
情報によると売店は午後7時まで開いているようだ。
残り時間は4時間。
時速2.5miで歩いたとしたら5時間近くかかるので間に合わない。
少なくとも時速3miで歩かなければならない。
いざ、Go on!

Hui はもう少し休憩するようで、先に二人で出発する。
今日の僕らの体調はとても良い。
いや、モチベーションが異常に高い気がする。
今日最高のペースで歩き始める。
向こうの方に湖の様なものが見えるのだが、どうやら人造湖らしい。

建物の間を抜け、一気に人里まで降りて来る。
ここは釣りで人気の場所らしく人の姿が多い。
かえってPCTのルートがわかりづらくなり、釣りをしている男性に道を尋ねる。
期待していなかったが、案の定知らないようだ。
方角に検討をつけて、小さな橋を渡ってみるとPCTのマークが見える。
湖に沿って歩いて行く。


正直無謀な挑戦だが、それをする気になったのは理由がある。
この辺りが極端にフラットで歩きやそうだったからだ。
山道であることには変わりないが、フラットであれば時速5キロは出せる。
時速3mi以上だ。
今の僕達ならできるはずだ。

向こうから歩いてきたハイカーがいる。
小柄でぽっちゃりとしたかわいい女の子だ。
名前はChocolate Bandit(チョコレート盗賊)。
同名の歌手もいるが本当のお菓子好きらしい。
彼女はダニエル&ジョーとしばらく一緒だったらしく、僕らの話を聞いていたようだ。
“あなたがチャーリーで、あなたがタートルね”
彼女はNorth Bound で歩いていたのだが、家族の事情で中断を余儀なくされたらしい。
一段落した後、歩けるところをSouth Bound で歩いているようだ。
彼女はウレタンのスリーピングマットをパックの上部からぶら下げている。
マットに穴をあけて付けているようだが、面白い方法だ。


彼女と別れたあと、僕らのギアはまた上がる。
単調で特徴の少ないトレイルだがそれもまた面白い。
木々が適度にあり、人工物がすぐそばにある。
日本の低山歩きのようだ。
突然動物が目の前を横切る。
小さな犬のように見えたがなんだろうか。
後ろを歩くチャーリーに話をすると“Coyote じゃないかな”と言う。
あのロードランナーとワイリーコヨーテのアニメのコヨーテだ。
思っていたよりもずっと小さく狐のようにみえる。
警戒心が強いようで、あっという間にどこかに行ってしまった。

Highway 299 を越えるとまた平坦で単調なトレイルになる。
とにかくひたすらに歩いて行く。
時間が経つ意識がなく集中力を途切れさせないようにする。
疲れはあるが気持ちをコントロールして保つしかない。
間を置かないように行動食を補給して空腹をごまかす。

平坦なところを歩き始めて1時間くらいは経っている。
いくつものジープロードを横切って進んで行く。
水筒の水がほとんど無くなってきたが足を止められない。
パックの中にはまだたっぷりあるのだが。
やや大きなジープロードの脇には草原の様な場所が見える。
Arkright Flat という場所のようだ。
本当は止まりたく無いがさすがに水筒の水が底をつく。
足を止めてパックを下ろすとチャーリーが“先に行くよ”と進んで行く。
バックパックから水を出して移し替える。少しだけほっとする時間だ。
さあ!さあ!
自分に発破をかけて歩き出す。

断続的にジープロードと交差しながらトレイルは進む。
ほんの5分も変わらないがチャーリーにはもう追いつけない。
止まったせいでモチベーションが下がってしまったようだ。
後ろからHui が追いついてくる。
彼も本当に歩くのが早い。
“Please go ahead”

さすがに疲れが隠せないが、Burney Falls に近づいてきたのは確かだ。
気づくとトレイルの右側が谷の様に見える。
下の方には川があるようなのだが、川にしては流れがないようだ。
谷のリムに沿っていたトレイルが急カーブして曲がり進んでいく。
二人の後を追いながら何も考えずに黙々と歩く。
疲れてきたし、腹も減ってきたが、こういう時こそ何も考えないのがBetter だ。
さっきから車の音が聞こえているが、そういう時ほど近づかないもの。
時間は午後6時を過ぎている。
もう少し、もう少しのはずだと言い聞かせて足を動かす。

木々が濃い薄暗い森をずっと歩いている。
トレイルが開けて明るくなり、緩やかに下り始める。
目の前にはやっと道路が見えて来て、Highway 89 を渡る。
すると、チャーリーとフーイが道標の前に立っている。
“やあ”と言うと“Shin も食べなよ”と言う。
トレイルエンジェルの置いたフルーツがプラスチックバッグに入っている。
この暑さでだいぶ熟しすぎていて、良いところは二人が食べている。
僕は遠慮しておこう。
ここの道標にはPCTハイカーが嬉しくなる様なことが書いてある。
Canada とMexico。


グッと来る。
写真は撮っておこう。
時間は午後6時30分を回った。

時間はギリギリなので急いでBurney Falls に向かう。
残りはあと1mi なので十分間に合うが、アメリカ人はわからない。
時間前でも人が来なければ閉めてしまうことも普通だ。
川に沿ってトレイルを進む。
キャンプサイトがあるところを過ぎて、後少し。

走るように歩き、大きな道標のあるところへ着いた。
そこには川を跨いだ橋が架かっていて向こうへ渡れるようだ。
その向こう側がBurney Falls State Park のストアがあるところだ。


急ぎ川を渡り向こう岸へ行くと明らかに人工的に綺麗に整備されている。
道標の案内のまま、アスファルトの道路を左に曲がる。
周りには止まっているたくさんの車と観光客の姿が多く見られる。
ストアの場所が見当たらないので三人でキョロキョロ。
やっとそれらしき建物を見つけて向かうとガラスの向こうにはたくさんの食べ物がある。
着いた〜!
時間は午後7時ギリギリだ。
結局、僕達はほとんど休みなく、時速3mi以上で歩ききったのだ。

ストアの看板には、情報と違い、午後7時30分までになっている。
安心してストア内を物色しよう。
入り口付近には公園のお土産品が並ぶがその他は普通のGeneral Store の内容。
冷凍食品のみだがホットミールを食べられるようにもなっている。
キャンプ場もあるので、食材となるものや牛乳なども売っている。
初の30mi越え、38mi を歩いたお祝いには、まずはコーラだ。
ところが、Hui はカルシウムのためと牛乳をワンパック飲むらしい。
日本の1リットルパックはアメリカでは珍しいが、ここには売っている。
キャンパーが使い切りやすいようにだろう。
なるほど、それも捨てがたいし、久しく牛乳を飲んでいない。
チャーリーと半分ずつ飲むことにしよう。
もちろんコーラも!
本当は3人ともピザが食べたいのだが、さすがに無い。
その代わりにチャーリーは冷凍のチーズバーガーを選択。
僕とHui はピザの具材を包み込んだ、Pizza Roll を食べることにする。
店内に備え付けのmicrowaveでじっくり丁寧に温めて食べよう。

自分達で持っている食料も、もちろんある。
けれど、自分達でもあり得ないほどの食料を買い込んで外のテーブルに並べる。
夕暮れ時も過ぎた時間に、臭く汚いハイカー3人、貪り食う図。
周りからみればなんとも奇妙なものだろう。
こっちももう慣れたものだけど。

買ったコーラの缶が2口で空いてしまう。
二本目は丁寧に飲もう。
ピザロールはなかなかの味だ。
まあ、ハイカーにとってみればそこそこ食えれば十分すぎる。
甘いお菓子も遠慮なく食べてしまおう。
足りなくなりそうなら、まだ買えるのだ!
閉店ギリギリには食後のアイスを買いに行かなければ。
とにかくひたすら食べて食べて食べる。

ここのストアのアイスは市販以外のソフトクリームがある。
それが意外と面白く、その巻き数で値段が違う様なのだ。
どれくらい違うのかわからないので聞くとちゃんと絵で高さが示してある。
それは素晴らしく体格の良い女性店員に聞くと、
“私はMがおすすめよ”と言う。
なるほど、SとMで倍近く量が違うのに50セントしか変わらない。
Lはさすがにやり過ぎだから、Mサイズに決定!

アイスを食べながらこの後を話す。
“さあ、キャンプサイトはどこかな?”
すると二人は微妙な顔で返事をして来る。
まさかのまさか、そのまさかのようなのだ。
ここまでで38mi歩いた。一般のハイカーなら3日かけて歩く距離だ。
“ねえTurtle、今日、あと2mi歩けば40mi 越えだよ!”とチャーリー。
“30mi以上歩くのだって初めてなのに、もう十分だろう?”
“あとたった2miだよ!すごいと思わないかい!”
チャーリー!!!!!!
もう言い出したら聞かないのはわかっている。
だとしたら、あとは僕個人の問題だ。
チャーリーとの旅もあとわずか、、、行こう!
でも“ああ、わかったよ。行くよ。”と嫌な振りをしておく。
ささやかな抵抗だ。
それにしても、この先は地図を見る限りキャンプできそうな場所が見当たらない。

トイレを急いで済まし、荷物をまとめ今日何度目かの出発。
体力の限界はとうに越えていたはずだが、食べたら元気が出てきた。
まだまだ歩けそうな気がする。気がするだけかもしれないけど。
時間は、午後8時、をとっくに越えている。

自分達の体も意外だが、この明るさにもびっくり。
さすがに日は落ちたのだが、まだ写真が撮れるくらいの明るさはある。
せっかくなので公園の名前にもなっている、Burney Falls を見に行こう。
想像していた以上に美しい滝だった。
この下にも降りられるらしいが、その時間は無い。
もっとゆっくりとこの場所を過ごしてみたいと思う。



滝の高さは約390m
滝壺の深さは約66m
水温は6℃から9℃
一日の水量は約380,000,000リットル!(100 million gallon!)

束の間の観光も終わり、再び歩みを進める時が来る。
川を渡りトレイルに戻ると急に暗さを増して来る。
さすがに太陽も休む時間が来たのだ。
しかし、僕らの歩みは止まらない。
ヘッドライトを用意し川沿いの道をどんどん進んで行く。
この辺りは平で広い場所も多くキャンプするのには最適だ。
できることならばこの辺りで終わりにしたい。
でも残り2miの為には、まだまだ進まなきゃならない。

キャンプサイトらしき場所を通り過ぎ道路を渡る。
すっかり暗闇に包まれる。
今日は暗闇から暗闇まで歩き続けている。
Night to Night Hike とでも言うべきだろうか。
しかし、朝と違い闇は深くなるばかり。
時間の感覚も距離の感覚も失われて来る。

急坂を上がり、下がり降りた所は取水口になっている。
水力発電でも行っているのだろうか、まるでそんな雰囲気を持っている。
トレイルから道路に出るとどちらに進むべきかわからなくなる。
地図が大きすぎて細部が見られないのだ。
でもきっとこの取水口を横切るのだろう、それしか道がない。
水の補給ができるかも知れないと思っていたので手持ちの水が少ない。
この先も期待できそうに無いな。

アスファルトの上を小さな明かりが揺れている。
反対側に来たもののどこがトレイルなのかわからない。
三人で手分けして探すと、工事中の場所の間から上に伸びている道を見つける。
どうやらここがトレイルらしい。
急で適当な作りの道を上がると、直ぐに道路にぶつかる。
そこから細い道も延びていて、どこに向かうべきかわからない。
暗く遠くを見渡せないからトレイルを見つけ出すのが難しい。
さて困った。停滞するにも寝られそうな場所は無い。
とりあえず道は明日探すとして、今は休む場所を探そう。

よく見ると下には足跡があり、その靴底の跡には見覚えがある。
ガットフックだろうか。
その方向に向かうしか無く未舗装の道路を上がって行く。
気温はだいぶ落ちてきて涼しい。
道路沿いにはPCTマークは見当たらない。
しかし、この方向で問題は無いはずだ、仲間の足跡を信じる。

道路が三叉路になる。
頭上にはパワーラインが通っていてチリチリと音を出している。
足跡はほとんど不鮮明になっている。
どこかでずれたらしい。
ちょうどこの辺りは平になっていてテントを張れるスペースがある。
これ以上動いても良いことは無いように思え、ここで終了とする。
とにかく疲れた。パックを置き、丸太に腰をかける。
時間は午後9時30分になっている。
なんと行動時間17時間30分の長い一日になった。

Hui はとっとと幕を張り始める。
いつもはおしゃべりな彼もさすがに疲れているのか、口数は少ない。
僕も整地をして幕を張り始める。
遠くから楽しそうな人の声が聞こえる。
どこかでパーティーでもしているようだ。
状況はまったくわからないが、パワーラインといい人里はとても近いのだろう。

幕の中に入り込み、とっておきのコーラを取り出す。
祝杯用にわざわざ担いできたのだ。
一人祝杯をあげる。
きっとみんな喜びをかみしめているのだろう。
それぞれの胸の中で。
いや、それとも疲れでぼーっとしているだけかも知れない。
僕は、歩けた僕に驚きと感謝を感じている。
人はこんなに動けるものだったのか。
何かを飛び越えたそんな気がする。

この場所はそんなに人里に近いのか、携帯の電波が入る。
久しぶりに日本に連絡をして無事を伝える。
三ヶ月もこんな生活を続けてきている。
人の生活がより遠く、より近くに感じる、不思議な感覚だ。

まだまだ続くこの生活を僕はどこまで楽しめるのだろう。
楽しまなくても良いのかもしれない。
また明日が来たら歩く。
ずっと進み続けることが人の道なのかも知れない。
明日もまた未知への旅が始まる。


"madness" Turtle
by hikersdepot | 2012-01-21 08:28 | PCT2010 | Comments(0)
Old Station,CA to Dunsmuir,CA and Mt.Shasta, CA/ Day98 – 103/ 1382.8mi – 1510.0mi(127.2mi)/part1
7/29(Thur) Hiking Day76 / 7mi (Nero) /3:40pm-7:40pm (4:00) /NB 1389mi
“Good See You”

思ったよりも夜が冷えただけじゃなく、ベッドの底冷えが応える。
せっかくのベッドだったが、熟睡とはいかなかった。

寒い朝、天気は今日も良いようだ。
この寒暖差の大きさもカリフォルニアの特徴の一つ。
まだ空は少し青みがかかっている。
ツリーハウスの下ではジョーがまだ寝ている。
ガレージの溜まり場に行くと、早起きグループはそれぞれの時間を過ごしている。
モーニングコーヒーを飲もうと思ったが、トレイルエンジェルの朝は早くないようだ。
特にすることも無くぼんやりと朝の柔らかな時間を過ごす。
たまにはこんなほっとできる時間も悪くない。

目覚めが“ゆっくり”なハイカー達も起き、ハイカーにとっては遅めのブレックファストが始まる。
フレンチトーストとベーコン、暖かいコーヒーを食べると、活力が湧いてくる。
とはいえ、早くても昼くらいの出発を予定しているので準備はゆっくりだ。

ここの奥さんがバリカンを持ってやってくる。
突然、Huiの断髪式が始まる。
少し髪が伸びすぎているところはあるが、僕ほどでは無い。
Huiは髭も綺麗に?生えないのかもしれないが、清潔にしているようだ。
バリカンで上手いこと髪を綺麗に切っていく。
意外に見事な腕だ。
僕もお願いしたかったが、せっかくだから最後まで伸ばそう。

イベントが終われば、特にすることも無い。
ここのコンピューターは日本語を表示できないため、日本へのアクセスも難しい。
そうなると、ただハンモックに揺られるくらいしか出来ない。

時間は過ぎ、昼前にもなれば腹が減る。
チャーリーと、ストアで食事をしてから出発しようと話をする。
正午くらいの出発を予定する。
ガットフックはその前に出発する。
どのように進むのか尋ねるが、普通に行くよ、という。
彼ならば大丈夫だろう。とても研究熱心だし、きっと考えがある。

そろそろ、僕達もという時間になっても動き出さない二人がいる。
Joe とHui だ。
ジョーはまだ悩んでいるらしく、結論を出さない。
チャーリーとしてはそれを待ちたいらしい。

またハイカーがThe Heitmanに訪れる。
おお!久しぶりのEvan、Noga達だ。
再会を喜び合う。
彼らとは、Echo Lake で会ったきりだが、ほとんど一日違いで動いていたようだ。
僕らもここまでNo Zero、彼らもここまでNo Zeroだ。
このあとどうするんだい?とEvan。
ゆっくりしたいけれど今日出るよ、と僕。
ジョーやダニエルのことを話すと心配そうだ。
Evanはどうするのだろう。
尋ねると、あと少しで終わりにしなければいけないのだと言う。
EvanとNogaの友達は大学生で、その休みを利用して来ているのだ。
休学して歩ききることもできるのだろうが、そう簡単な話でも無いのだろう。

Evanは“どうして急がなければならないんだい?”と言う。
どうしてって、予定していた時間は大分押しているし、待つ人もいる。
確かに帰らなければならないわけではないが、今までと同じようにも出来ない。

時間はどんどん過ぎて行く。
開き直るしかないので、ハイキング用のポテトチップスを開けてテラスで会話に加わる。
みんなの手が遠慮なく袋の中に飛び込んでくる。
残った分は持っていこうと思っていたのだが、良しとしよう。
Freefall が“PCT Days”に参加するのは難しいかも知れないと言う。
確かに今のままだと、数日遅れるくらいだろうか。

正午を過ぎてもなお動き出そうとしないので、チャーリーに尋ねる。
すると、ジョーがダニエルを待つことを決めたと聞かされる。
いつかは、とわかっていたことだし、それが良いと思う。
けれど、別れはとても寂しい気持ちになる。
言葉に詰まってしまう。

ジョーもSubway Cabe までは行くと言う。
Hui も一緒に出発することになる。
じゃあ、そろそろかなと思っていたが、まだらしい。
二人は何をしているのかと思ったら、ビデオを見て盛り上がっている。
ツリーハウスにはたくさんのビデオがある。
その中から選んだものすごいB級映画のようだ。
どこかの国のどこかの戦士とどこかの超能力者がどうこうという話だ。
おいおい。
行こうよ、と声をかけると、もうすぐ終わるからと。

外でぼんやりハンモックに揺られようか。
はあ。

荷物をもってガレージの前に置いておく。
いつでも出発できることをアピールする為だ。
それほど効果があるとは思えないが、やれることはやっておく。

2時を回ってやっと動き出す。
Good Foot に声をかけようとしたが、外に出ていない。
かわりにFreefall がストアまで送ってくれることになる。
ここを離れる前に、Donation(寄付金)を忘れずに置いていく。
これからずっと続く僕の後のハイカー全ての為にもだ。

ストア着いた時には2時半を既に回っている。
店の前にはFuzzy Monkey がいるじゃないか!
少し疲れが見える顔をしているが、元気そうで何よりだ。
ご多分に漏れず、彼もミルクシェイクを片手にしている。
ファジーモンキーとフリーフォールはThe Heitman に戻っていく。
ありがとう、と感謝の言葉と、また会おう、と再会の言葉を言おう。

さて、まず僕らがすることは腹ごしらえだ。
ずっとお腹が空いてしかたなかったが、やっと食べられる。
飢えたハイカーは飢えたオオカミよりも恐ろしい。
ストアに入り何を頼もうか物色。
とりあえず、ベーコンチーズバーガーにコーラは決まりなのだ。
しかし、そこにシェイクを追加するかが悩みどころだ。
食べ過ぎて腹を下すこと幾度。
わかっていても止められないこの食欲。いや、欲望と言うべきか。

外のベンチにみんなで座り食事をする。
ジョーとこうして食べるのはこれが最後になるかもしれないと思う。
寂しがってばかりいられないのだ。
僕には僕の旅があり、彼には彼の旅がある。

新たなハイカーが到着する。
彼の名はDrug Store。
名の通り、あらゆるサプリメントやプロテイン食で歩いているらしい。
ある意味、もっともジャンクなやり方と言えるのかもしれない。
The Heitman に行くのかと思ったら、全く興味がないようだ。
僕らよりも先に出発していく。

やっと僕らが出発することになったが3時半を越えている。
スロースターターにも程があるだろう。
トレイルに戻り歩き始める。
昨日同様の歩きやすいトレイルがずっと続いていく。
ジョーだけパックが無いので軽そうにしている。
“いくらかもらえれば担ぐよ”なんて冗談を言っている。

どんどん先へと歩いていくと、分かれ道のサインがある。
←Subway Cave
サブウェイケイブとは、まるで地下鉄のような形の洞窟のことだ。
この辺りの名所旧跡の一つだ。
約二万年前の噴火の際に表面は固まり、下を流れる溶岩流によりできた。
Lava-Dome 溶岩ドームなのだ。
本当にこんなところにあるのかという人気の無い道をいく。
すると、フェンスに囲まれた中にぽっかりと穴の空いた場所が見える。


ベンチも用意され、人の往来を感じさせる。
チャーリー達をしばらく待つとやってくる。
チャーリーの背中には荷物が無く、本当にジョーが背負っている。

どうもここは反対側の出入り口らしい。
水を汲む必要もあるので、このままパックを背負って行こうとするとチャーリーのストップ。
良く理由はわからないが、荷物を置いていくと言う。
そんなに距離もないだろうから取りに戻れば良いと言うのだ。
とりあえずヘッドランプだけ持って洞窟へと降りて行く。
入り口は大きく、しかしその全貌は見えない。

下まで降りると、その名の理由が良く分かる。
思いの他綺麗な半円形を作っている洞窟がそこにはある。
洞窟なのだから当然ながら奥は暗く何も見えない。
ライトを点けて奥を照らすが、光が届かない。
足下を照らしながら歩き出す。


洞窟の上部は滑らかになっているが、地面はでこぼこしている。
それに、少し湿っていて滑りそうで歩きにくい。
外の暖かい空気と違いひんやりと湿った涼しさだ。
いくつか枝分かれしていて、奥までいくと説明の標識がある。
僕の読解力では全てを理解することは難しいが、大まかにはわかる。
出口が近づくと徐々に明るくなってくる。
気持ちがほっとするのはなぜだろう。
人には太陽の明るさが必要なのかもしれない。
暗闇の中に居ると時間の感覚が薄れるようだ。
10分位かと思っていたが、実際には20分位かかり出てくる。
外はまだ陽射しに覆われた世界だ。

数人の観光客がこれから中に入って行こうと降りてくる。
それにしては薄着過ぎるし、ライトを持っていない人もいるようだ。
上がると遊歩道があり、戻る道とTrail Head へ行く道と別れる。
トレイルヘッドまではとても近く、そこにWater Spigot(水道)がある。
やはりパックを背負ってくれば良かったのだろう。
時間もそんなにたくさんあるとは言えない、もう5時を過ぎている。
急いでトレイルを戻ろうとするが、地下と違ってくねくねと曲がる道は長い。
パックをピックアップして、また大急ぎで戻って行く。

トレイルヘッドには駐車場と小さなトイレがあるだけだ。
その脇のベンチでは見慣れた顔が、Train、Carub、Sunseeker だ。
何をしているのかと思えば、飲んだくれているのだ。
傍らには大量のビールの空き缶がある。
本当にお酒が好きな人達だ。

水を大量に補給する。
ここから先は30mi以上水が無いかもしれないのだ。
トレイルエンジェル達の話では、途中にウォーターキャッシュがあるとは言うのだが。
信じていないわけではないが、どこのガイドにも載っていないし、無くなっているかもしれないのだ。
正直、食料も5日分あり、更に水を積むのは楽では無い。
だから、水はいつもぎりぎりしか持たないようにしている。
けれど、今日の夕食と明日の一日分と考えれば、持って行くしか無いのだ。

ジョーとはここでお別れだ。
初めての別れではない。
これで3度目になるのだろう。
しかし、今までとは違う雰囲気がある。
きっと、これが最後になるのかもしれないという思いをみんな持っている。
そろそろそういう時期なのだ。

チャーリーと抱き合い別れを惜しんでいる。
僕もジョーと握手を交わし、強く抱き合う。

ジョー、また会おう。

もっと別れを惜しんでいたいが、寂しくなるばかりだ。
きっときっとまた会おう。
手を振りながらジョーが歩き始める。
その背中は少し寂しそうだが、これが16歳の少年が大人になるステップの一つだ。

さあ、僕らも進まなければ!
まだまだ今日は歩くんだ。遅れた分を取り戻そう!
Train達に声をかけて出発。
一旦来た道を戻り、PCTへ入る。
まだまだ道は単調なまま進みスピードは上がる。

しばらく歩いて行くと、車のエンジン音が良く聞こえる。
道路が近いらしい。
ずっと平らだったのに、標高を上げ始める。
おそらく、Rim に上がって行っているのだろう。

ちらっとトラックが見える。
道路が巻くようにトレイルに近づいてきている。
上がりきった所にはParking Lot があり、トレイルヘッドになっている。
ちょうど展望台のようになっていて削られた大地が良く見渡せるようになっている。
時間は午後7時を回り、今が夕暮れ時だが、この明るさだ。
休んでいる時間なんて無いのだけれど、せっかくの景色を見ないなんて、無い。
バックパックを降ろしたついでにトイレにも行ってくる。
コンクリに覆われた堅牢なトイレの中で十分生活ができそうだ。
臭いさえ我慢できれば。

広々とした大地。
えぐれた大きく深い谷。
南には雪を戴くMt. Lassenが大きく広がる。

北にはまるで富士山を思わせるような、Mt. Shastaがその勇姿を見せ始める。



この辺りを今日の最終地点と思っていたが、キャンプに不向き。
そこから先に少し進むと、もう一つ小さなトレイルヘッドに出る。
昔のTHなのかも知れない。
仮設のような小さなトイレとベンチがあり、地面は土だ。
8時が目前となり、ここで終了。
たった7miだが、出発の“ゆっくり”を考えれば良く歩いた方だろう。
明日の撤収のことを考え、今日はカウボーイキャンプ。
きっと星空も綺麗に違いない。

3人でベンチに座り食事をする。
なんとなく、いつも通りなのだが、いつもと違う雰囲気がある。
ジョーとの別れの寂しさ。明日への緊張。
少しだけ、今日は饒舌になっている気がする。

どんなに陽が長いとはいえ、そろそろ暗くなってくる。
夕飯を食べて寝る頃には、時計の針は10時を回っている。

何度も何回も繰り返す毎日。
出会いと別れ。
思い通りに行かない旅。
そのどれもが変化をしてきている気がする。
わからないことがわかりかけている。
明日。
また明日になれば。

星は瞬く。
その光はずっとずっと昔の光だ。
僕の知っている世界はどれほど小さいのだろう。
僕はどれほど小さいのだろう。
それでもまた明日は歩こう。
歩こう。

Happy Trails!

-"easy"Turtle
by hikersdepot | 2012-01-06 23:35 | PCT2010 | Comments(0)
Belden, CA to Old Station, CA/ Day95 – 98 Hiking Day72 – 75 / 1293.8mi – 1382.8mi(89.0mi)/ Part3
7/28(Wed) Hiking Day75 / 24mi /6: 30am-3: 10pm (8:40) /NB 1383mi
“Go Flat to Old Station”

あっという間の朝。
眠気が強く残っている。
まだ陽が入っていない谷間は全て青みがかって見える。

周りを見てもテントの数は変わっていない。
チャーリー達のことが気にならなくもないが、仕方ない。
準備を整えて出発だ。

ファミリーキャンパー達の視線を感じながら歩き出す。
谷をどんどん上がりつつ谷に沿って歩く。
下にはドレイクスバッドの温泉プールが見える。


上がりきって森の中に入って進む。
比較的アップダウンが無く、フラットな感じで歩ける。
少し下って行くと川にぶつかり、ちょうど良いキャンプサイトが見える。
3張りのテントがあり、立ち止まる。
道がわかりづらいがよく見れば川を渡った先だ。
川を渡らなければいけないが、靴を濡らさず渡れるところはなさそうだ。
一つのテントからハイカーが出てくる。
昨日、Ben と一緒にいたハイカーだ。
もう一つ声が。
Fidget が声をかけて来たので、Turtle だよ、と伝える。

起こしてごめんね、またね、と告げて川を渡る。
川を上流に向かって歩いて行く。
とても歩きやすい緩やかなトレイルが続く。


少しだけ登ると、またフラットなトレイルが続く。
全体的に開けて明るい感じだ。
ペースはほとんど落ちずにどんどん先に進む。
前方に見えてくる湖は、 Twin Lake 。
話し声がするので見ると、キャンプをしているハイカーがいる。
そのまま湖に沿って進むと、またキャンプしている。
景色が綺麗だし、平らなので確かにちょうど良いのだろう。


湖のほとりに降りて水汲みをする。
遠目で見るよりも、岸にはゴミが多く浮いている。
湖なので仕方がないだろう。
それでも貴重な水源には違いない。

反対方向から歩いてくるハイカーと挨拶をして先へと進む。
湖を過ぎてもまだまだフラットな状況は続く。
歩きやすい時はなかなか休憩時を逃してしまう。
休憩しなくても良いが、後が続かない。
長く歩く為には、休憩はとても大事な要素だ。
向こうからまたハイカーが話に盛り上がっていて、声が大きい。
人に多く会うのは人気のエリアだからだろうか。

彼らとすれ違ったのをきっかけにして休むことにする。
倒木に寄り掛かれるように休憩スペースをセッティングする。
風がとても気持ちよい。
結構良いペースで歩いて来ている。
Hui には追いつけるだろうか、いや多分無理だろう。
あの二人も僕には追いつけないだろう。
お腹いっぱいになったら出発だ。

トレイルはずっとずっとフラットなまま進む。
驚くほど何も無く、驚くほど起伏も少ない。
どのようにしてこの辺りが出来たのかは知らない。
しかし、Lassen Volcanic の名前の通り、火山によって成形されたのだろう。
乾燥した砂埃舞うトレイルを先に先にひたすらに歩く。
時間が長くなれば疲れを感じるのだが、フラットで歩きやすい為、休み時を逃す。
それにしても変化に乏しくだだっ広い。
湿地から流れ出る貴重な清水をしっかりと補給し歩き続ける。
今まで以上に広く平らな場所にでる。


見えている限り同じ景色。前も後ろも。
永遠とこの森から抜け出られないような錯覚を覚える。
地図を見てみると、Badger Flat と書いてある。
Badger はアナグマという意味以外に、しつこいことを表す。
しつこい程平坦な場所、ということだろうか。
ここの前から同じように平坦だったし、これはこれでなかなか経験の出来ることではない。

やっとの思いで平坦なエリアを抜けると、久しぶりの起伏が現れる。
ずうっと向こうまで高いものが見えない。
ここをゆっくりと下って行く。


周りは静かで誰もいない。
今日は風もなく穏やかだ。
“ザッ、ザッ”と歩く足音だけがリズムを刻む。
明らかに人工的に作られたジープロードが突然出てくる。

それをいくつか横切って行くと、そろそろお腹が空いてくる。
ちょうど良い木陰で半分横になった状態で昼食を取る。
台地の上が全て僕の“リビング”だ。
時間は2時になろうとしている。
この分なら郵便局には十分間に合うだろう。


通り過ぎた道路の傍にはキャンプグラウンドがある
ここから傾斜はまた無くなり、ブッシュの多いトレイルが続く。
道路を横切り、歩き続ける。
ゴールが近づいている感触があると、急ぎたくなる。
力を振り絞ってラストスパートだ。

ふとハイカー夫婦と出会う。
彼らはデイハイクを楽しんでいるようだが、僕に話しかけてくる。
“この先はどうなっている?道路は近いかい?”
足が悪いようだがゆっくり歩いて楽しんでいるようだ。
上手く説明できなかったが、地図を見せて大体の場所を教えてあげる。
“ありがとう”
なんだろう、こういうふとしたハイカー同士の出会いがとてもうれしい。

乗馬を楽しんでいる人達に出会う。
トレイルにゲートがあるところを見ると、いよいよ街は近そうだ。
だが、今日ははっきりとした印が無く、32N20という道路だけが情報だ。
標識が運良くあれば良いのだが。

まあまあ整備されたジープロードに出る。
おそらくここで良いだろう。
大体、小さいジープロードには標識があるのはわかっている。
見渡すと標識があり、そこには“32N20”と書いてある。
西に向かって5分くらい歩くとHwyにでる。
ここを南に歩いて行くと、Old Station の“街”に着く。

ここも、街と言うよりは集落に近い。
正しくはここより少し北のもう少し大きな集落がOld Stationだ。
しかし、POはこちらにあるのでハイカーはここに用がある。

建物が見えてくる。
手前には小さなストア。
昔はガソリンも売っていたようだが、今は形だけがある。
ストアの前には小さなテーブルとベンチがあり、休憩にちょうど良い。
その隣には小さなPost Officeが立っている。
裏手にはHat Creek Resort がありコテージがあって泊まれるらしい。
今日は泊まる場所を考えていない。
ここのコテージで泊まるのかキャンプするのか。

とりあえず荷物をストアの前に置いて、POに向かう。
POは人が三人入ったら一杯のスペースだ。
声をかけて顔を見せた人は、アジア人に少々驚いているようだ。
僕の荷物をリクエストしている間に脇にあったハイカーレジスターを見てみる。
その中には、すっかり先に行ってしまったハイカー達の名前がある。
みんな元気にしているだろうか。
ガットフックの名前もある。前日に来ているようで、もう会えないだろう。
と、POの扉が開いてガットフックが入ってくる。
“Why!!! Guthook!!”
思わず大きな声が出てしまう。
そっちこそどうして、とガットフックも驚いている。
彼の脇から入って来たのは、小柄な彼よりも大きな女性だった。
彼女は僕にGood Footと名乗る。

ガットフックと一緒の僕よりも大きい女性はトレイルエンジェルだという。
直ぐ近くに“The Heitman”というトレイルエンジェルの家がらしいのだ。
全然知らなかった、というか、あまり考えもしなかった。
ガットフックはそこでZero Day を取り休息していたようだ。
カレは大体お金のかからないTrail Angel の家では積極的にZero を取る。
賢いヤツだ。

一緒に行かないかと言われたが、ストアで買い物をしたいので断る。
とりあえず何か食べたいし、何か飲みたい。
彼女は笑いながら理解してくれる。
“用事が済んだら、ストアから電話してくれれば直ぐに来るから”
と、二人は出て行った。

僕はストアに向かい中に入ってみる。
こじんまりとした店の中は意外と綺麗だ。
品揃えは豊富ではない。
特にハイキングのホットミールに出来るようなものはなさそうだ。
それでも、コールドミールを中心にするのであれば十分。
スナック類は豊富に揃っている。

奥にはスナックコーナーがあり、ハンバーガーが食べられる。
とりあえずメニューを見てみると、ミルクシェイクもある!
コーラも飲みたいし、どうしたら良いんだ!
Oh my gash!
と嘆くほどでもない。
両方いただけば良いのだから。

さすがにハンバーガーはやりすぎの気がするので、タコスにしよう。
それから、チョコレイトシェイクとコーラ。
外のテーブルにざっと広げ、のんびりと午後の陽射しを楽しむ。
チャーリー達はまだだろうか。
どれくらい遅れで歩いているのか。

あっという間に平らげ、またストアの中に。
ちょっとスナックを買い足してから、店員の人に電話をしてもらう。
それから直ぐにGood Foot の車が来る。
よっぽど近いのだろうか。



車に乗り込んでから5分もしないで、“The Heitman”に到着。
母屋の他に、母屋より大きいガレージが見える。
既に何人かのハイカーがいるようだ。
その中には、PCTA(※1)のFreefall がいる。
Kick Off Party にも顔を出している、ちょっとした有名人だ。



Hui もやっぱり先に到着していて、木陰で食料の仕分けをしている。
ひょっとしたら先に行っているかもと思ったが、Trail Angel は外せないらしい。
“いつ出発予定?”とHui に聞くと、“ああ、たぶん、今日の夜かな”と答え。
Good Foot がざっと施設の紹介をしてくれる。
奥に広がる庭には、なんとTree House がある。
ちょっと興奮するなあ。

ガレージにはPC、シャワーと洗濯機がある。
初めて会うPCTハイカーのピクルスという女性がいる。
一人で歩いているというが、真っ黒だ。
PCTハイカーといえ、日焼けを気にする女性が多い中、若いのにすごい。
タオルや着替えも用意してあるので、お言葉に甘えて借りることにする。
このところ頻繁にシャワーを浴びられるので清潔だ。
やっぱり毎日浴びても悪いものではないな。

シャワーのあとは洗濯。それから食料の仕分けをしなければ。
どこでしようか、どこに泊まろうか。
ツリーハウスの前にはテントも張れるし、
室内で寝てしまう手もある。
ツリーハウスの内部を覗くとなかなか良さそうだ。
二段ベッドにはガットフックのものらしき荷物が。
小さなテレビと映画のビデオテープがたくさん置いてある。
ここが良さそうだ。



ツリーハウスの下には椅子とハンモック。
そこで荷物を広げよう。
と、車が入って来たのは新しいハイカーが来たのだろうか。
行ってみると、チャーリーとジョーのご到着だ。
二人とも笑顔で楽しそう。
ミルクシェイクの話をしようとすると、その手には既に握られたカップが。
“もちろんさ”と、したり顔のチャーリー。
お見それしました。

二人が案内されている間に僕は片付けに戻る。
この辺りの区間は意外に食べるところが多く、食料が減らない。
嬉しいことだが困ることでもある。
大分余っているので、ハイカーボックスにと思ったが、
きっとガッツフックもジョーも欲しがるだろう。

ここから次の補給までは4.5日程度か。
しかし、予定ではバーニーフォールでチャーリーの荷物をピックアップ。
そこのストアでもいろいろ食べられるだろう。
ここでも大幅に食料が余りそうだが、その分食べてしまおう。

今日も天気が良くて暖かいが、乾燥しているので木陰は涼しい。
さっきBen とFidget も来て、今日もたくさんのハイカーでにぎやかだ。
おっつけトレイン達も来るだろう。
各自作業も済んで、自由な時間を過ごしている。
ディナーまではまだ時間があるので、のんびりとしよう。

母屋のテラスに座ってみんな話している。
僕もそこに座り話を聞いてみる。
こういったのも英会話の上達につながる。
みんなの話題の一つは、明日越えることになるだろう、Hat Creek Rim。
Rim の意味は縁(へり)だが、自然のリムというと絶壁を有する溝やへりのことを言う。
地図で見てみても異様なほど等高線が密になっている。
それだけ急斜面と言うことだ。
Rim の頂上と下とで300mくらいの高さがあるのだという。
この辺り一帯は火山地帯で地盤がもろく、長い年月をかけて水で削られたのだろう。
大地の記憶というものか。
これがほぼ一日の行程という長さに加え、水が全く無いらしい。
ここをどのようにクリアするのかが問題だ。

それからもう一つの話題は8月の最後の週末に開催される、PCT Days!
しかし、今ここから開催地のCascade Locks の街まではぎりぎりの時間だ。
ほぼ休み無く歩いて、かつ一日25mi平均といったところか。
体への負担をかなり強いなければ厳しい状況だが、諦める必要も無い。
前向きにできる範囲で歩いて行くしか無いさ。

夕飯まではもうしばらくあるらしい。
チャーリーのレンタカー探しを眺めてたり、ガレージで過ごしたり。
Firewood はここHeitman を作った人物。
奥さんはあまり表には出てこないが、彼はとてもFriendly だ。
もともと建築関係の仕事をしていたらしく、だからツリーハウスもお手の物だ。
とても有名な建物も手がけたらしく、チャーリーが驚いていた。

夕食前になって誰かが来たと思ったら、Warner Spring Monty だ。
また会ったというか、一体何者なんだ。
彼は各地に出没してはハイカーをサポートしてくれる素晴らしいトレイルエンジェルだ。
しかし、それにしても出没率が高すぎるのではないだろうか。
もう一人、“Pickles”もKick Offで見かけたTAだ。

Train やSun Seeker も到着したころ、やっと夕食が始まる。
もちろん夕食が出るトレイルエンジェルは普通ではない。
それだけ負担が増えるのだから。
だからこそ、ありがたく感謝しなければ。
また、あとのハイカーの為にドネーションは欠かせない。

トレイルエンジェル達が用意してくれたのは、ブリトーを中心とした料理だ。
“料理を食べる前に手を洗って!”とお母さんみたいなGood Foot。
みんなテラスのテーブルに座り、夕食のスタートだ。
今日は続々とハイカーが集まって、セクションハイカーも加わり、本当に楽しい。
一日の最後の夕食が素晴らしいものになって、幸せだ。
テーブルにあるアルバムにはたくさんのハイカーの写真がある。
顔を撮っとかないと忘れちゃうから、と奥さんが言う。
みんなそれぞれおかわりをするとあっという間に食事は無くなっていく。
今日出て行こうかと言っていたHui も夕食につられ滞在を決めたようだ。

今日はまだまだ時間がある。
明日は早くはない。
Hat Creek Rim を越えるのに早朝から歩くことにしたからだ。
明日はのんびり過ごし、Subway Cave など観光して過ごす。
そのあと、トレイルヘッドまで行ってそこで早めに就寝し、翌早朝出発の予定だ。

チャーリーはレンタカーが見つからず、Dunsmuir からAmtrakで行くことにしたらしい。
ジョーは、兄のダニエルを待つかどうかを悩んでいる。
このまま進んでしまうと、その距離はいつまでも縮まらない。
でも、ジョーは僕達と一緒に進みたいらしい。
“待てないのか”とジョーに聞かれる。
待てるものなら待ちたいが、そうも言ってはいられない。

僕はツリーハウスの中で寝ることにする。
ガットフックは“ネズミに気をつけて”と言う。
食料はしっかりパックライナーに入れて口を締めておこう。
チャーリーとジョーはどこかに寝床を見つけているようだ。
昼間の暖かさが嘘のように冷えてきた。

それぞれの道への別れが近づいている。
でもその先には一人一人の光が見えると信じよう。

※1 Pacific Crest Trail Association の略

-"easy"Turtle

by hikersdepot | 2011-12-07 22:50 | PCT2010 | Comments(0)