「ほっ」と。キャンペーン
Dinsmore’s to Stehekin, WA/ Day149– 153/ Hiking Day119- 123/ 2476.6mi- 2574.4mi/ 97.8mi/①
9/17(Fri) Hiking Day119/ 18mi/ 9:40am- 6:30pm (8:50) /NB 2494mi
9 days left!
“Decide”

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 昨日はほとんど降っていなかった雨は遅くから本降りになっていたが、目覚めてみると止んでいて空には晴れ間も広がる。雨が降っている覚悟を決めていたのでうれしいことだ。妻に電話をするとたまたま自分の実家にいて、母の声を久しぶりに聞く。聞き慣れた、聞かなくても忘れようの無い高い声。ぐっと懐かしさが胸を襲う。

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 急いで出ることもないので、朝食を食べてから行くことにする。ストアに向かうと、昨日の夕方の嫌な女性ではなかったので一安心。今日も大好きなパンケーキと卵とベーコン。本当はパテソーセージなら完璧だ。腹を壊すんじゃないかというくらいたくさん食べる。食べ過ぎだとしても食べる。みんなとの楽しい朝食。しかし、Uncle Tom とGeneral Leeはきっとこれが最後だろうと言って僕の連絡先を聞いてくる。僕も察していたが、どこかこれがまだ続くような錯覚がある。早く終わりたいような、でもずっとこのまま続いて欲しいような。

 レインウェアをシアトルまで買いに行きたいと言っていたブラックはDinsmore夫妻がシアトルに行ってくれるご近所さんを探してくれたらしく、戻ってくることもできるようになったらしい。
“あまり軽いものは売っていないと思うけど、安いのは手に入るよ”
“うん。それに期待しているよ”
とにかく彼が旅を続けられるようになり僕もほっとする。お互い最後まで気をつけて行こうと声をかけ合う。

 ほかのみんなはZeroDay。みんなに別れを告げて1人出発する。
“さぁ、国境までの残り。一人でも、天気が悪くても、歩き続けよう!”
そう小さくつぶやいて出発。ストアの前でヒッチハイクをする。さて、どれくらいでつかまるだろうか。

 ところが、予想と期待に反してあっさりと車が止まる。小さい、ジムニーの様な、ジープ型の車だ。乗っている人は白人でちょっと痩せ過ぎが気になるような人だった。でも、なんとなく悪い人のような気もしないし、
“どこまで行きたいんだい?”
と言った言葉で心が決まる。彼は遠くモンタナから仕事の為にワシントン州へ来ていると言う。娘と奥さんを残して来ているのだが、これから一時帰宅するという。とても長い旅だ。その旅の道連れができると思って乗せてくれたのだろうか。短い間だけれど、少しでも気晴らしになればと思う。
“どこから歩いて来たの?”
この質問に、おそらく彼はPCTを知らないだろうと思って、メキシコ国境から、と言ったあとに彼からの新たな質問が来る前に話し続ける。信じられないな、と良いながらもとても興味を持ったような目を僕に向けてくる。Skykomishを過ぎるとき、見慣れた3人が立っているのが見える。Guthook、Tangent、Tickだ。
“彼らも同じかな?”
“うん、そうだよ。ぼくの仲間さ。”
あの3人もゼロを取らずに今日出発なのだな。楽しい時間はあっという間に過ぎて、Stevens Passへ到着。ヒッチハイクに慣れて来た僕は礼儀として、
“いくらかな?”
問いかけると、
“そんなものいらないよ。気をつけて、旅を続けて!”
そう声をかけてくれた。
“あなたも!”

 歩き出す前にストレッチなど準備をする。その間にガットフックたちも到着する。彼らも結構スムーズにヒッチハイクができたようだ。
“やあ。悪くない天気だね。”
“そうだね。このまま保ってくれれば良いけどな。”

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 しばらくは平凡なトレイルを進む。いかにもTH近くのトレイルという雰囲気だ。出発前に妻にもう一度電話をして元気をもらったはずなのにどうも気分が乗らない。3人はスタスタと早いペースで行ってしまう。マイペース、マイペースさ。と、その3人がさっそく立ち止まっている。どうやらデイハイカーと話しているらしい。傍らには大人しくしている犬が一匹。もし、犬連れでPCTを歩けたら楽しいだろうか。面倒もありそうだけれど、寂しくはなさそうだ。

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 しばらくは雨が降らないで歩けたのだが、昼には空はあっという間に厚い雲に覆われてくる。そしてパラパラと雨。予想通りということだけれど、やはり雨になると心は落ちてくる。写真も撮ることも忘れ、心に余裕の無いまま歩き続ける。

 ちょっと休憩する。いつの間にかペース復活で3人よりも先に来ている。雨もまだひどくないので、丸太に腰を下ろして休んでいるとガットフックが1人やってくる。
“やあ。”
“やあ。”
彼とも長い付き合いになったもんだ。密な時間を過ごしているのはチャーリーだけれど、ガットフックとは時々追い越したり追い抜かれたり、でここまで来ている。
“タートル。もし君さえ良かったら一緒に歩かないか?”
唐突に彼が言う。
“キックオフパーティの2日後に会ったから、まだ100mi歩く前だよ。その時に会っていたハイカーとこうしてまた会えているなんてすごい事だと思わないか。だから、一緒に歩かないか。”
また誘われている。もう最後まで1人かな、と思っていただけに意外だし、うれしくもあるけれど、驚きでもある。なんだろう。結局ボクはこういうことなんだ。自分で意識してないけれど、誘いやすいのかな。なに一つ思い通りにいかない。もちろん、一つ一つは自分の選択だ。けれどそのどれもボクが思い描いていたものとは違う。こうしたい、ああしたい。そのほとんどが叶わない。人の誘いを断る勇気もない。流れて行く自分。でもその中で生きていくのが僕という人と成りなのだろう。それでも良いさ。見えるけど掴めない雲のように、感じるけど見ることのできない風のように、掴めるけど留めておけない川の流れのように生きていくのも悪くない。たくさん蛇行して行こう。時に乗り越え、回り道をして行こう。一つ一つは自分の意志でも、抗えない流れの中で生きていこう。これが僕の旅。僕の生き方。僕の人生。どこに流れ着くのだろう。楽しみでもあり、ものすごく不安でもある。でも流れている。流れていく。留まることの無い、掴めない、見えない、強い流れの中で。
“ガットフック。ありがとう。一緒に行こう。”

 3:00pm頃からは雨となる。気温自体はそれなりに高いので寒くは無いのが良かった。これくらいの雨ならばもらったレインカバーも十分働いてくれる。ありがたい。その後雨は本降りになってくる。写真を撮る余裕もない。ここまでしっかり雨に降られるのは久しぶりだ。景色を見る余裕も無い。樹林帯をひたすらに歩き続けるだけ。

 なんとか今日のキャンプを予定していた、Pear Lake。きっと上からみたら洋梨の形に見えるのだろうけど、そんな余裕あるわけない。各自良さそうな場所にテントを立てる。テンジンとティックはタープとビヴィの組み合わせ。風を避けられる場所やロープを張る場所に苦労している。この風と雨じゃあ、さすがに大変そうだ。PCTを通して考えれば、ほとんどタープでも事足りるだろうが、今年みたいに天気が不安定で寒い年では辛そうだ。とはいえ何とかなるから彼らはここにいるのだから、人間の慣れって怖い。かく言う僕のテントも一般的に見れば決して褒められたもんじゃないんだろうね。

 外はびしょ濡れ。中は結露でびしょ濡れ。こういう毎日ももう少しで終わるのだな。さて一日を楽しんでいきましょう。でもやっぱり、この雨は辛いな。朝には止んでいることを祈る。



9/18(Sat) Hiking Day120/ 26mi/ 7:00am- 6:40pm (11:40) /NB 2520mi
8 days left!!
“Lull”

 雨は止まずに朝を迎える。そんなもんだ。濃い霧の中スタートする。時間は7:00amだけれど明るさがまだ完全ではない。明るくなり始める時間が遅い気がする。日暮れも早まっているようだし、どんどん秋が来ているのだ。いやもう秋か。

 昨日ほどの降り方ではないので助かるが、気温が高めのようでレインウェアを着ていると暑い。けれど脱いだら濡れてしまうだろう。雨はそれほどでも無いのにブッシュが多いため、それに付いた露で濡れてしまう。ハイキングパンツは早々にぐっしょりとなり、中まで染みてきてしまう。

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 昨日と違い見渡しがきくので雨でも楽しい。それに変化に富んでいるのでなおさらだ。しばし登りが続き、大きく下った後にまた登りにさしかかる。その頃には雨が止み始める。陽射しもさして来たのがうれしい。雲が取りきれることは無さそうだが、それでも雨と比べればずいぶん助かる。

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 雲の中から覗く頂。あれはなんだろう。
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 途中からは標高をあまり変えずに進む山肌のトラバース道に変わり一気に歩きやすさが増す。久しぶりの歩いていて楽しい道。きっとここなら怖がりの妻でも喜んで歩いてくれるだろうな。ここまで来るのは簡単じゃないけれど。

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 Indian Creek TRの分岐に着く頃には陽射しがはっきりとしてくる。4人ともここで一休み。ここは少し開けていてキャンプするにも良さそうな場所だ。
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雨具を脱いで、乾かす。ついでにびしょ濡れのテントも乾かすが、気温が低いのと、陽射しが続かないせいでなかなか乾かない。バックパックの上にくくり付けそのまま歩くことにしよう。歩くと風も起きるから余計に乾きやすいだろう。ここの道標には一枚の注意書きがある。ここから先に橋が流出し渡れない川があるから迂回することを勧めるものだ。しかしその川には丸太がかかっていてそこを渡れるらしい。多くのPCTハイカーは勧告を知りながらもPCTを進むという。かく言う僕らもだが。

 その後も快適なトレイルは続く。とても気持ちが良い。相変わらず空に雲が多いのだけれど、空を見る限りすぐに雨になりそうにはない。安心して楽しもう。稜線に沿った道は紅葉が少しずつ始まっている。
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 気持ち良く歩いていると前方のトレイルの上に何やら不思議なものが。近づいていくとそれが立っているマーモットだと分かる。そう思うと周りから良く聞こえてくる動物の鳴き声はこのマーモット達だと気づく。近づくと、さっと身を隠す。ところが隠れたそれはトレイルに沿っていて、おそらくは自ら作った巣穴なのだが、あまりにも発見されやすくはないか。確かに陽当たりも良く出入りもしやすいのだろうけれど。それだけ普段歩くハイカーが少ないのかも知れないな。巣穴を覗いてみると、お尻だけ微妙に見えている。頭隠して尻隠さず、とは言ったものだ。

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 素晴らしい景色とマーモットに囲まれながら進んでいく。そして少しずつ山容が変わり、大きく雄大に広がってくる。


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 Red Passからは稜線を離れ、明らかに雪によって削られてできた、滑りやすそうな斜度の、大きなカールの谷を進む。そこをゆっくりと下って行く。
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 やや斜面をトラバースして谷に沿ってカーブをしていった先には大きな、それは大きなピークがそびえている。雲が上がってきたお陰で見えたのだ。あれがGlacier Peak。
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 一年中雪を頂く山。雄々しく僕らにその勇姿をやっと見せてくれる。おもわず4人で興奮して写真を撮ってしまう。お互い撮り合ったり。自分の旅だと自分の写真は本当に少ない。せっかくだから撮ってもらうことにしよう。
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 その後もグレイシャーピークは姿を見せ続けてくれる。空に浮かぶ雲も垂れること無くなんとか保っていてくれている。
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 大きい深い谷をずっとずっと下っていく。時間は午後6時を過ぎていく。そろそろ今日もキャンプする場所を見つける時間だ。ちょうど下りきった辺り、Baekos Creekの橋を渡る。その先に少しだけ平らな場所を見つける。この辺りが納めどころのようだ。

 クリークの水はSilty な状態。Siltは砂よりも小さく粘土よりも大きい細かい鉱物が砕かれたもの。それが水に混ざっている。言ってしまえば泥みたいなものだ。身体には、良いわけではないだろう。だけど、これしかなければこれを飲む他ない。バンダナで2回ほど漉してみるが効果のほどは見られない。そりゃもっともです。フィルタータイプの浄水器を持っているが、これにSiltyな水を通したら一発でフィルターの目が詰まる。経験済みだ。浄水剤だけ、気休めに入れて使うことにする。

 木々の下で焚き木を集めて焚き火をすることに。本当はファイヤーサークルが無ければだめなのだが、ティックとテンジンが濡れたものを乾かしたいと言う。彼らはタープだから、ビヴィなしのテンジンは僕以上にひどく濡れているのだろう。後片付けだけはしっかりやることを決めて焚き火をしよう。火は本当に暖かい。身体の芯を暖めてくれる。それに微妙に濡れた服がどんどん乾いていく。結局ほとんど濡れずに今日は歩けたし、景色も素晴らしかった。あれだけ濡れたテントもなんとか乾いた。このままなんとか保って欲しいと願う。

 しかしパラパラと雨は降り出す。さすがに毎日の雨にうんざり。ワシントンに入ってからというもの2日間連続でまともに晴れた日が無い。なんとかこのまま小降りの状態でいてほしい。

 願いは叶わずに、午後9時過ぎからはしっかりと降ってくる。明日はどんな一日になるのだろうか。今日の様な一日を願うが、僕の願いは叶わないのが僕のセオリーだ。


9/19(Sun) Hiking Day121/ 23mi/ 6:50am- 7:00pm (12:10) /NB 2543mi
7 days left!!!
“Twist”

 雨が小降りの朝。願いは届いたような届いていないような。昨日乾かしたって、結局は濡れてしまったテントを素早く撤収し出発だ。

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 ワシントンの自然はカリフォルニアやオレゴンとは違い、多くの湿気を帯びているせいかシダ類や苔も多い。ところが、今日からさらにその苔の多さや大きさに変化が見られる。本当に豊かさを感じる森だ。その薄暗いしっとりとした森の中を歩いていく。

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 この辺りの川はどこもSilty な状態だ。きっとGlacier によって削られそれが水に溶けているのだろう。そしてこの辺りの川は嵐になると猛威をふるうことは間違いなさそうだ。目の前にある橋もなんとか渡れるものの、真ん中から真っ二つだ。

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 昨日と同様に雨が落ち着いてきて陽射しがさしてくる。きっと今日も回復してくれるに違いない。削られた大きな谷がずっと遠くまで続いている。

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 色づいた山の中に積極的に飛ばない鳥がいる。こんなに近づいているのに飛ばない鳥。山の鳥で心当たりがあるのはGrouse(らい鳥)だ。そういえば以前もどこかで見たな。どこだったろうか。いや、見たような、見ていないような。


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 昨日よりも雲は濃く、ガスはたれ込めている。雨も止みそうで止まず、時折降ってくる。強く降らなければ良いけれど。今日の雲は重さに耐えられなさそうだ。歩きやすい稜線に沿った道を歩いていく。ちょうどこの東側にはGlacier Peakがあるので、天気が良ければもっと美しい景色があるのかも知れない。でもこの程度の天気で済んでくれていることを感謝しなくちゃいけないのかもな。

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 下に見えるジグザグ道。長く遠いスイッチバックだ。


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 なんとか、雨にもひどく降られないままMica Lake へ到着。とても美しい景色で気持ちが良いのでここで休憩する。陽射しも少し差しているのでみんなテントなど広げて乾かしている。池に水を汲みにいく。このまま一日が終わってくれれば良いな。食事をして一服。すると、また雨がパラパラと。またすぐに止むと思っていたら、どうやらそうでは無いらしい。降りが強まってくる。急いで出発の準備をして歩き出す。

 雨が強く降り出す。これはどうやら本降りにとうとうなったようだな。覚悟を決めて谷底に向かって下っていく。とても長い下り道をずっとずっと下りていく。長くてうんざりするが、天気が良かったらさほどかも知れない。一度下りきった後今度は急斜面をスイッチバックしながら登っていく。とてもブッシュが多く、雨はさほどでもないのに身体をどんどん濡らしていく。着ている雨具の中は汗でぐっしょり。もう全てずぶ濡れの状態になる。いったい何回切り返したのかわからないほどジグザグな道だ。標高が上がってきたせいだけでは説明ができないほど気温が低くなってきている。登りで身体も熱を出しているはずなのに身体が温まらなくなってくる。


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 ギャップを乗り越すと景色は開ける。Glacier Peak の山肌を通っていく。とても気持ちの良い雰囲気なのだが、止まると寒くてしかたない。自分でも珍しいくらい寒い。末端は冷えにくい方だが、手がとても冷たいのが良く分かる。グローブもしているが、それもあまり意味がないほどだ。一瞬、霧が取れて、またすぐに霧に巻かれる。ガットフックは見えないくらい前方に、テンジンとティックは見えないくらい後方にいる。しかし気を使うゆとりはない。きっとみんなも同様だろう。

 晴れていたら休憩したいくらい開放感のあるキャンプサイトがある。Dolly Vista Trail Campだろう。一本ある大きな木の下でも雨は防ぎようないが、その下でちょっと休む。着られるものを着込んで、とはいえろくなものはない。ダウンジャケットを着たいくらいだが、夜のことを考えると濡らしたくない。震える手で行動食を食べ、震える身体を抑えつつまた歩き出す。時間は午後6時になろうとしている。とにかくガットフックを追おう。

 まだ雨が小降りになっていることが救い。急斜面を細かくジグザグに下っていく。辛い。身体の冷えは体力を急速に奪っていっているのが良く分かる。とにかくひたすらに下る。トレイルは非常にマッディになりずるずると滑り足を取られ、余計に体力を消耗していく。脳が動いていないのが良く分かる。疲れのピークなのだ。しかし、休めない。寒い。

 斜度が少し緩んだ。周りはだいぶ暗くなって来ている。ぼおっとする。その次、右足が地面を踏むはずなのに、そこには何も無い。地面の上に足がない。疲れていてトレイルをちゃんと見ていなかったのだろう。でもいままで、こんなこと無いのに、でも今がそうなのだ。
“うおっ!”
なんだかよくわからないけれど声を出している。どんな状態で地面を蹴ったのだろう。身体が斜めになりながら、斜面を蹴ったのだろう。いつの間にか体は一回転をして進行方向とは逆を向いて片膝をついている。心臓がものすごく強く鼓動をうつ。
“どっ!、、、、、どっ!”
たしかに崖から落ちそうになったはずだ。道を踏み外したはずだ。でも今はトレイルの上に、まだ、立っている。良かった。本当に危ない所だ。

 頭がスッキリするどころか一層思考が止まる。ただ歩いて下る。今朝決めていたより一つ手前のキャンプサイトにガットフックのテントが立っている。様子からするとだいぶ前についていたらしい。明るさはギリギリ。声をかけるが、外に顔を見せる様子もない。彼も相当疲れているのだろう。僕も自分のテントをすぐに張り潜り込む。

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 全てずぶ濡れ、どうにもならないほどずぶ濡れだ。冷えた体は食事をして少し回復する。この長旅で初めて撮った調理中の写真。ぼくにとっては生活だから写真を撮ることもなかったが、無性に撮りたくなる。

 行動中は食べている時間も無かったので、それも冷えや疲れと直結している原因だろう。でもあの時は余裕を失っていたのだ。食事を食べ終えたころテンジンとティックが到着。もう暗くなっていたし、来ないかと思っていたのだが、途中食事をしてから下りてきたのかも知れない。

 服を脱げば良かった、と後悔は遅い。後悔は常に先にたたずだ。考えもせずいつものように濡れた服のまま寝袋に入ってしまう。しかしいつも以上に濡れていたのだから当然だが、夜中寝袋がぺしゃんこになっているのに気づく。時すでに遅し。とにかく寒さに耐え震えながら寝る。ここまでの長旅でこんな辛い日があったろうか。まだ学ぶことは多い、そのことを痛切に思う。
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by hikersdepot | 2013-05-10 23:38 | PCT 2010 by Turtle


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